NATOコードネームでSA-9「ガスキン」(Gaskin:脛)と呼ばれる、連隊自走対空ロケット・システム9K31「ストレラ(Strela:矢)1」は、BRDM-2装輪式装甲偵察車をベースに開発された軽便な低空・短距離用対空ミサイル・システムで、戦車連隊や自動車化狙撃連隊の防空中隊に配備され、23mm4連装対空機関砲を装備するZSU-23-4「シルカ」対空自走砲を補完する。 「ストレラ1」対空ミサイル・システムの生産は1966年から開始され、1968年から実戦配備が開始されている。 本システムはBRDM-2装甲偵察車の砲塔を取り外し、9M31対空ミサイルをコンテナごと4発装着できる旋回発射機を搭載したものである。 ミサイル発射機は360度旋回可能で、俯仰角は−20〜+80度となっている。 9M31対空ミサイルは赤外線誘導方式で全長1.803m、直径0.12m、発射重量32kg、最大飛翔速度マッハ1.8、有効射高30〜3,500m、有効射程800〜4,200mである。 改良型の9M31M対空ミサイルでは赤外線シーカーを冷却することで感度を高めており、有効射高10〜6,100m、有効射程560〜8,000mとなっている。 対空ミサイルの予備弾は2発で、車体側面にコンテナごとマウントされている。 再装填時間は、およそ5分と伝えられている。 ミサイル発射機の基部には大きな防弾ガラス付き窓のある射手席が設けられており、光学照準機が装備されている。 「ストレラ1」システムは、ZIL-157 6×6トラックに搭載された目標捜索用のガン・ディッシュ・レーダーと組み合わせて運用される。 本システムの実戦使用は1981年5月にリビア軍の「ストレラ1」中隊が、レバノン上空に侵入したイスラエル軍の航空機と交戦したのが初めてで、1983年12月にはアメリカ海軍のA-6Eイントルーダー艦上攻撃機が攻撃中に、シリア軍の9M31対空ミサイルにより撃墜されている。 1980年に勃発したイラン・イラク戦争でも、イラク軍がイラン軍航空機の攻撃に「ストレラ1」システムを用いた他、先のアフガニスタンにおける対タリバン戦争時、タリバン軍側が本システムを数両装備していた。 現在はMT-LB装軌式装甲輸送・牽引車に、9M37対空ミサイルをコンテナごと4発装着できる旋回発射機を搭載した、9K35「ストレラ10」対空ミサイル・システムが後継車種となっているため、ロシア軍ではほとんどが退役しているが、軽便な故に途上国でも運用し易いため、旧ソ連友好諸国を中心に20数カ国で未だ現役で使用されている。 |
|||||
<9A31自走発射機> 全長: 5.75m 全幅: 2.35m 全高: 2.31m 全備重量: 7.0t 乗員: 3名 エンジン: GAZ-41 V型8気筒液冷ガソリン 最大出力: 140hp/3,400rpm 最大速度: 100km/h(浮航 10km/h) 航続距離: 750km 武装: 9M31対空ミサイル4連装発射機×1 (6発) 装甲厚: 5〜14mm |
|||||
<9M31対空ミサイル> 全長: 1.803m 直径: 0.12m 翼幅: 0.36m 発射重量: 32kg 弾頭重量: 2.6kg 誘導方式: パッシブ赤外線 最大飛翔速度: マッハ1.8 有効射程: 800〜4,200m 有効射高: 30〜3,500m |
|||||
<9M31M対空ミサイル> 全長: 1.803m 直径: 0.12m 翼幅: 0.36m 発射重量: 32kg 弾頭重量: 2.6kg 誘導方式: パッシブ赤外線 最大飛翔速度: マッハ1.8 有効射程: 560〜8,000m 有効射高: 10〜6,100m |
|||||
<参考文献> ・「パンツァー2002年6月号 ソ連・ロシア ロケット/ミサイル車輌史(5)」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2016年6月号 旧ソ連の隠れた名車 BRDMシリーズ」 柘植優介 著 アルゴノート社 ・「パンツァー1999年3月号 BRDM-2装甲偵察車シリーズ」 田村尚也 著 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2020年4月号 赤の広場のソ連戦闘車輌写真集(4)」 山本敬一 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2019年12月号 1980年代のソ連軍AFV」 山本敬一 著 ガリレオ出版 ・「大図解 世界のミサイル・ロケット兵器」 坂本明 著 グリーンアロー出版社 ・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「ミサイル事典」 小都元 著 新紀元社 ・「世界の装輪装甲車カタログ」 三修社 |
|||||