八九式中戦車乙型 イ号
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+開発
1932年から、三菱重工業の大井工場で戦車用ディーゼル・エンジンの開発が始められた。
それは1934年に、出力118hpの直列6気筒空冷ディーゼル・エンジン「イ号機」(三菱社内呼称:A6120VD)として実用化された。
燃焼方式は直接噴射式でドイツのフンボルト、ダイムラー、クルップ、ユンカース等のトラック用小型ディーゼル・エンジンが参考になっている。
1935年以降に生産された八九式中戦車はこのディーゼル・エンジンに換装されたため、それまでのガソリン・エンジン搭載型と区別するためにガソリン・エンジン搭載型が「八九式中戦車甲型」、ディーゼル・エンジン搭載型が「八九式中戦車乙型」と名称が変更された。
このディーゼル・エンジンへの換装は、燃料となる石油のほとんどを外国からの輸入に頼らなければならないという日本の国情を考慮して、燃料消費率の少ないディーゼル・エンジンを用いることが国策として決定されたためで、同時に被弾時の火災の危険も減じるというメリットも生まれている。
反面ディーゼル・エンジンはガソリン・エンジンに比べて大きく重くなり、同一排気量当たりの出力もガソリン・エンジンの1/3程度しかない。
ディーゼル・エンジンは、空気の利用率が低いのである。
また、八九式中戦車乙型ではこのエンジンの焼き付きが多発した。
なお乙型のディーゼル・エンジンについては、「8150」という出力150hpの直列8気筒のものがあったとする異説もある。
八九式中戦車乙型は、エンジンがディーゼルに換装された以外に車体各部の形状にも改良が加えられており、外見も甲型と少々異なっている。
主な変更点を挙げると、
1.甲型の砲塔には上部にトルコ帽型の車長用展望塔が備えられていたが、乙型の砲塔では代わりに大型の車
長用キューポラが設けられた。
車長用キューポラの周囲には視察スリットが備えられており、外部視察能力が向上した。
2.甲型では車体左右側面の最前部に各1基ずつ備えられていた前照灯が、乙型では車体前面中央に1基埋め
込み式に装備されるようになり、敵の攻撃から前照灯を保護するための装甲蓋が備えられた。
また乙型の車体後部には、超壕能力を増すための尾橇が取り付けられた。
3.車体前部の形状が甲型では途中に段が付いていたのが無くなって、真直ぐに落ちている。
さらに車体前部左側にあった操縦手席が前部右側へ移り、前方銃手の席が前部左側に移っている。
つまり、操縦手と銃手が入れ替わったわけである。
また銃手席前方の乗降用ハッチが甲型の2枚式から1枚式になり、それに伴ってハッチのヒンジの数も4個から
3個に変化しておりハッチの形状も異なる。
4.操縦手席前方の窓は、甲型では直径10cm位の円盤型に放射状のスリットを付け、これを回転させて前方を視
察していたが、乙型ではこの窓は廃止され、代わりに防弾板の付いた視察窓が設けられた。
さらに視界を良くするよう、視察窓だけが出窓のようになった。
また履帯前方両側に死界ができるのを防止するため、操縦手席の右側に長方形のスリット入り小窓が付い
た。
5.前部フェンダーの支持架も、甲型では下に2本付いていたのが乙型では上に付くように変更されている。
6.車体機関銃のマウント取り付け部も、初期の甲型から見ると次第に変化している。
7.車体後面の両脇に付いていた燃料タンクや水タンクの蓋が、甲型では片面5個ずつだったのが4個になってい
る。
なお、これらの特徴を持つ八九式中戦車でも実際にはガソリン・エンジンを搭載していた車両も存在しており、太平洋戦争末期にアメリカ軍に鹵獲され、現在メリーランド州アバディーンのアメリカ陸軍兵器博物館に展示されている八九式中戦車も、外見は乙型の特徴を備えているがエンジンはガソリン・エンジンを搭載している。
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+八九式中戦車の生産と部隊配備
八九式中戦車の生産にあたっては初めに大阪工廠、次いで汽車製造が少数生産し(後者の製品は部隊から不評であった)、後に三菱重工業の大井工場と丸子工場が主力生産工場となった。
生産開始の1931年には12両、翌32年には20両だったものが1933年以降本格的な量産体制に入り、甲型は1934年までに220両、乙型は1935〜39年にかけて184両生産されたという記録があるが、乙型は1934年にも少数生産されているので正確な数字ははっきりしない。
八九式中戦車乙型はノモンハン事件、日中戦争と主に中国大陸で歴戦した。
中でも戦車第七連隊所属車両は太平洋戦争緒戦のフィリピン作戦に参加し、1945年まで同地で第一線に踏み留まった。
そして、日本陸軍が対米戦に使用した最も古い戦車となった。
内地には、もっと多数の八九式中戦車が本土決戦用に動員されていた。
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<八九式中戦車乙型>
全長: 5.75m
全幅: 2.18m
全高: 2.56m
全備重量: 13.0t
乗員: 4名
エンジン: 三菱A6120VD 4ストローク直列6気筒空冷ディーゼル
最大出力: 118hp/1,800rpm
最大速度: 25km/h
航続距離: 170km
武装: 九〇式18.4口径5.7cm戦車砲×1 (100発)
九一式車載6.5mm軽機関銃×2 (2,745発)
装甲厚: 10〜17mm
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兵器諸元
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<参考文献>
・「パンツァー2006年3月号 日本陸軍最初の国産戦車 八九式戦車(乙) (1)」 高橋昇 著 アルゴノート社
・「パンツァー2006年4月号 日本陸軍最初の国産戦車 八九式戦車(乙) (2)」 高橋昇 著 アルゴノート社
・「パンツァー2006年4月号 日本陸軍 八九式中戦車」 中川未央 著 アルゴノート社
・「パンツァー2003年4月号 日本陸軍 八九式中戦車」 高橋昇 著 アルゴノート社
・「パンツァー2009年7月号 日本陸軍 八九式中戦車」 高橋昇 著 アルゴノート社
・「パンツァー2020年10月号 特集 八九式中戦車」 吉川和篤 著 アルゴノート社
・「パンツァー2012年12月号 戦車エンジンの100年」 三鷹聡 著 アルゴノート社
・「日本の戦車と装甲車輌」 アルゴノート社
・「グランドパワー2001年2月号 日本軍機甲部隊の編成・装備(1)」 敷浪迪 著 デルタ出版
・「帝国陸海軍の戦闘用車両」 デルタ出版
・「グランドパワー2007年4月号 日本陸軍 八九式中戦車(1)」 古是三春 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2007年5月号 日本陸軍 八九式中戦車(2)」 古是三春 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2013年8月号 日本陸軍 八九式中戦車」 国本康文 著 ガリレオ出版
・「世界の戦車(1) 第1次〜第2次世界大戦編」 ガリレオ出版
・「戦車名鑑 1939〜45」 コーエー
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