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85式戦車


85-II式戦車



85-IIM式戦車



85-III式戦車



●85式戦車

NORINCO(中国北方工業公司)は1980年代後期に、中国軍向けに80式戦車の改良型である88式戦車の開発を進める一方で、中国と友好関係にあったパキスタンからの求めに応じて、88式戦車をさらに発展させた新型MBTの開発にも着手していた。
この新型MBTには「85式戦車」の名称が与えられたが、85式戦車では防御力を向上させるために砲塔と車体の前面に複合装甲を導入することになった。

1980年代後期に試作された85式戦車の最初のタイプでは、従来の中国製MBTに採用されていた半球形の鋳造製砲塔に代えて、西側の戦後第3世代MBTのような平面で構成された圧延防弾鋼板の溶接製砲塔が採用され、車体と砲塔の前面には国内開発された複合装甲が導入された。
複合装甲を導入したことにより、85式戦車の装甲防御力はKE(運動エネルギー)弾とCE(化学エネルギー)弾の両方に対して、従来の中国製MBTより大幅に向上した。

85式戦車の装甲防御力は、車体前面がKE弾/CE弾に対してRHA(均質圧延装甲板)換算で350mm/450mm、砲塔前面が500mm/650mmといわれており、西側諸国の戦後第2世代MBTが装備する105mmライフル砲のAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)の直撃に耐えられる水準となっている。

85式戦車の主砲は80式/88式戦車と同じ83式51口径105mmライフル砲を装備しているが、FCS(射撃統制システム)が改良されたため命中率が向上している。
85式戦車のFCSは、イスラエル製の「ISFCS-212」(Image-Stabilized Fire Control System 212:映像安定化射撃統制システム212型)と呼ばれるもので、レーザー測遠機と弾道コンピューターおよび環境センサーをリンクさせており、従来の中国製MBTのFCSに比べて大幅に性能が向上している。

85式戦車は副武装も80式/88式戦車のものを踏襲しており、主砲と同軸に59式7.62mm機関銃(旧ソ連製の7.62mm機関銃SGMTの国産型)を1挺、車長用キューポラ前方に54式12.7mm重機関銃(旧ソ連製の12.7mm重機関銃DShKMの国産型)を1挺装備している。
弾薬搭載数は105mm砲弾が46発、12.7mm機関銃弾が500発、7.62mm機関銃弾が2,250発となっている。

85式戦車の車体は88式戦車と同じものが用いられており、エンジンも88式戦車と同じ12150ZL V型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル・エンジン(出力730hp)を採用している。
装甲防御力とFCSの強化に伴って、85式戦車の戦闘重量は88式戦車の38.5tから39.5tに増加したが、機動性能に変化は見られず路上最大速度57km/h、路上航続距離500kmの性能を発揮する。


●85-I式戦車

続いてNORINCOは、85式戦車の車体を新設計のものに変更した改良型を「85-I式戦車」の名称で開発した。
85-I式戦車では、それまでフェンダー上に配置されていた予備燃料タンクやOVM(車外装備品)の収納ボックスが廃止され、新たに一体成型された防弾鋼板製の収納ボックスが設けられた。
また主砲の砲身には、温度の影響による歪みを補正するためのサーマル・スリーブが装着されるようになった。

なお85式戦車の開発時にはまだ国産の複合装甲が完成していなかったため、実際に複合装甲が導入されたのはこの85-I式戦車からともいわれる。
85式戦車および85-I式戦車は試験運用を目的として合計200両がNORINCOで生産され、その大部分がパキスタン軍に引き渡されたと見られている。

しかし、85式/85-I式戦車は性能的に不充分だったためパキスタン軍に本格的に導入されることはなく、同軍はNORINCOに対してさらなる改良型の開発を要請した。
なおパキスタン軍の新型MBTの量産は、同国を代表する軍需企業であるタクシラ重工業が担当することになっていたが、同社は85式/85-I式戦車の整備やオーバーホールを実施することで、新型MBTの量産に必要な技術的ノウハウを習得していった。


●85-II式戦車

NORINCOはその後も85式戦車の改良を続け、1989年にアラブ首長国連邦で開催された兵器展示会「ドバイ'89」で「85-II式戦車」と呼ばれる改良型の仕様を公開した。
85-II式戦車の戦闘重量は85式戦車の39.5tから40tに増加しているが、機関系の改良により路上航続距離は85式戦車の500kmから600kmに延伸している。

なお新型のISFCS-212が導入されたのはこの85-II式戦車からで、85式/85-I式戦車では80式/88式戦車と同じ旧型のFCSを搭載していたともいわれる。
NORINCOはパキスタン軍に85-II式戦車の採用を提案し、パキスタン軍の要求仕様に基づくタイプを「85-IIA式戦車」の名称で共同開発することになった。

85-IIA式戦車は59式戦車や69式戦車の安価なコンポーネントを組み合わせることで、オリジナルの85-II式戦車に比べて製造コストの低減が図られ、訓練用の模擬射撃装置「ウェストン・シムファイア2」を装着できるよう改修されていた。
しかしパキスタン軍が後述の85-IIM式戦車を導入する方針を固めたため、85-IIA式戦車の本格的な量産は行われなかった。


●85-IIM式戦車

パキスタン軍はNORINCOに85-IIA式戦車の開発を進めさせる一方で、85-II式戦車に旧ソ連製のT-72戦車が装備する51口径125mm滑腔砲2A46と、「カセートカ」(Kassetka:カセット)自動装填装置を装備することが可能かどうか打診しており、85-II式戦車にこれらを導入したタイプも開発するようNORINCOに要請した。
これは、長年対立しているインドが旧ソ連からT-72戦車を導入して主力装備としていたためで、これに対抗するには同等の主砲を搭載する新型MBTを装備する必要があると考えたからである。

NORINCOは、体制が末期状態にあった旧ソ連から125mm滑腔砲2A46とその弾薬のライセンス生産権を購入することに成功し、パキスタン軍向けの85-II式戦車および将来の中国軍MBTに装備すべく国産化を進めた。
1992年の後半期には、85-II式戦車に国産の51口径125mm滑腔砲を搭載した試作車が完成した。
この試作車には、T-72戦車の「カセートカ」自動装填装置を参考に中国で開発された自動装填装置も搭載されたため装填手が不要になり、乗員は車長、砲手、操縦手の3名となった。

この試作車は「85-IIM式戦車」と称され、1992年末まで実施された運用試験の結果パキスタン軍に採用されることが決定し、85-IIM式戦車にパキスタン軍の要求仕様に基づいた改修を施したタイプを、「85-IIAP式戦車」の名称でタクシラ重工業において量産することになった。

当時パキスタン軍はNORINCOと共同で、「アル・ハリド戦車」(中国名:90-II式戦車)と呼ばれるより高性能な新型MBTの開発も進めており、85-IIAP式戦車の量産を行うことでアル・ハリド戦車の量産化に必要な技術的ノウハウを習得することも目指していた。
85-IIAP式戦車はタクシラ重工業で1995年までに225両が生産され、最終的に300両以上が生産されてパキスタン軍の実戦部隊に配備された。


●85-III式戦車

85-III式戦車は85-IIM式戦車の改良型で、試作車は1995年の初頭に公表された。
メーカーのNORINCOでは本車を1997年4月には実用化したと公表しているが、主な改良点には機動力、防御力、攻撃力の向上が挙げられる。
機動力面では、新型のV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジンが採用されて出力が1,000hpにパワーアップし、従来の中国製MBTに比べて大幅に機動性能が向上している。

85-III式戦車の戦闘重量は85-IIM式戦車の41tから41.7tに増加しているが、エンジンのパワーアップの結果出力/重量比は85-IIM式戦車の17.80hp/tから23.98hp/tへと逆に向上しており、路上最大速度も85-IIM式戦車の57km/hから65km/hへと引き上げられている。
また85-III式戦車の履帯は、従来の中国製MBTに用いられていたシングルピン/シングルブロック型のものに代えて、取り外しが可能なゴムパッド付きのダブルピン/ダブルブロック型のものが採用されている。

防御力面では砲塔と車体の前面に改良型の複合装甲が導入されており、このうち砲塔前面の複合装甲はモジュール化されているため、被弾により損傷した際にこの部分だけ素早く交換することが可能になっている。
また車体前面と砲塔の前面/側面前部には、国内開発されたERA(爆発反応装甲)のブロックがびっしり装着されており、成形炸薬弾に対する防御力を大幅に強化している。

攻撃力面ではFCSが改良されており、車長と砲手用の2軸安定式照準機には第2世代型イメージ増幅暗視装置が組み込まれ夜間戦闘能力が向上している。
また弾道コンピューターも新型のディジタル式のものに更新されており、走行間射撃能力が向上している。
主砲は85-IIM式戦車と同じく国産の51口径125mm滑腔砲が採用されており、弾薬は劣化ウラン弾芯を持つAPFSDS、HEAT(対戦車榴弾)、HE-FRAG(破片効果榴弾)が合計で42発まで搭載される。

副武装については新型のものに変更されており、主砲と同軸に86式7.62mm機関銃(旧ソ連製の7.62mm機関銃PKTの国産型)を1挺、車長用キューポラ前方に85式12.7mm重機関銃(旧ソ連製の12.7mm重機関銃NSVTの国産型)を1挺装備している。
現在のところ、85-III式戦車はパキスタンを始めとする海外への輸出用MBTとして位置付けられており、中国軍向けには生産されていないようである。


<85式戦車>

全長:    9.34m
車体長:   6.325m
全幅:    3.372m
全高:    2.30m
全備重量: 39.5t
乗員:    4名
エンジン:  12150ZL 4ストロークV型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル
最大出力: 730hp/2,000rpm
最大速度: 57km/h
航続距離: 500km
武装:    83式51口径105mmライフル砲×1 (46発)
        54式12.7mm重機関銃×1 (500発)
        59式7.62mm機関銃×1 (2,250発)
装甲:    複合装甲


<85-II式戦車>

全長:    9.34m
車体長:   6.325m
全幅:    3.372m
全高:    2.30m
全備重量: 40.0t
乗員:    4名
エンジン:  12150ZL 4ストロークV型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル
最大出力: 730hp/2,000rpm
最大速度: 57km/h
航続距離: 500km
武装:    83式51口径105mmライフル砲×1 (46発)
        54式12.7mm重機関銃×1 (500発)
        59式7.62mm機関銃×1 (2,250発)
装甲:    複合装甲


<85-IIM式戦車>

全長:    10.28m
車体長:   7.30m
全幅:    3.40m
全高:    2.30m
全備重量: 41.0〜41.5t
乗員:    4名
エンジン:  12150ZL 4ストロークV型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル
最大出力: 730hp/2,000rpm
最大速度: 55〜57km/h
航続距離: 430km
武装:    51口径125mm滑腔砲2A46×1 (41〜42発)
        54式12.7mm重機関銃×1 (500発)
        59式7.62mm機関銃×1 (2,250発)
装甲:    複合装甲


<85-III式戦車>

全長:    10.28m
車体長:   7.30m
全幅:    3.40m
全高:    2.30m
全備重量: 41.7t
乗員:    3名
エンジン:  8165 4ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 1,000hp
最大速度: 65km/h
航続距離: 430km
武装:    51口径125mm滑腔砲2A46×1 (41〜42発)
        85式12.7mm重機関銃×1 (300発)
        86式7.62mm機関銃×1 (2,000発)
装甲:    複合装甲


<参考文献>

・「パンツァー2001年3月号 近代化の歩みを進める最近の中国戦車」 宇垣大成 著  アルゴノート社
・「パンツァー2018年1月号 特集 知られざる中国戦車」 宮永忠将/三鷹聡 共著  アルゴノート社
・「世界AFV年鑑 2005〜2006」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2011〜2012」  アルゴノート社
・「グランドパワー2004年8月号 中国戦車開発史(3)」 古是三春 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2004年9月号 中国戦車開発史(4)」 古是三春 著  ガリレオ出版
・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」  ガリレオ出版
・「世界の戦車(2) 第2次世界大戦後〜現代編」  デルタ出版
・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著  三修社
・「新・世界の主力戦車カタログ」  三修社
・「世界の主力戦車カタログ」  三修社
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー
・「世界の戦車・装甲車」 竹内昭 著  学研

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