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86式歩兵戦闘車


86式歩兵戦闘車



86B式歩兵戦闘車



86A式歩兵戦闘車



●開発

ソ連軍は1960年代後期から従来の兵員輸送を主目的とするAPC(装甲兵員輸送車)と異なり、兵員輸送能力と高い戦闘能力を両立させたIFV(歩兵戦闘車)という新しいジャンルの車両の実戦配備を開始した。
APCが自衛用の機関銃程度しか武装を装備していないのに対し、ソ連初のIFVであるBMP-1歩兵戦闘車は73mm低圧滑腔砲や9M14マリュートカ対戦車ミサイルなど、戦車にも対抗可能な強力な武装を装備しており、西側の軍事関係者たちを驚かせた。

このBMP-1に対抗するために西側諸国もIFVの開発に着手し、M2ブラッドリー、ウォーリア、マルダー、AMX-10PなどのIFVが次々と誕生した。
こうした世界情勢の中で中国軍もIFVの導入を計画し、63式装甲兵員輸送車など既存のAPCをベースに新型IFVの開発を進めようとしたが、既存の車両がベースでは満足できる性能を持つIFVは開発できなかった。

1980年代に入って中国は、エジプトなど中東諸国からソ連製のBMP-1を数両極秘に入手することに成功し、その詳細なデータを採取すると共に、そのままコピー生産して自軍の装備とすることを決定した。
BMP-1のコピー生産型の量産準備は1986年までに完了し、「86式歩兵戦闘車」(WZ-501)の制式名称が与えられて1987年からNORINCO(中国北方工業公司)の手で量産が開始された。

86式歩兵戦闘車はこれまでに約1,000両が中国軍向けに生産されたといわれているが、原型となったBMP-1が1960年代に開発された車両であるためすでに旧式化しており、中国軍は本車に様々な近代化改修を施して性能の向上を図った。
まず海軍陸戦隊向けに86式歩兵戦闘車の水上航行能力を強化することになり、車体後部への船外機の装着、車体の前後への着脱式フロートの装着、車体前部の波切り板の大型化が図られたタイプが開発された。

このタイプには「86B式歩兵戦闘車」の制式名称が与えられ、海軍陸戦隊向けに数百両が生産された。
続いて中国軍は、86式歩兵戦闘車の戦闘能力の抜本的な強化にも取り組んだ。
まず本車の主砲を73mm低圧滑腔砲に代えて、より発射速度と射程に優れる国産の37mm対空機関砲を装備することが検討されたが、性能不足や重量過大などの問題から中止された。

さらにスイスのエリコン社製の35mm機関砲や、フランスのイスパノ・スイザ社製の30mm機関砲の装備なども計画されたが、諸般の事情により実用化には至らなかった。
1997年になって中国はロシアとの軍事協力プロジェクトに署名し、ロシア軍の主力IFVであるBMP-3歩兵戦闘車の技術供与を受けることに成功した。

そして中国軍はBMP-3の技術を基に、砲塔前面に80.5口径30mm機関砲2A72と7.62mm機関銃を同軸に装備する1名用のGCTWM(ZPT-99)砲塔を開発し、従来の砲塔に代えて86式歩兵戦闘車に搭載した。
発射速度の高い30mm機関砲を装備したことで敵歩兵や地上攻撃ヘリコプターに対する戦闘能力が向上し、また誘導方式を改良した「紅箭73C」対戦車ミサイルを使用できるようになったため対戦車戦闘能力も向上した。

他にも全体的な装甲防御力の強化が図られて戦闘重量が14.8tに増加したこの改良型は、2000年に「86A式歩兵戦闘車」として制式化され、既存の86式歩兵戦闘車は全てこのタイプに改修されることになった。
86式歩兵戦闘車の派生型としては、砲塔を取り外して武装を54式12.7mm重機関銃1挺のみとした輸出向けのAPC型(WZ-503)や、「紅箭73B」対戦車ミサイルの4連装発射機を搭載した戦車駆逐車型(WZ-504)、装甲救急車型(WZ-505)、装甲指揮車型(WZ-506)などが開発されている。


●構造

86式歩兵戦闘車の構造は、原型となった旧ソ連製のBMP-1歩兵戦闘車とほぼ同一である。
車体と砲塔は圧延防弾鋼板の溶接構造で、水陸両用性を持つ車体は舟型の形状をしており、12.7mm徹甲弾に対する抗堪性を有している。
さらに、加圧式のNBC防護装置を搭載している。

車内レイアウトは車体前部左側が操縦室、前部右側が機関室、車体中央部が全周旋回式砲塔を搭載した戦闘室、車体後部が8名の完全武装歩兵を収容する兵員室となっている。
固有の乗員は車長、砲手、操縦手の3名となっている。
後部兵員室内には4名用のシートが2基背中合わせに配置されており、兵員室上面には4枚の大型ハッチが設けられている。

このハッチは搭乗歩兵の乗降に用いられる他、ここから身を乗り出して外部を射撃することも可能である。
また兵員室の側面には各人用にボールマウント式のガンポートと視察用ペリスコープが完備されており、ここから外部を射撃できるようになっている。
兵員室の後面には燃料タンクを兼ねた観音開き式のドアが設けられており、搭乗歩兵は通常ここから乗降を行うようになっている。

86式歩兵戦闘車の砲塔は1名用で、避弾経始を考慮して円錐形にデザインされている。
武装は30口径73mm低圧滑腔砲WZ-312(BMP-1の73mm低圧滑腔砲2A28「グロム」(雷鳴)のコピー生産型)と、86式7.62mm機関銃を同軸に装備している他、「紅箭73A」対戦車ミサイル(旧ソ連製の9M14「マリュートカ」(赤ん坊)対戦車ミサイルのコピー生産型)の発射レールを主砲の上部に装備している。

73mm低圧滑腔砲から発射される擲弾は、旧ソ連製の携帯式対戦車無反動砲RPG-7とほぼ同様の機能を持っており、装甲穿孔力350mmの成形炸薬弾頭を後部のセルロイド充填型発射薬で砲口初速約400m/秒で撃ち出し、その後弾頭底部のロケット・モーターに点火して約700m/秒まで加速されて飛翔するものである。
飛翔する際には弾底部から4枚の折り畳み式安定翼が展張されるようになっているため、横風の影響を受け易く実用有効射程は約800m程度である。

「紅箭73A」対戦車ミサイルは手動式指令照準線誘導方式のミサイルで飛翔速度120m/秒、有効射程500〜3,000m、装甲穿孔力400〜500mm。
このミサイルは車両が停止している状態でしか発射できず、飛翔速度が遅いため命中するまでに照準手が反撃を受ける危険があるという欠点を持つ。

86式歩兵戦闘車の搭載弾数は73mm砲弾が40発、7.62mm機関銃弾が2,000発、対戦車ミサイルが5発となっている。
また車内には乗員の携行火器として7.62mm小銃7挺、7.62mm軽機関銃2挺、69式40mm対戦車無反動砲、「紅纓5」携帯式対空ミサイル・システム(旧ソ連製の9K32「ストレラ(矢)2」対空ミサイル・システムのコピー生産型)を搭載している。

2000年に制式化された改良型の86A式歩兵戦闘車が装備するGCTWM砲塔は1名用で、前述のように砲塔前面に80.5口径30mm機関砲2A72と86式7.62mm機関銃を同軸に装備する他、誘導方式を改良した「紅箭73C」対戦車ミサイルの発射レールも装備している。
この砲塔には第2世代型の微光増幅式暗視装置が搭載されており、夜間戦闘能力が大幅に向上している。

30mm機関砲2A72は徹甲弾を使用した場合砲口初速1,000m/秒、発射速度300発/分で、最大射程は地上目標で4,000m、空中目標で2,500mとなっている。
「紅箭73C」対戦車ミサイルは、「紅箭73A」対戦車ミサイルの誘導方式を手動式指令照準線方式から半自動式指令照準線方式に改めた改良型で、爆発反応装甲対策として弾頭先端部にプローブを装着している。


<86式歩兵戦闘車>

全長:    6.74m
全幅:    2.97m
全高:    1.92m
全備重量: 13.3t
乗員:    3名
兵員:    8名
エンジン:  6V150 4ストロークV型6気筒液冷ディーゼル
最大出力: 300hp/2,600rpm
最大速度: 65km/h(浮航 8km/h)
航続距離: 510km
武装:    30口径73mm低圧滑腔砲WZ-312×1 (40発)
        86式7.62mm機関銃×1 (2,000発)
        「紅箭73」対戦車ミサイル発射機×1 (5発)
装甲厚:   6〜26mm


<参考文献>

・「パンツァー2014年6月号 各国の海兵隊(9) 中国陸戦隊」 荒木雅也 著  アルゴノート社
・「パンツァー2010年7月号 中国陸軍 04式戦闘兵車」 前河原雄太 著  アルゴノート社
・「パンツァー2021年3月号 衝撃の歩兵戦闘車 BMP」 藤村純佳 著  アルゴノート社
・「パンツァー2019年5月号 86A式歩兵戦闘車」  アルゴノート社
・「パンツァー2006年10月号 海外ニュース」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「世界の装軌装甲車カタログ」  三修社


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