96K6「パーンツィル(Pantsir:甲冑)S1」自走対空システムは、トゥーラの制御システム開発設計局(KBP)が2K22「ツングースカ」(Tunguska:中央シベリアを流れる河川名)自走対空システムの後継車両として開発したものである。 開発は1990年に開始され、1994年にはウラル5323 8×8トラックをベース車台とした最初の試作システム「パーンツィルS」が完成し、翌95年にモスクワで開催された兵器展示会「MAKS-1995」で初めて公開された。 本システムはその後も改良と試験が続けられたが、2012年11月にようやくロシア軍に「パーンツィルS1」の名称で制式採用されている。 「パーンツィルS1」は前作の「ツングースカ」と同様、対空機関砲と低〜中高度迎撃用対空ミサイルを組み合わせたハイブリッド対空システムであるが、製造・運用コストを低減させるために専用の車台を使用せず、既存の装軌式車両や8×8トラック等をベース車台として用いることができるのが特徴である。 NATOコードネームでSA-22「グレイハウンド」(Greyhound:エジプト原産の猟犬・競争犬)と呼ばれる本システムは、全周旋回式ターレットの左右に57E6対空ミサイルを6連装で装備するランチャーを装備した上、「ツングースカ」と同様に80.5口径30mm連装対空機関砲2A38Mを2連装で装備している。 全周旋回式ターレットの前部には円形の追尾・誘導レーダー(有効探知距離24km)、後部には横長長方形の旋回式捜索レーダー(有効探知距離30km)が装備されている。 「パーンツィルS1」で使用される57E6対空ミサイルは全長3.20m、発射重量74kg、弾頭重量20kgで最大飛翔速度1,300m/秒まで加速し、最大有効射程20,000m、最大有効射高15,000mと、「ツングースカ」が使用する9M311対空ミサイルに比べて迎撃ゾーンが大幅に拡大されている。 ミサイルは半自動誘導式で、チューブ状のコンテナに収納した状態でランチャーに装填される。 合計4門の30mm対空機関砲から発射される30mm弾は最大発射速度5,000発/分に達し、水平方向の最大有効射程5,000m、有効制圧高度3,000mの性能を持つ。 30mm弾は、合計1,400発が搭載されている。 「パーンツィルS1」はウリヤノフスク機械工場(UMZ)で生産が行われており、現在KAMAZ-6560 8×8トラックの車台をベースとしたものがロシア空軍に62両配備されている。 さらに2015年には改良型の「パーンツィルS2」がロシア空軍に導入されているが、数量は6両とまだ少ない。 また現在、ロシア陸軍と空挺部隊で使用するために装軌式車台を用いた新型の「パーンツィル」システムが開発されており、2017年に公開される予定になっている。 「パーンツィル」システムはロシア海軍向けにCIWSヴァージョンも開発されており、こちらは「パーンツィルM」と称する。 「パーンツィルM」CIWSは、1989年にロシア海軍に導入された「コールチク」(Kortik:海・空軍士官の短剣)CIWSの後継として、ロシア海軍艦艇に装備される予定になっている。 現在、「パーンツィルS1」はロシア本国以外にアルジェリア(38両)、ブラジル(18両)、イラン(10両)、イラク(42〜50両)、ヨルダン(50〜75両)、オマーン(12両)、シリア(50両)、アラブ首長国連邦(50両)、ヴェトナム(不明)の9カ国と輸出商談が成立しており、比較的好調なセールス実績を上げている。 |
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<96K6パーンツィルS1自走対空システム> 全長: 全幅: 全高: 全備重量: 20.0t 乗員: 3名 エンジン: KAMAZ-740.35-400 V型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 400hp 最大速度: 90km/h 航続距離: 800km 武装: 80.5口径30mm連装対空機関砲2A38M×2 (1,400発) 57E6/57E6-E対空ミサイル6連装発射機×2 (12発) 装甲厚: |
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<57E6-E対空ミサイル> 全長: 3.20m 直径: 0.17m 翼幅: 0.50m 発射重量: 74kg 弾頭重量: 20kg 誘導方式: 指令誘導 最大飛翔速度: 1,300m/秒 有効射程: 最大20,000m 有効射高: 最大15,000m |
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<参考文献> ・「パンツァー2019年6月号 能勢伸之のツキイチ安全保障(4)」 能勢伸之 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2011年6月号 ロシア陸軍 冷戦後の変化と現状」 鹿内誠 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2020年9月号 モスクワ戦勝記念パレード2020」 アルゴノート社 ・「パンツァー2010年7月号 W.W.II戦勝記念パレード」 アルゴノート社 ・「パンツァー2018年8月号 ロシアの主要AFV」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「世界の戦車パーフェクトBOOK」 コスミック出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「新版 ミサイル事典」 小都元 著 新紀元社 |
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