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89式装甲戦闘車





89式装甲戦闘車は、陸上自衛隊が装備する初の本格的IFV(歩兵戦闘車)である。
第1次試作車の製作は1984年から始められ1986年から技術試験、続いて実用試験が行われ、1989年に「89式装甲戦闘車」として制式化された。
車体は圧延防弾鋼板の全溶接構造で、防弾アルミ製の73式装甲車よりも生存性が向上しているが、浮航性は無くなっている。

車体前部左側にはエンジンと変速・操向機が搭載されているが、73式装甲車と違ってパワーパックとして一体化されているため整備性が大きく向上している。
エンジンは三菱重工業製の液冷4ストロークという一般的な型式の、6SY31WA 直列6気筒ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力600hp)が搭載されており、不整地での機動力は73式装甲車を上回り、90式戦車にも充分に追随できるという。

車体前部右側は操縦手席となっているため、73式装甲車までの前方機関銃は無くなった。
その後ろにも座席があり、砲塔の脇は非常に狭い通路になっている。
車体後部は兵員室になっており、普通科隊員7名から成る完全装備の1個班(分隊)を収容することができる。
兵員室内には背中合わせに6名分のシートがあり、背もたれの間は79式対舟艇対戦車誘導弾(略称:重MAT)および35mm機関砲弾の弾薬庫となっている。

車体後面には観音開き式の乗降用ドアが設けられており、その外側の車体後面左右上部には換気扇のボックスが取り付けられている。
車体には左右側面に各3カ所ずつ、後部ドア右側に1カ所の計7カ所のガンポートが設けられており、乗車した普通科隊員の携行する89式5.56mm小銃を使って車外を射撃できるようになっている。

ガンポートには照準用の小さなガラス窓がはめ込まれており、諸外国のIFVのようにやや離れた場所にあるペリスコープを使って照準をする場合よりも、命中精度を重視していることが感じられる。
砲塔は2名用で車体と同じく圧延防弾鋼板の全溶接構造であり、砲塔内右側が車長席、左側が砲手席となっている。

砲塔上には砲手用に熱線暗視装置組み込み型サイト、車長用にレーザー測遠機組み込み型サイトが装備されている。
砲塔の左右側面には、重MATの発射装置が各1基ずつ装備されている。
重MATは赤外線半自動誘導方式で最大有効射程は約4,000m、最大飛翔速度は約マッハ0.65であり、発射装置内に即用弾2発を搭載する他、車内にも予備弾2発を搭載する。

主砲はスイスのエリコン社で開発された90口径35mm機関砲KDEを、日本製鋼所でライセンス生産したものが搭載されている。
この機関砲は、87式自走高射機関砲に搭載されている90口径35mm対空機関砲KDAの軽装甲車両向けヴァージョンで、全体に軽量化されると共に最大発射速度が200発/分に落とされている。

主砲の左側には同軸機関銃として74式車載7.62mm機関銃、主砲の右側には重MATの誘導装置を収めたボックスが取り付けられている。
武装が強力で同級のIFVはもとより敵MBTとの交戦能力も備え、同世代の90式戦車との共同運用能力を持つことは89式装甲戦闘車の優れた点だが、こうしたカタログ・データに現れない問題点には90式戦車と同様、価格の高いことが挙げられる。

通常このようなIFVとMBTとで機甲・機械化部隊を構成する場合には、前者の数が後者の1.5倍から2倍必要だが、89式装甲戦闘車では1両当たりの価格が7億円弱と世界で最も高額になってしまっているため、年間の調達数は数両に留まっており、長期間に渡って充分な数を揃えられないことが構造的な問題になっている。


<89式装甲戦闘車>

全長:    6.80m
全幅:    3.20m
全高:    2.50m
全備重量: 26.5t
乗員:    3名
兵員:    7名
エンジン:  三菱6SY31WA 4ストローク直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 600hp/2,100rpm
最大速度: 70km/h
航続距離: 400km
武装:    90口径35mm機関砲KDE×1 (251発)
        74式車載7.62mm機関銃×1 (2,000発)
        79式対舟艇対戦車誘導弾発射装置×2 (4発)
装甲厚:


<参考文献>

・「グランドパワー2013年6月号 自衛隊の車輌と装備 89式装甲戦闘車」 伊吹竜太郎 著  ガリレオ出版
・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」  ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」  デルタ出版
・「陸上自衛隊 車輌・装備ファイル」  デルタ出版
・「パンツァー2006年1月号 陸上自衛隊89式装甲戦闘車 インアクション」 中川未央 著  アルゴノート社
・「パンツァー2005年3月号 陸上自衛隊 装甲/戦闘兵車の近代化案」 三鷹聡 著  アルゴノート社
・「パンツァー2001年9月号 AFV比較論 CV9040/89式装甲戦闘車」 三鷹聡 著  アルゴノート社
・「パンツァー2011年4月号 AFVの主力火器 エリコンの車載機関砲」 加藤聡 著  アルゴノート社
・「パンツァー2007年9/10月号 特集 89式装甲戦闘車」 三鷹聡/竹内修 共著  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「10式戦車と次世代大型戦闘車」  ジャパン・ミリタリー・レビュー
・「決定版 世界の最強兵器FILE」 おちあい熊一 著  学研
・「世界の最強陸上兵器 BEST100」  成美堂出版
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー
・「世界の装軌装甲車カタログ」  三修社

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