センチュリオン巡航戦車 (A41)
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+概要
ドイツ軍は新型重戦車ティーガーを1942年8月に東部戦線で初めて実戦投入し、続いて同年11月8日に開始された「松明作戦」(Operation
Torch)においてアフリカ北西岸に上陸後、チュニジアを目指して侵攻する連合軍を撃退すべく、同月中にティーガー重戦車を北アフリカ戦線に送り込んだ。
ティーガー重戦車は8.8cm高射砲FlaK36を原型とする強力な56口径8.8cm戦車砲KwK36を搭載し、最大装甲厚100mm以上という出現当時紛れも無く世界最強の戦車であった。
チュニジアでティーガー重戦車と遭遇したイギリス軍は、大きな衝撃を受けることになる。
2ポンド(40mm)戦車砲や6ポンド(57mm)戦車砲を装備する当時のイギリス製戦車はもちろんのこと、アメリカから供与されたM4中戦車が装備する75mm戦車砲M3でさえ、ティーガー重戦車には全く歯が立たなかったのである。
しかも近い将来予定されているヨーロッパ大陸への反攻作戦では、より大量のティーガー重戦車やさらに強力なドイツ軍戦車との対決が予想されることから、火力・防御力面でのギャップを埋めるための新型戦車の開発が早急に求められた。
こうした情勢下、1943年7月よりイギリスの戦車開発者たちと戦車部隊指揮官たちの意見交換の場が、ロンドン西方のサリー州チョーバムにあるFVRDE(Fighting
Vehicles Research and Development Establishment:戦闘車両研究・開発局)において断続的に持たれた。
同年8月まで継続された会議では武装強化を最重点とする重巡航戦車と、これに装甲防御力の強化を盛り込んだ重歩兵戦車の2種類の新型戦車の開発が必要との結論に達した。
これらは後に前者がA41「センチュリオン」(Centurion:古代ローマ軍の百人隊長)重巡航戦車、後者がA43「ブラック・プリンス」(Black
Prince:黒太子)重歩兵戦車として実用化されることになる。
A41重巡航戦車の開発は、ロンドンバスのメーカーとして有名なサウソールのAEC社(Associated Equipment Company:関連機器会社)が担当することになった。
チョーバムでの会議の検討事項を基に、イギリス戦争省戦車委員会がまとめたA41重巡航戦車の設計仕様項目は、それまでのイギリス軍戦車兵たちの戦場での苦闘の教訓を踏まえたものであった。
それら仕様項目とその具体化の方向は、以下の通りである。
1.高い信頼性
既存の技術力の到達点を駆使した信頼性の高さが要求された。
これは、故障が多く信頼性が振るわなかったクルセイダー巡航戦車等の苦い経験が背景にある。
2.3,000マイル(約5,000km)以上の連続運航が可能な耐久能力
上記の項目とも関連するが、それまでイギリス軍戦車部隊が経験した北アフリカ等の戦場では整備支援の不充分な状況で長期間戦い続けねばならず、特に連続した機動後も支障無く戦闘力を発揮できるかどうかが勝敗の帰趨を左右した事実を教訓として提起された項目である。
3.40t以内の重量と10フィート6インチ(3.19m)以内の車体幅
アメリカのM4中戦車が体現した「重量30t、75mm砲クラスの主砲」という第2次大戦標準型の戦車を凌駕したティーガー重戦車に対抗できるものにするためには、40t近い重量は最低限見込まなければならないとされた。
それでもイギリスの鉄道輸送規格等を無視する訳にはいかず、こうした数値が示されたのである。
結局のところ要求性能を犠牲にすることはできないため、実用型では約50t前後の重量、3.4mの車体幅にまで膨らむことになった。
4.ドイツ軍の8.8cm高射砲を上回る装甲貫徹力を持つと共に、歩兵支援戦闘で充分な威力を発揮できる高性能
榴弾を発射できる主砲の搭載
これは、第2次世界大戦初期のイギリス製戦車が搭載した2ポンド戦車砲に徹甲弾しか用意されておらず、せっかく強固な防御力を誇ったマティルダ歩兵戦車などが肝心の歩兵支援戦闘でもろくに威力を発揮できず、北アフリカの戦闘で8.8cm高射砲による対戦車射撃によって次々に血祭りに上げられた等の、痛切な教訓を踏まえたものである。
当座は、イギリスが対戦車砲の決定版として完成させた17ポンド(76.2mm)対戦車砲の搭載が予定された。
5.ドイツ軍の8.8cm高射砲に耐えられる装甲防御力
参考品として入手したソ連軍のT-34中戦車から学んで車体前面に傾斜装甲を採用し、重量増大を抑えつつ中射程以上での8.8cm高射砲の直射に耐えることを狙った。
従来のイギリス製戦車の、直立した鋼板を組み合わせたデザインを脱却する画期的な方向である。
また実戦の教訓から車体底面を爆発の衝撃に強い船底型のデザインとし、対戦車地雷での損失低減を図った。
6.速度・機動性能
チャーチル歩兵戦車で有効性が実証された、ハダーズフィールドのデイヴィッド・ブラウン社製のメリット・ブラウン変速・操向機(前進5段/後進2段)と、ダービーのロールズ・ロイス社製の「マーリン」(Merlin:コチョウゲンボウ)航空機用ガソリン・エンジンの車載型である、「ミーティア」(Meteor:流星)V型12気筒液冷ガソリン・エンジン(出力600hp)を組み合わせ、それまでの巡航戦車に採用されたクリスティー式サスペンションに代えて、重巡航戦車用として新たに開発されたホルストマン式サスペンションを採用した。
これら信頼性に富むシステムに幅広な高マンガン鋼精密鋳造履帯を組み合わせ、敢えて路上速度を重視せず、特に路外・荒地での安定した走行性能を追及するものとされた。
これは北アフリカ戦線で鈍速ながらも優れた路外踏破性能を発揮した、チャーチル歩兵戦車の活躍の教訓を踏まえたものである。
7.余裕ある戦闘室容積
上記の3のように、未だ鉄道輸送等の寸法・重量限界に拘束されていたが可能な限り設計寸法に余裕を持たせ、今後の改良や乗員のスムーズな戦闘動作を保証しようとした。
この余裕がセンチュリオン戦車の後の成功に繋がる要素の1つで、主砲の換装やパワートレイン交換等の大改修を可能にし、結果として本車を息の長い戦車とすることになった。
詳細な仕様検討の後、1943年11月に戦車委員会はA41重巡航戦車のアウトラインをまとめ、翌44年2月に最終仕様書を作成した。
そして、1944年5月にはAEC社がA41重巡航戦車の実物大モックアップを完成させ、同年9月に増加試作車20両が発注された。
1945年1月にA41重巡航戦車の最初の6両の増加試作車が完成し(3両が王立造兵廠ウーリッジ工場製、もう3両が同ノッティンガム工場製)、オランダ〜ベルギー方面から北ドイツヘの侵攻を図っていたイギリス第21軍集団に所属する、第7機甲師団第22機甲旅団の第5戦車連隊に配属された。
これら6両のA41重巡航戦車は1945年5月初めにベルギーに渡ったが、直後の5月8日にドイツが無条件降伏したために実戦テストの機会は失われてしまった。
しかし各種の運用試験が実戦経験豊富な部隊で実施されたのは意義あることで、改良を施すべき大小の問題点が浮かび上がり、その後の生産型の開発に活かされていくこととなった。
残りの14両の増加試作車も順次完成したが、実用試験を行いながら製造したこともあって武装形態の違い(主砲の種類および副武装の組み合わせ:主砲は58.3口径17ポンド戦車砲およびその短砲身化・軽量化型である50口径77mm戦車砲HVの2種、副武装は72.5口径20mmポールステン機関砲と7.92mmベサ機関銃の各種組み合わせのヴァリエーション)や、砲塔の小改造等の違いが数両ずつある。
以下に、それぞれの増加試作車の特徴を記す。
・第1〜第10号車
17ポンド戦車砲と20mmポールステン機関砲各1門を、砲塔前部のそれぞれ独立したマウントに搭載。
砲塔後部に円形の脱出用ハッチを装備。
・第11〜第15号車
17ポンド戦車砲と7.92mmベサ機関銃各1門を、砲塔前部のそれぞれ独立したマウントに搭載。
砲塔後部に円形の脱出用ハッチを装備。
・第16〜第18号車
77mm戦車砲HV 1門を砲塔防盾に、7.92mmベサ機関銃1門を砲塔後部マウントに搭載。
・第19、第20号車
77mm戦車砲HVと7.92mmベサ機関銃各1門を、砲塔前部のそれぞれ独立したマウントに搭載。
砲塔後部に円形の脱出用ハッチを装備。
これら増加試作車の共通した特徴は、コメット巡航戦車と同様な鋳造製の砲塔前部および防盾部と、圧延鋼板の溶接組み立ての側/後面部を組み合わせた砲塔を搭載しており、砲塔前面には主砲とは独立した副武装用のマウント(20mm機関砲か7.92mm機関銃を搭載)を持っていた点である。
この増加試作車の製作と試験運用を経て1945年中により装甲厚を強化し、全鋳造砲塔を採用した最初の生産型であるセンチュリオンMk.Iが100両発注された(1946〜47年にかけて生産)。
イギリス初の戦後型戦車の、本格的な量産開始であった。
センチュリオンMk.Iの武装は増加試作車の第1〜第10号車と同様で、17ポンド戦車砲Mk.VIIと20mmポールステン機関砲を砲塔前部に、7.92mmベサ機関銃を砲塔後部のボールマウント式銃架に搭載していた。
なおこのセンチュリオンMk.Iから、それまでの「重巡航戦車」(Heavy Cruiser Tank)という車種呼称に代えて「中戦車」(Medium
Tank)という呼称が用いられるようになった。
このMk.I以降センチュリオン戦車は生産型、改修型を合わせてMk.II〜Mk.13の多くの型式が登場し、各型合計で4,423両が生産され、1970年代末まで後継のチーフテン戦車と共にイギリス陸軍戦車部隊の主力MBTの座を担い続けた。
またセンチュリオン戦車シリーズはオランダ、スイス、イスラエル、南アフリカなど世界18カ国に輸出されており、様々な改良を施して現在も9カ国で使用が続けられている。
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<センチュリオンMk.I中戦車>
全長: 8.839m
車体長: 7.557m
全幅: 3.353m
全高: 2.921m
全備重量: 48.77t
乗員: 4名
エンジン: ロールズ・ロイス ミーティアMk.IVA 4ストロークV型12気筒液冷ガソリン
最大出力: 600hp/2,550rpm
最大速度: 34.3km/h
航続距離: 96.5km
武装: 58.3口径17ポンド戦車砲Mk.VII×1 (70発)
72.5口径20mmポールステン機関砲×1 (960発)
7.92mmベサMk.VIII機関銃×1 (3,375発)
装甲厚: 17〜121mm
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兵器諸元(センチュリオンMk.I中戦車)
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<参考文献>
・「パンツァー2016年9月号 戦車対決シリーズ 五式中戦車 vs センチュリオンMk.I」 久米幸雄 著 アルゴノー
ト社
・「パンツァー2007年4月号 センチュリオンの発展とショトへの変身」 竹内修/白石光 共著 アルゴノート社
・「パンツァー2019年5月号 未遂に終わった新旧戦車開発思想の激突」 宮永忠将 著 アルゴノート社
・「パンツァー2000年8月号 センチュリオン戦車の開発・構造・発展」 古是三春 著 アルゴノート社
・「パンツァー2000年12月号 センチュリオンとそのファミリー車輌」 真出好一 著 アルゴノート社
・「パンツァー2012年9月号 センチュリオンのパイロットモデル」 川井幸雄 著 アルゴノート社
・「パンツァー2013年2月号 17ポンド砲とその搭載車輌」 久米幸雄 著 アルゴノート社
・「パンツァー2010年5月号 ラッチュ・ブムと17ポンド砲」 坂本雅之 著 アルゴノート社
・「グランドパワー2006年7月号 センチュリオン戦車(1) 開発と基本構造」 古是三春 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2020年8月号 イギリス巡航戦車発達史」 齋木伸生 著 ガリレオ出版
・「世界の戦車(1) 第1次〜第2次世界大戦編」 ガリレオ出版
・「第2次大戦 イギリス・アメリカ軍戦車」 デルタ出版
・「世界の戦車 1915〜1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著 大日本絵画
・「決定版 世界の最強兵器FILE」 おちあい熊一 著 学研
・「戦車名鑑 1939〜45」 コーエー
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