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82式指揮通信車/化学防護車


●82式指揮通信車




82式指揮通信車は、戦後初めて実用化された国産の装輪式装甲車である。
名前の通り指揮・通信を担当する車両で、「Command and Communication Vehicle」を略して「CCV」と呼ばれることもある。
主な配備先は師団司令部や普通科連隊本部、特科連隊本部などで1983年度から配備が開始されており、現在までに約230両が配備されている。

本車の開発は1974年から始まり、試作にあたっては小松製作所の4×4型と三菱重工業の6×6型が競争する形となった。
しかしその後の試験では、搭載機器や搭乗員数などの兼ね合いから6×6型が望ましいとされ、小松製作所も方針を変更し、1978年から4億5,600万円をかけて4両の6×6型の試作車を製作した。

試作第1号車は1980年に完成しており、技術試験、実用試験を経て1982年に小松製作所の6×6型が「82式指揮通信車」として制式化された。
82式指揮通信車の生産は小松製作所が担当しており、およそ250両の調達が見込まれている。
1両当たりの生産コストは導入当初は5,800万円程度であったが、現在は1億円近いと推定される。

諸外国では、この種の指揮車両は装甲兵員輸送車をベースとした派生型として作られることが多く、初めから専用車両として作られるのは珍しい。
82式指揮通信車の車体は圧延防弾鋼板の溶接構造で、エンジンが車体中央部左側(第1輪と第2輪の間)に配置され、その前後を操縦室と指揮・通信室が挟む形になっている。
エンジン右側には狭いながらも通路があり、前後は一応往来が可能である。

車体前部の操縦室内には右側に操縦手席、左側に助手席があり、それぞれの上面には後ろ開き式のハッチが設けられている。
助手席上面のハッチ前方には銃架が設けられており、必要があれば62式7.62mm機関銃を装備することができる。

操縦室の前面と左右側面の窓には、上開き式の装甲シャッターが取り付けられている。
車体後部の指揮・通信室は天井が一段高くなっており、内部での作業を行い易くしている。
指揮・通信室の内部配置は外から見た場合、右側タイアハウス上に通信機器や小さな折り畳みテーブルが配置されている形になる。

座席はそれらを取り囲むように配置され、6名の指揮・通信要員が搭乗する。
上面にはハッチが2つあり、右側のハッチ前方には銃架が設けられており、主武装である12.7mm重機関銃M2がマウントされている。
なお左側のハッチは後期生産分から、やや大きめのキューポラに変更された。
また、室内には89mmロケット発射筒M20改4型が搭載される。

乗員の乗降には車体右側面の第1輪と第2輪の間、車体左側面の第2輪と第3輪の間、それに車体後面に設けられているアクセスドアを使用する。
また車体右側面に3基、左側面に2基、後部ドアに1基ガンポートが備えられており、ある程度歩兵戦闘車的な使い方もできるようである。

エンジンは、いすゞ自動車製の10PBI 4ストロークV型10気筒液冷ディーゼル・エンジンを搭載している。
これは戦前・戦後を通じ、日本の装甲車両が搭載する初の液冷エンジンである。
出力は305hpで、全備重量13.6tで換算すると出力/重量比は22.4hp/tとなる。

足周りは油圧コイル・スプリングの6輪独立懸架方式で、路上最大速度は100km/hとなっている。
オフロードについては垂直障害物なら60cmまで、溝なら幅1.5mまで横断可能である。
その反面浮航性は無く、渡河能力は水深1mまでである。
路上航続距離は500kmで、同じクラスの諸外国の車両と比べるとやや短い。


●化学防護車




82式指揮通信車の派生型としては、化学防護車がある。
本車は82式指揮通信車をベースに各部の密閉度を上げ、化学剤や放射性物質から乗員を防護するようにしたもので、車内には空気浄化装置が取り付けられており、防護マスクや防護衣を装備すること無く、放射線の測定や毒ガスの検知が行えるようになっている。

また原子力災害時には、高速中性子を減速する特殊なパネルと鉛ガラスから成る中性子遮蔽セットを車体前部に装着することができる。
本車には放射線測定器やガス検知器に加え、車内には乗員用の空気マスクが搭載されている他、車体後部右側には電動式のマニピュレイターが備えられており、車内から安全に汚染された土壌のサンプルを採取できるようになっている。

マニピュレイターは車体後部に設けられた窓から目視で、もしくはTVカメラの画像を見ながら手元のジョイスティックで操作される。
マニピュレイターの反対の後部左側には風力・風向計が立てられ、汚染地域を示す小旗の設置装置が装備されている。

乗員は装備年鑑等では4名となっているが、通常は第1測定手(長)、第2測定手、操縦手の3名で運用されているようである。
武装は後部乗員室の上面右側に設けられたキューポラに、12.7mm重機関銃M2が1挺装備されているのみである。

全備重量は82式指揮通信車の13.6tから14.1tに増加しており、それに伴って路上最大速度は95km/hに低下している。
本車の主な配備先は各師団の本部付隊化学防護小隊や第101化学防護隊で、現在までに約30両が配備されている。


<82式指揮通信車>

全長:    5.72m
全幅:    2.48m
全高:    2.38m
全備重量: 13.6t
乗員:    8名
エンジン:  いすゞ10PBI 4ストロークV型10気筒液冷ディーゼル
最大出力: 305hp/2,700rpm
最大速度: 100km/h
航続距離: 500km
武装:    12.7mm重機関銃M2×1 (500発)
        62式7.62mm機関銃×1 (3,200発)
装甲厚:


<化学防護車>

全長:    6.10m
全幅:    2.48m
全高:    2.38m
全備重量: 14.1t
乗員:    4名
エンジン:  いすゞ10PBI 4ストロークV型10気筒液冷ディーゼル
最大出力: 305hp/2,700rpm
最大速度: 95km/h
航続距離: 500km
武装:    12.7mm重機関銃M2×1 (500発)
装甲厚:


<参考文献>

・「グランドパワー2011年6月号 陸上自衛隊 化学防護車(B)」 伊吹竜太郎 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2005年7月号 陸上自衛隊 6輪装甲車」 伊吹竜太郎 著  ガリレオ出版
・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」  ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(4) 装輪式装甲車輌:1904〜2000」  デルタ出版
・「陸上自衛隊 車輌・装備ファイル」  デルタ出版
・「パンツァー2016年5月号 陸上自衛隊最初の装輪AFV 82式指揮通信車」  アルゴノート社
・「パンツァー1999年12月号 陸自の化学防護装備」 田村尚也 著  アルゴノート社
・「パンツァー2009年1月号 陸上自衛隊の装備車輌」  アルゴノート社
・「パンツァー2014年3月号 陸上自衛隊AFV 2014」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー
・「世界の最新陸上兵器 300」  成美堂出版
・「新・世界の装輪装甲車カタログ」  三修社
・「世界の装輪装甲車カタログ」  三修社
・「自衛隊図鑑 2002」  学研

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