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9K35ストレラ10対空ミサイル・システム





NATOコードネームでSA-13「ゴーファー」(Gopher:ジリス、ホリネズミ)と呼ばれる、連隊自走対空ロケット・システム9K35「ストレラ(Strela:矢)10」は、1960年代に開発されたBRDM-2装輪式装甲偵察車ベースの連隊自走対空ロケット・システム9K31「ストレラ1」の後継車両として1969年に開発が下令され、1977年より実戦配備が開始された低空・短距離用対空ミサイル・システムである。

本システムの存在が西側で初めて紹介されたのは1980年であるが、これはアフリカのチャドとアンゴラの戦闘地域内で西側の軍が捕獲し、その後分析のために西側諜報機関に提供されたことによる。
「ストレラ」対空ミサイル・シリーズは機甲部隊や要地上空の低空域での防空自衛用に、赤外線ホーミング式小型対空ミサイルを発射できる自走発射機として開発されたものである。

「ストレラ10」対空ミサイル・システムで使われる9M37対空ミサイルは、単純な赤外線ホーミング式だった「ストレラ1」対空ミサイル・システムの9M31対空ミサイルと比べ、チャフや各種ジャマーに対応できるようサーマル(熱温度差識別)式の目標識別システムと、簡易誘導レーダー・システムやTVモニター式誘導装置など各種誘導装置を重層した、より高度なシステムを付加したものとなっている。

自走発射機はMT-LB装軌式装甲輸送・牽引車をベースにしたもので、ほぼ同型ながら電波誘導照準装置付きの全周旋回式ミサイル・ターレットを持つ9A35自走発射機と、電波誘導照準装置無しのミサイル・ターレットを持つ9A34自走発射機の2種がある。
両型は混成して小隊を構成するようになっており、1個小隊には9A35自走発射機が1両と9A34自走発射機が3両、それに指揮官用装甲車(BTR-60装輪式装甲兵員輸送車ベースのBTR-60PU-12等)が配属される。

そして誘導バックアップ・システムを持つ9A35自走発射機が、それを持たない9A34自走発射機のミサイルをも必要な場合にサポートする仕組みになっている。
9A35ならびに9A34自走発射機はミサイル・ターレットにコンテナごと4発の9M37対空ミサイルか、その改良型である9M37M、もしくは9M333対空ミサイルを通常搭載する。

9M37/9M37M対空ミサイルは全長2.19mで発射重量は39.5kg、有効射高は10〜3,000m、有効射程は800〜5,000mである。
9M333対空ミサイルは発射重量が42kgで、有効射程が200〜5,000mとなっている。

自走発射機の車体内部には8発の予備ミサイルが搭載され、その内の4発は旧型の9M31対空ミサイルとされているが、これは迎撃目標が本格的な妨害装置を持たない場合での使用を考えてのことで、本システムは新旧両型のミサイルの発射を可能とすることで、多機能を持つ高価なミサイルによるオーバー・キル効果を防ごうとしている。

現在、ロシア軍の戦車連隊および自動車化狙撃連隊には「ストレラ10」対空ミサイル・システムで構成される1個小隊と、2K22「ツングースカ」自走対空システム装備の1個小隊から成る対空ミサイル砲兵中隊が配備されることになっている。
また本システムはチェコのような旧ワルシャワ条約機構諸国の他、アフガニスタンやアンゴラ、シリア、リビアなどにも供与されており、イラク軍も1991年の湾岸戦争で使用している。


<9A35自走発射機>

全長:    6.60m
全幅:    2.85m
全高:    3.80m
全備重量: 12.3t
乗員:    3名
エンジン:  YaMZ-238V 4ストロークV型8気筒液冷ディーゼル
最大出力: 240hp/2,100rpm
最大速度: 61.5km/h(浮航 6km/h)
航続距離: 500km
武装:    9M37対空ミサイル4連装発射機×1 (12発)
装甲厚:   7mm


<9M37/9M37M対空ミサイル>

全長:       2.19m
直径:       0.12m
翼幅:       0.40m
発射重量:    39.5kg
弾頭重量:    2.7kg
誘導方式:    パッシブ赤外線
最大飛翔速度: マッハ2.0
有効射程:    800〜5,000m
有効射高:    10〜3,000m


<9M333対空ミサイル>

全長:       2.19m
直径:       0.12m
翼幅:       0.40m
発射重量:    42kg
弾頭重量:    2.7kg
誘導方式:    パッシブ赤外線
最大飛翔速度: マッハ2.0
有効射程:    200〜5,000m
有効射高:    10〜3,000m


<参考文献>

・「パンツァー2013年5月号 旧ソ連時代から使われる汎用装甲車輌 MT-LB」 柘植優介 著  アルゴノート社
・「パンツァー2002年6月号 ソ連・ロシア ロケット/ミサイル車輌史(5)」 古是三春 著  アルゴノート社
・「パンツァー2013年1月号 多用途性に優れたMT-LB装軌牽引車」 前河原雄太 著  アルゴノート社
・「パンツァー2014年5月号 チェコ陸軍の現用AFV」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2018〜2019」  アルゴノート社
・「グランドパワー2020年5月号 赤の広場のソ連戦闘車輌写真集(5)」 山本敬一 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2019年12月号 1980年代のソ連軍AFV」 山本敬一 著  ガリレオ出版
・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」  ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946〜2000」  デルタ出版
・「大図解 世界のミサイル・ロケット兵器」 坂本明 著  グリーンアロー出版社
・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著  三修社
・「世界の装軌装甲車カタログ」  三修社
・「新版 ミサイル事典」 小都元 著  新紀元社
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー
・「世界の最新陸上兵器 300」  成美堂出版

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