NATOコードネームでSA-8「ゲッコー」(Gecko:ヤモリ)と呼ばれる、師団自走対空ミサイル・システム9K33「オサ」(Osa:スズメバチ)は、1960年10月27日付のソ連共産党中央委員会および閣僚会議決定により開発が発令され、1971年10月4日付の同決定によりソ連軍に制式採用された全天候型低空域地対空ミサイルである。 「オサ」対空ミサイル・システムは1975年にモスクワ赤の広場で開催された軍事パレードで初めて一般公開され、西側に広くその存在をアピールした。 1974年より自動車化狙撃師団の対空部隊に配備が開始された本システムの開発目的は1950年代以来、自動車化狙撃師団の低空域防空用として配備されてきたトラック牽引式の各種対空砲(57mm/23mm口径の対空機関砲等)を代替することであった。 本システムの自走発射機9A33Bは、非装甲の野外踏破用6×6トラックBAZ-5937を車台として用いている。 ブリャンスク自動車工場(BAZ)が開発したこの車台は水陸両用で、ウォータージェットにより水上を8km/hの速度で航行可能である。 また機密性が高いことから、NBC防護も完備している。 9A33B自走発射機の車体中央部には、レーダーを付属させた全周旋回式の対空ミサイル発射ランチャーが搭載されている。 レーダーは前方中央にある大型のものが目標の捜索・追尾レーダー(有効探知距離20km)、その左右の小型のものが対空ミサイルの追尾・誘導レーダー、後方にある横長の旋回式のものが目標捜索レーダー(有効探知距離30km)である。 対空ミサイルの追尾・誘導レーダーは各1基がミサイル1発を受け持つこととなっており、同時に2発を操作することが可能である。 発射ランチャーには、9M33対空ミサイルが剥き出しの状態で4発装填される。 9M33対空ミサイルは全長3.15m、発射重量130kgの低空域用迎撃ミサイルで、最大飛翔速度マッハ2.4、有効射高20〜10,000m、有効射程1,600〜12,000mである。 目標に直接命中させるのではなく、目標近くでVT信管が作動して弾頭(19kg)が炸裂し、その破片効果で撃墜を狙うものである。 また9A33B自走発射機の支援車両として、BAZ-5939トラックの車台を用いたミサイル運搬・装填支援車9T217Bも製作された。 1972年には、「オサ」対空ミサイル・システムの艦艇搭載ヴァージョンである「オサM」(4K33、NATOコードネーム:SA-N-4「ゲッコー」)がソ連海軍に導入された。 「オサM」では、改良型の9M33M対空ミサイルが伸縮自在の旋回式ランチャーZif-122に2発装填されるようになっており、11661型フリゲートや1134B型ミサイル巡洋艦の対空装備として用いられた。 その後、連続射撃によるミサイル火網の濃密化を狙った6連装タイプの陸上ヴァージョン「オサAK」(9K33M2、1975年)、「オサAKM」(9K33M3、1980年)が登場している。 「オサAK」はシステムを改良型の9M33M2対空ミサイルと、9A33BM2自走発射機の組み合わせに変更している。 9M33M2対空ミサイルは従来の9M33ミサイルとサイズは変わらないものの、従来は剥き出しだったミサイルを角型コンテナに入れた状態で発射ランチャーに6発装填するようになっている。 「オサAKM」は「オサAK」のミサイル誘導システムの性能を向上させたタイプで、システムを新型の9M33M3対空ミサイルと9A33BM3自走発射機の組み合わせに変更している。 9M33M3対空ミサイルは有効射程1,500〜15,000m、有効射高10〜13,000mと迎撃ゾーンが広げられている。 また「オサAKM」は無線で対空ミサイルを誘導するのが困難な重い電波妨害環境においては、有線によりミサイルを誘導することも可能になっている。 1988年までに各型合計で1,200両以上が生産された「オサ」シリーズは、ソ連軍の自動車化狙撃師団で大量装備を進めるため、調達および整備の低コスト化が図られていたこともあって、アフリカ等の友好諸国でも人気を博した。 そして実戦にも数多く投入され、アンゴラやレバノンの内戦、イスラエルとシリアとの間の紛争等で活躍した。 イスラエル軍のRF-4E偵察機やAH-1コブラ攻撃ヘリ、南アフリカ軍のミラージュIII戦闘機を撃墜する実績を上げている。 現在もロシア、アルジェリア、アンゴラ、ヨルダン、リビア、インド、イラク等で運用されている。 |
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<9A33BM3自走発射機> 全長: 9.14m 全幅: 2.75m 全高: 4.20m 全備重量: 17.5t 乗員: 5名 エンジン: 5D20B-300B 4ストロークV型6気筒液冷ディーゼル 最大出力: 300hp 最大速度: 80km/h(浮航 8km/h) 航続距離: 500km 武装: 9M33/9M33M2/9M33M3対空ミサイル6連装発射機×1 (6発) 装甲厚: |
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<9M33対空ミサイル> 全長: 3.15m 直径: 0.21m 翼幅: 0.64m 発射重量: 130kg 弾頭重量: 19kg 誘導方式: 指令誘導 最大飛翔速度: マッハ2.4 有効射程: 1,600〜12,000m 有効射高: 20〜10,000m |
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<9M33M3対空ミサイル> 全長: 3.15m 直径: 0.21m 翼幅: 0.64m 発射重量: 170kg 弾頭重量: 40kg 誘導方式: 指令誘導 最大飛翔速度: マッハ2.4 有効射程: 1,500〜15,000m 有効射高: 10〜13,000m |
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<参考文献> ・「パンツァー2002年6月号 ソ連・ロシア ロケット/ミサイル車輌史(5)」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2020年5月号 赤の広場のソ連戦闘車輌写真集(5)」 山本敬一 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2019年12月号 1980年代のソ連軍AFV」 山本敬一 著 ガリレオ出版 ・「ソビエト・ロシア戦闘車輌大系(下)」 古是三春 著 ガリレオ出版 ・「大図解 世界のミサイル・ロケット兵器」 坂本明 著 グリーンアロー出版社 ・「最強 世界のミサイル・ロケット兵器図鑑」 坂本明 著 学研 ・「世界の戦車メカニカル大図鑑」 上田信 著 大日本絵画 ・「世界の戦車パーフェクトBOOK」 コスミック出版 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「世界の戦車・装甲車」 竹内昭 著 学研 ・「世界の最新陸上兵器 300」 成美堂出版 ・「ミサイル事典」 小都元 著 新紀元社 |
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