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87式自走高射機関砲





●開発

87式自走高射機関砲(略称:87AW、愛称:スカイシューター)は、アメリカ軍から陸上自衛隊に有償供与されていたM15A1対空自走砲とM42ダスター対空自走砲の後継として開発された国産の自走式対空火器である。
1954年7月に発足した陸上自衛隊が最初に装備した自走式対空火器は、アメリカ軍から有償供与されたM15A1、M16、M19A1対空自走砲であった。

アメリカはソ連を中心とする共産主義陣営に対抗するため1950年代に「MAP」(Military Assistance Program:軍事支援プログラム)を策定し、このプログラムに基づいて余剰となったアメリカ軍の各種装備品を西側友好国に積極的に供与することで軍事力の支援を図った。
MAPに基づいて陸上自衛隊にはM15A1対空自走砲が98両、M16対空自走砲が168両、M19A1対空自走砲が約40両供与された。

M15A1とM16はいずれも第2次世界大戦中にM3ハーフトラックをベースに開発された対空自走砲で、M15A1対空自走砲は37mm高射機関砲M1A2を1門と12.7mm重機関銃M2を2挺装備するM54複合砲架を搭載し、M16対空自走砲は12.7mm重機関銃M2を4連装で装備するM45機関銃架を搭載していた。
一方M19A1対空自走砲はM24チャフィー軽戦車の車体をベースとし、スウェーデンのボフォース社製の40mm高射機関砲を原型とする66口径40mm高射機関砲M2をオープントップ式の砲塔に連装で装備していた。

続いて1960年代に入るとアメリカ軍がM19対空自走砲の後継として開発したM42ダスター対空自走砲が陸上自衛隊に22両供与され、これに伴ってM19A1対空自走砲は60年代終わりまでに全て退役した。
しかしM42対空自走砲は新型兵器とはいっても、基本的にM19対空自走砲の砲塔を新型のM41ウォーカー・ブルドッグ軽戦車の車体と組み合わせただけの代物で、対空迎撃能力に関してはほとんど進歩していなかった。

M42対空自走砲は車体が新型になった以外は主武装の40mm高射機関砲が改良型のM2A1に換装された程度の変化しかなく、相変わらず射撃は光学照準機を用いた目視式でレーダーは搭載していなかった。
大戦時のようにレシプロ航空機が主流だった時代ならともかく、当時急速に発達していたジェット航空機に対して目視照準の対空火器で対抗するのは非常に困難であり、陸上自衛隊ではより高性能な対空火器の導入が求められることとなった。

世界的に有名な火器メーカーであるスイスのエリコン・コントラヴェス社は、1950年代末に「GDF-001」と呼ばれる牽引式の35mm連装高射機関砲システムを開発し、これは約30カ国の軍隊で採用されるベストセラーとなった。
GDF-001は威力と発射速度に優れる90口径35mm高射機関砲KDAを「ズーパーフレーダーマウス」(Super Fledermaus:Fledermausはドイツ語で蝙蝠を表す)と呼ばれるレーダーFCS(射撃統制システム)とリンクさせており、当時としては非常に高度な対空迎撃能力を備えたシステムであった。

陸上自衛隊は1967年に師団高射特科向けの対空火器システムとしてGDF-001の改良型を「35mm二連装高射機関砲 L-90」の名称で採用することを決め、1969〜70年度に4セットがノックダウン生産された後1971年度からライセンス生産が開始された。
L-90のライセンス生産は1981年度まで続けられ、旧式化したM16対空自走砲に代えて高射特科部隊に配備された。

なおM16対空自走砲の退役後も、同じM3ハーフトラックベースのM15A1対空自走砲の方は37mm高射機関砲の射程の長さを買われて運用が続けられ、1980年代末に87式自走高射機関砲に更新されるまで現役に留まっていた。
L-90は各師団の高射特科部隊で長らく運用が続けられたが、1994年から後継の93式近距離地対空誘導弾に順次置き換えられていき2009年度までに全て退役している。

L-90は4輪のゴムタイアを備える砲架に搭載された二連装の35mm高射機関砲KDA、ズーパーフレーダーマウスFCS搭載車、光学照準システム搭載車、およびこれらに電源を供給する電源車3両で構成される大掛かりなシステムで、35mm高射機関砲の射撃時には砲架の左右に装備されているアウトリガーを展開し、タイアを折り畳んで砲架を接地させるようになっていた。

ズーパーフレーダーマウスFCSはパルス・ドップラー方式の捜索レーダーと追尾レーダーを装備しており、捜索範囲と追尾範囲はいずれも15kmとなっていた。
L-90は当時としては高度な対空火器システムであったがトラックによる牽引式であるため機動性に難があり、システムの展開にも時間が掛かる上操作要員も多く必要だった。

このためL-90システム全体を1つの車両にまとめて搭載し、機甲部隊に随伴できる機動力を持たせることが求められるようになった。
防衛庁技術研究本部(TRDI)は1976年度からL-90を車載化した自走高射機関砲の所内研究に着手し、続いて1978年度から自走高射機関砲の研究試作が開始された。

この車両は陸上自衛隊の第1世代MBTである61式戦車の車体をベースとし、L-90と同じ90口径35mm高射機関砲KDAを2門と、国内開発された捜索・追尾レーダーを含むFCSを全周旋回式砲塔に搭載していた。
完成した試作車を用いて各種試験が行われたが、捜索・追尾レーダーや射撃統制コンピューターを搭載した砲塔の重量が61式戦車の車体に対して過大で充分な機動力を発揮できないことが明らかになったため、続く開発試作ではベース車体を新型の74式戦車に変更することになった。

ベース車体を74式戦車に変更した自走高射機関砲の開発試作は1982年度に開始され、同年度に1両、1983年度に1両の計2両の試作車が発注された。
試作第1号車は1983年度末に完成し、1984〜85年度にかけて技術試験が実施された。
1986年度には陸上自衛隊による実用試験が実施され、1987年8月21日に「87式自走高射機関砲」として制式化された。

本車は1987年度から調達が開始されたが、1両約14億円という高価格が災いしてか調達数は毎年1〜2両程度に留まり、調達が終了した2002年度までにわずか52両しか生産されなかった。
生産数が非常に少ないため配備先も限定されており、第7師団第7高射特科連隊の第1〜第4中隊、第2師団第2高射特科大隊の第3中隊、高射教導隊の第3中隊、陸上自衛隊武器学校にしか配備されていない。


●構造

87式自走高射機関砲(87AW)の外観は、旧西ドイツ陸軍がレオパルト1戦車の車体を流用して1970年代に開発した「ゲーパルト」(Gepard:チーター)対空自走砲に良く似ている。
ゲーパルトは87AWと同じく、エリコン社製の牽引式35mm連装高射機関砲システムを車載化したものであるため、外観が似ているのは当然といえよう。

87AWの車体は圧延防弾鋼板の溶接構造で74式戦車の車体をベースにしてはいるが、細部が大幅に変更されているため実際はコンポーネントを流用しただけの別物といって良い。
74式戦車と異なり87AWの車体側面装甲板は垂直となっており、各種点検用パネルが設けられている。
また車体後面上部には中央にラック、その左右に収納箱が設けられており、このあたりも74式戦車とは異なっている。

サスペンションや転輪、履帯は74式戦車のものを流用しているため、87AWは74式戦車と同様に油気圧式サスペンションによる前後、左右方向の姿勢制御を行うことが可能となっている。
砲塔に搭載された射撃統制コンピューターや捜索・追尾レーダー、砲塔駆動用発電機に使用する大電力を賄うため、車体前部右側にはAPU(補助動力装置)を追加装備している。

このAPUは排気量29リッター、出力75hp/2,850rpmの4ストローク・ディーゼル・エンジンによって駆動される。
74式戦車と同様に操縦手席は車体前部左側に置かれており、上面にはスライド式のハッチが設けられている。
操縦手用視察装置も74式戦車と同様のものでハッチの前方にJM17ペリスコープ3基、ハッチの中央に夜間操縦用の82式操縦用暗視装置が装備されている。

87AWはエンジンや変速・操向機についても74式戦車と同じものが流用されており、パワーパックは三菱重工業製の10ZF22WT 2ストロークV型10気筒空冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(排気量21.5リッター、出力720hp/2,200rpm)と、同社製のMT-75半自動変速・操向機(前進6段/後進1段)を組み合わせている。
87AWの戦闘重量は74式戦車と同じ38t(1991年度以前の生産車は35t)であるため、74式戦車と同じく路上最大速度53km/h、路上航続距離300kmの機動性能を発揮することができる。

87AWの砲塔は日本製鋼所が開発したもので、重量の軽減を図って防弾アルミ板の溶接構造となっている。
砲塔の形状はゲーパルトと同様に前後に長い箱型をしており、砲塔の左右側面に1門ずつ35mm高射機関砲を装備する方式を採用している点も同様である。
砲塔内には左側に砲班長(車長)、右側に砲手が搭乗する。

砲塔上面には横長の楕円形の後ろ開き式のハッチが1個設けられており、ハッチの前方には左側に車長用の展望式視察サイト、右側に砲手用の潜望式視察サイトおよび照準サイトが装備されている。
主武装は、エリコン社製の90口径35mm高射機関砲KDAを連装で装備している。
これは牽引式の35mm連装高射機関砲L-90と同じものであり、いずれも日本製鋼所がライセンス生産を担当している。

砲身は空冷式で、表面積を増やして冷却効率を高めるために外周部に6本の溝が刻まれている。
87AWに装備されている35mm高射機関砲KDAの発射速度は2門で1,100発/分、砲の俯仰角は−5〜+85度で砲塔は全周旋回が可能である。
砲の俯仰と砲塔の旋回は動力装置または手動により行なわれ、動力装置を用いた場合砲の俯仰速度は760ミル/秒、砲塔の旋回速度は1,000ミル/秒となっている。

使用弾薬は対空用がHEI(焼夷榴弾、重量535g)、SAPHEI(半徹甲焼夷榴弾、重量550g)、対地用がAPDS(装弾筒付徹甲弾、重量380g)である。
砲口初速はAPDSが1,385m/秒、それ以外が1,175m/秒となっており、APDSは射距離1,000mで40mm厚のRHA(均質圧延装甲板、傾斜角60度)を貫徹することが可能である。
射撃は通常、20〜40発のバースト射撃が行われる。

対空用の最大有効射程は約4,000mで弾薬には近接信管が内蔵されておらず、直撃により目標を撃破する。
35mm高射機関砲KDAの砲身先端には砲口制退機と共に初速測定装置が装着されており、空薬莢は機関砲の下部から排出される。
弾薬は砲塔バスケット内の巨大なドラム型弾倉に対空用のものが左右各310発ずつ、砲基部の装甲ボックスに対地用のものが左右各20発ずつ収納されており、車内から自由に弾種を選択して撃ち分けることができる。

砲塔左右の張り出し部にはゲーパルトと同様に発煙弾発射機を装備しているが、これは初期の生産車では3連装の60mm発煙弾発射機だったのが1992年度の生産車から4連装の76mm発煙弾発射機に変更されている。
また87AWはアクティブ防御システムを備えており、砲塔上面右側に設けられているポール状のレーザー検知機が対戦車ミサイルや誘導砲弾の誘導用レーザーを感知すると、発煙弾発射機から自動的に発煙弾を発射して車体を隠蔽するようになっている。

レーザー検知機の検知範囲は水平方向360度、垂直方向−22.5〜+90度となっている。
87AWのFCSは、三菱電機が開発を担当している。
砲塔の最後部に長いアームを介して装備されている横長の棒状のものが捜索レーダー・アンテナで、敵味方識別機能を有し20kmの捜索範囲を持つとされている。
捜索レーダー・アンテナは360度の連続旋回が可能で、アンテナの旋回速度は30rpmとなっている。

捜索レーダー・アンテナの前方の砲塔上面に装備されている皿型のものが追尾レーダー・アンテナで、追尾範囲は20kmといわれる。
追尾レーダー・アンテナは360度の連続旋回が可能で、俯仰範囲は−80〜+1,500ミルとなっている。
アンテナの旋回速度は1,600ミル/秒、俯仰速度は890ミル/秒となっている。

ゲーパルトの場合は追尾レーダー・アンテナを砲塔前面に装備しており、本来はそちらの方が合理的であるが特許の関係で87AWはゲーパルトと異なるアンテナ配置を採用したといわれている。
追尾レーダー・アンテナの左側にはバックアップ用の光学追尾装置が装備されており、上から順にレーザー測遠機、赤外線暗視装置、TVカメラが並んでいる。

87AWの光学追尾装置はゲーパルトより高度なものが搭載されており、これは電波妨害環境下で威力を発揮すると思われる。
なお87AWは戦闘時以外は、レーダー・アンテナが邪魔にならないように格納しておくことが可能である。
格納時には捜索レーダー・アンテナのアームを砲塔の後方に倒し、追尾レーダー・アンテナも後ろを向けて90度後方に倒すようになっており、起立時には4.40mある全高が格納時には3.25mまで抑えられる。

87AWやゲーパルトのように追尾レーダーと捜索レーダーを別々に装備するメリットは、追尾レーダーにより1目標と交戦している間も捜索レーダーによって別の目標の捜索が可能となる点である。
仮想敵であった旧ソ連軍が主力装備としていたZSU-23-4シルカ対空自走砲は目標の捜索と追尾を1つのレーダーで行なっていたため、1目標と交戦している間は事実上盲目となってしまい次の目標との交戦が遅れてしまう欠点があったが、この点では5〜6目標との連続交戦能力を持つ87AWの方が大きく上回っている。

87AWのFCSの中心となるのはディジタル式の射撃統制コンピューターで、ゲーパルトが装備しているアナログ式の射撃統制コンピューターよりも進んだものが搭載されている。
射撃統制コンピューターは砲塔内の前半部に収められており、メインテナンス性を考慮して砲塔前面の装甲板はボルト止めの着脱式カバーとなっている。

FCSはパルス・ドップラー方式の捜索、追尾レーダーを使用し、コンピューター処理を行う点はゲーパルトと同じである。
低空域における空中目標の捜索、捕捉・追尾、高射機関砲の発射までがリアルタイムで算出されて、車体・砲の動揺修正も全て自動的に行われる仕組みになっている。

87AWは機甲部隊に随伴しての近接対空防御を主な任務とする車両だが、最も大きな脅威である攻撃ヘリコプターの放つ対戦車誘導ミサイルの射程が延びた現在では、高射機関砲の射程外からアウトレンジ攻撃されてしまうという問題を抱えている。
ドイツ陸軍のゲーパルトも同じ問題を抱えているため、迎撃範囲の拡大を図ってアメリカ製のスティンガー対空ミサイルを装備する改良が実施されているが、87AWについてはこのような改良計画は無いようである。


<87式自走高射機関砲>

全長:    7.99m
全幅:    3.18m
全高:    4.40m(レーダー起立時)、3.25m(レーダー格納時)
全備重量: 38.0t
乗員:    3名
エンジン:  三菱10ZF22WT 2ストロークV型10気筒空冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 720hp/2,200rpm
最大速度: 53km/h
航続距離: 300km
武装:    90口径35mm高射機関砲KDA×2 (660発)
装甲厚:


<参考文献>

・「グランドパワー2012年5月号 自衛隊の車輌と装備 87式自走高射機関砲」 伊吹竜太郎 著  ガリレオ出版
・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」  ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946〜2000」  デルタ出版
・「陸上自衛隊 車輌・装備ファイル」  デルタ出版
・「パンツァー2003年4月号 AFV比較論 87式自走高射機関砲 vs シルカ」 鈴木浩志 著  アルゴノート社
・「パンツァー2011年4月号 AFVの主力火器 エリコンの車載機関砲」 加藤聡 著  アルゴノート社
・「パンツァー2008年7月号 陸上自衛隊 87式自走高射機関砲」 三鷹聡 著  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「陸自車輌50年史」  アルゴノート社
・「TYPE74 (上)」  アルゴノート社
・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 齋木伸生 著  光人社
・「世界の最強陸上兵器 BEST100」  成美堂出版
・「徹底解剖!世界の最強戦闘車両」  洋泉社
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー
・「新・世界の主力戦車カタログ」  三修社

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