八九式中戦車甲型 イ号
|
|
+開発
日本初の国産戦車である試製一号戦車は戦闘重量が計画の12tを大きく上回る18tにも達し、重戦車に近くなってしまったため、新規に「イ号車」の秘匿呼称で軽戦車が国内開発されることになった。
その絶対条件は、戦闘重量10tであった。
予算の節約、開発期間の短縮、さらに重量軽減のために、イギリスのヴィッカーズ・アームストロング社から購入した中戦車Mk.Cが模倣されることになった。
このため、後の国産中戦車とは形態も機構もだいぶ違っている。
設計は陸軍技術本部第四研究所で1928年4月に着手され、図面完成後に大阪工廠に試作車の製作が発注されて1929年4月には完成した。
イ号車は戦闘重量9.8t、路上最大速度26km/hで主砲は試製五十七粍戦車砲を、エンジンはドイツのダイムラー自動車製の航空機用直列6気筒液冷ガソリン・エンジン(出力100hp)を搭載した。
1929年10月には東京〜青森間660kmの長距離運行試験に成功し、重量が10t未満であったことから「八九式軽戦車」として制式化された。
|
+完成後
実用部隊や開発側での検討の結果、八九式軽戦車は改修が重ねられた。
改修型は1929年12月に完成したが、戦闘重量は11.5tと増加した。
試験の結果これが八九式軽戦車の生産型として採用され、1931年から量産が開始された。
生産が開始されると、すぐにフランス製のルノーNC軽戦車と共に1931年9月に勃発した満州事変に投入された。
実戦で使ってみると、ヨーロッパの良道上での行動を想定して開発されたルノーNC軽戦車は足周りの弱さを露呈した。
八九式軽戦車のリーフ・スプリング式サスペンションも機械的信頼性に問題があったが、ルノーNC軽戦車に比べると程度がやや良かった。
これにより、以後の日本軍戦車は全て国内開発されるようになった。
1933年3月の熱河作戦では八九式軽戦車は全車故障などで脱落し、九二式重装甲車が活躍することになってしまったが戦車の有用性は広く認識されるようになった。
本車はさらに改良が加えられ、1935年9月13日には制式名称が「八九式中戦車」と改められた。
これは、より軽量な6t級の新型軽戦車「ハ号車」(後の九五式軽戦車)が開発されたため、八九式軽戦車は中戦車に分類替えすることになったのである。
当時日本陸軍では戦闘重量10t未満の戦車を軽戦車、10t以上20t未満を中戦車、20t以上を重戦車に分類しており、この基準に照らせば八九式軽戦車の中戦車への分類替えは妥当な措置であった(八九式軽戦車は試作段階では10t未満であったが、生産型の戦闘重量は12.7tに増加していた)。
1934年には満州に独立混成第一旅団が編制されて戦車の需要が高まり、八九式中戦車は主力戦車として装備されてゆく。
1935年からは、エンジンを九五式軽戦車と同系列の直列6気筒空冷ディーゼル・エンジン(「イ号機」または「A6120VD」と呼ばれた)に換装した車両が生産された。
これを「八九式中戦車乙型」と呼び、従来のガソリン・エンジンの車両は「八九式中戦車甲型」と呼んで区別するようになった。
|
+攻撃力
八九式中戦車の主砲は当初、試製一号戦車と同じく試製五十七粍戦車砲を搭載し、後にこれを改修した九〇式五糎七戦車砲に換装されたが、砲口初速は380m/秒と試製五十七粍戦車砲からほとんど向上していない。
装甲貫徹力は、射距離500mで20mm以下という貧弱さであった。
有効射程も800m位しかなく、弾が飛翔していくのを目で追えるほどであった。
このため戦車部隊内では全く不評であったが、参謀本部は非常に頑迷でこれ以上の武装を絶対に許そうとしなかった。
本砲の利点といえば野・山砲と違い、射撃後に空薬莢が自動で排莢されるので狭い2名用砲塔の中でも速射ができたことである。
主砲の俯仰角は−15〜+20度となっており、砲塔を固定した状態でも主砲を左右に各10度ずつ旋回させることが可能であった。
なお上海、満州事変に出動した八九式中戦車甲型の一部は、九〇式五糎七戦車砲に代えて戦車用狙撃砲(口径37mm)を搭載していた。
副武装としては、車体前部と砲塔後部に九一式車載軽機関銃(口径6.5mm)を各1挺ずつ搭載していた。
|
+防御力
試製一号戦車を製作した時点では日本には戦車用の薄い装甲板は無く、代わりに軟鋼板が使用された。
八九式中戦車では、初めて装甲板が使われた。
これは駆逐艦の装甲板(軟鋼に近い)に焼入れをしたもので、「ニセコ鋼板」と呼ばれた。
この「ニセコ」の呼称は装甲板の製造元である日本製鋼所の頭文字を採ったもので、同社室蘭工場のある北海道の地名とは関係無い。
装甲板の厚さは、十一年式平射歩兵砲(口径37mm)による150m射撃試験の結果不貫限界の17mmと決定した。
しかし戦地では、7.7mmの硬芯弾が前面装甲を簡単に突き破ってきたという。
初期には主砲の付け根に空隙があり、容易に弾が飛び込む構造になっていたがこれは後で改修された。
車体前面装甲板に乗員の乗降用ハッチを設けねばならなかったのも、防御上問題であった。
|
+機動力
八九式中戦車甲型のエンジンは、第1次世界大戦時にドイツ軍のタウベ偵察機などに搭載された出力100hpのダイムラー自動車製航空機用直列6気筒液冷ガソリン・エンジン(メルツェーデスD.I型と推測される)を、東京瓦斯電気工業がライセンス生産した「ダ式一〇〇馬力発動機」(118hp/1,800rpm)を戦車に適合するように改造したものが採用された。
当時、イギリス軍やアメリカ軍の戦車も第1次大戦時の航空機用エンジンであるリバティー系列を使っていたので、これは常識的な選択であった。
ちなみに三菱重工業の最初の戦車工場であった芝浦工場は、元は別の航空会社がフォッカー社の航空機用エンジンを修理していた所である。
八九式中戦車のパワートレインは上から見ると大きなコの字形を描き、改修の余地も無いほど不合理なデザインであったが全ては試行錯誤の産物であった。
サスペンションは、当時の主流であるリーフ・スプリング(板ばね)方式を採用していた。
これは4個の転輪をリーフ・スプリングの中央に取り付けるもので、リーフ・スプリングの両端は車体に固定されていた。
このサスペンションを片側2組配し、最前部の転輪1個だけはコイル・スプリング(螺旋ばね)で独立懸架していた。
転輪のベアリングは破損し易く、頻繁なグリスアップをしないと行軍中転輪そのものが外れた。
履帯には、最初は含ニッケル特殊鋳鋼品を採用した。
後にイギリスのハドフィールド鋼を真似て、小松製作所で高マンガン鋼の精密鋳造に成功したが、当時はまだ量産体制も不充分で、しばらくの間は従来の履帯とマンガン鋼履帯が併用された。
|
<八九式中戦車甲型>
全長: 5.75m
全幅: 2.18m
全高: 2.56m
全備重量: 12.7t
乗員: 4名
エンジン: ダ式一〇〇馬力発動機 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 118hp/1,800rpm
最大速度: 25km/h
航続距離: 140km
武装: 九〇式18.4口径5.7cm戦車砲×1 (100発)
九一式車載6.5mm軽機関銃×2 (2,745発)
装甲厚: 10〜17mm
|
兵器諸元
|
<参考文献>
・「パンツァー2013年8月号 帝国陸軍の戦車武装 戦車砲と車載機銃(上)」 高橋昇 著 アルゴノート社
・「パンツァー2006年2月号 日本陸軍最初の国産戦車 八九式戦車(甲)」 高橋昇 著 アルゴノート社
・「パンツァー2006年4月号 日本陸軍 八九式中戦車」 中川未央 著 アルゴノート社
・「パンツァー2003年4月号 日本陸軍 八九式中戦車」 高橋昇 著 アルゴノート社
・「パンツァー2009年7月号 日本陸軍 八九式中戦車」 高橋昇 著 アルゴノート社
・「パンツァー2020年10月号 特集 八九式中戦車」 吉川和篤 著 アルゴノート社
・「日本の戦車と装甲車輌」 アルゴノート社
・「グランドパワー2001年2月号 日本軍機甲部隊の編成・装備(1)」 敷浪迪 著 デルタ出版
・「帝国陸海軍の戦闘用車両」 デルタ出版
・「グランドパワー2007年4月号 日本陸軍 八九式中戦車(1)」 古是三春 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2007年5月号 日本陸軍 八九式中戦車(2)」 古是三春 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2013年8月号 日本陸軍 八九式中戦車」 国本康文 著 ガリレオ出版
・「世界の戦車(1) 第1次〜第2次世界大戦編」 ガリレオ出版
・「徹底解剖!世界の最強戦闘車両」 洋泉社
・「戦車名鑑 1939〜45」 コーエー
|
関連商品 |
ファインモールド 1/35 ミリタリーシリーズ 帝国陸軍 八九式中戦車甲型 プラモデル FM56 |
ファインモールド 1/35 ガールズ & パンツァー 八九式中戦車甲型 プラモデル 41101 |
ファインモールド 1/35 ガールズ&パンツァー劇場版 八九式中戦車甲型 プラモデル 41106 |
ファインモールド 1/35 日本陸軍 八九式中戦車用 金属砲身 MG75 |
プラッツ 1/72 ガールズ&パンツァー劇場版 八九式中戦車甲型 アヒルさんチーム プラモデル GP72-13 |
プラッツ 1/72 ガールズ&パンツァー劇場版 八九式中戦車甲型 アヒルさんチーム ペーパークラフト付き特別版 本家参上!です プラモデル
GP72-13SP |
プラッツ 1/72 ガールズ&パンツァー 八九式中戦車甲型 アヒルさんチーム 最終章 第3話特別パッケージ版 プラモデル GP72F3-12 |
IBG 1/72 日本陸軍 八九式中戦車 甲型後期 プラモデル PB72040 |
1/72 ガールズ&パンツァー 八九式中戦車甲型 アヒルさんチーム デカールセット (アンツィオ戦練習デカール付) |
エフトイズ ガールズ&パンツァー最終章 プルバックタンク Vol.2.5 八九式中戦車 (アンツィオ戦練習時) 大洗女子学園 アヒルさんチーム |
グムカ 八九式中戦車 レジンキット |
イカロス出版 「八九式中戦車写真集」(~軽戦車時代から乙型まで~) |
イカロス出版 「戦場の八九式中戦車写真集」 |
伊太利堂 「写真集 八九式中戦車」 |
国本戦車塾 「八九式中戦車の図面」 |
ギガント ミリタリーTシャツ 日本軍 八九式中戦車 イ号 半袖 メンズ 黒 オリーブ |