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80式戦車/88式戦車


●80式戦車




中国軍の第一線戦車部隊では1970年代まで、旧ソ連製のT-54中戦車を国内ライセンス生産した59式戦車を主要な装備としていた。
しかしこの当時すでに59式戦車は性能的に過去の車種となっており、中国軍とNORINCO(中国北方工業公司)は長年の戦車戦力の質の立ち遅れを挽回するべく、1974年頃から新世代MBTの研究開発に着手した。

しかしこの当時の中国の技術水準は世界の主要な工業国のものから決定的に遅れていたため、まずM60、レオパルト1、AMX-30等の西側戦後第2世代MBTにほぼ相当する水準の新型MBTを実用化する方針を明らかにし、1978年から開発に着手した。
最初の試作車は1985年に内モンゴル自治区の包頭にある第617工場で完成し、「80式戦車」として制式化されて同年から量産が開始された。

80式戦車の車体は全溶接式の新規設計のもので、西側MBTと同様に片側6個の複列式転輪と3個の上部支持輪を持ち長さ、幅共に79式戦車までのものより拡大されていた。
ただし履帯については従来と同様、ソ連型のシングルピン/シングルブロック型のものが用いられていた。
車内レイアウトは車体前部が操縦室、車体中央部が全周旋回式砲塔を搭載した戦闘室、車体後部が機関室という一般的な配置になっていた。

操縦手は車体前部左側に位置し、上部には左側に旋回して開くスライド式の操縦手用ハッチが設けられていた。
操縦手用には2基のペリスコープが備えられ、その内の1基を赤外線暗視装置に切り替えることができた。
また車体前面上部には波切り板が装着され、複合装甲を追加することも可能になっていた。
砲塔は59式戦車以来の半球型鋳造砲塔を引き継いでおり、砲塔内には3名の乗員が搭乗し左側前方に砲手、その後方に車長、主砲を挟んで右側に装填手が位置した。

砲塔前面の装甲厚は59式戦車の200mmから250mmに強化されており、砲塔には複合装甲を装着することもできるようになっている。
砲塔の後半部周囲に取り付けられた格子状の鋼製バスケットは、HEAT(対戦車榴弾)や対戦車ミサイル等の成形炸薬弾防護用の空間装甲の役目も兼ねていた。

主砲には西側第2世代MBTの標準武装となったイギリスの王立造兵廠製の105mmライフル砲L7と同系の、83式51口径105mmライフル砲が用いられていた。
砲身には排煙機とサーマル・スリーブが装着されており、砲の俯仰角は−4.3〜+18度となっていた。
弾薬はドイツのラインメタル社製または中国製のものが使用でき、中国で開発された弾薬ではAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾、砲口初速1,455m/秒)、HEAT、HESH(粘着榴弾)、HE(榴弾)が使用されている。

副武装は主砲と同軸に59式7.62mm機関銃(旧ソ連製の7.62mm機関銃SGMTの国産型)、装填手用ハッチに対空用の54式12.7mm重機関銃(旧ソ連製の12.7mm重機関銃DShKMの国産型)が装備され、砲塔の左右側面には各4基ずつ発煙弾発射機が装着されていた。
80式戦車のFCS(射撃統制システム)は、イギリスのマルコーニ社の技術協力による進歩したものが導入された。

このFCSはアナログ式弾道コンピューターとレーザー測遠機を内蔵した2軸安定式光学照準機、目標位置の仰角と方位角、横風などを計測する環境センサー、2軸砲安定化装置、第2世代の光量増幅式暗視装置などで構成されており、80式戦車は従来の中国製MBTに比べて主砲の命中率が向上した。

なおFCSは車長用の照準機にも連動しており、車長が砲手にオーバーライドして主砲を発射することも可能となっている。
80式戦車のエンジンは、69式/79式戦車の12150L-7BWディーゼル・エンジンにスーパーチャージャーを装備した12150ZL V型12気筒液冷ディーゼル・エンジンに換装され、出力は580hpから一挙に730hpへとパワーアップされている。

このため80式戦車は、車体の大型化に伴って戦闘重量38tと従来の中国製MBTよりも重くなっていたにも関わらず、出力/重量比は逆に19.2hp/tへと向上し57km/hの路上最大速度を実現した。
変速機については、従来の前進5段/後進1段の手動式のものがそのまま用いられている。
路上航続距離は430kmだったが車体の後端には円筒形の追加燃料タンクを2基装着することができ、この場合には600km近い路上航続距離が得られた。

なお、この追加燃料タンクは車内からの操作で切り離すことも可能であった。
また車内与圧式のNBC防護装置、5mまで潜水可能なスノーケル装置も標準装備されていた。
このように80式戦車は従来の中国製MBTに比べて大幅に性能が向上していたが、まだ車種として未成熟であったため中国軍には採用されなかった。

その後NORINCOは80式戦車に改良を施したタイプを「80-II式戦車」として開発し、これに伴って従来の80式戦車は「80-I式戦車」と呼ばれるようになった。
80-II式戦車では、80-I式戦車で砲塔後半部周囲に設けられていた空間装甲を兼ねる格子状バスケットが砲塔前半部にも追加され、西側の技術を導入した新型のNBC防護システムと新型無線機が採用されている。

また従来の中国製MBTに用いられていたシングルピン/シングルブロック型履帯に代えて、取り外しが可能なゴムパッド付きのダブルピン/ダブルブロック型履帯が導入された。
80-I式/80-II式戦車は1991年までに合計500両が生産されたが、これらは1995年までに後述する88式戦車に改修されている。


●88式戦車




NORINCOは中国軍の要求に基づき、80式戦車に各種の改良を加えて完成度を高めたタイプを1989年に完成させ、これは「88式戦車」の制式名称で中国軍に採用されることになった。
88式戦車は80式戦車に比べて全長が若干長くなり、主砲弾薬の搭載数も80式戦車の44発から48発に増加し、無線装備が全面的に新型化され車長用にはパノラマ式サイトが装備された。

また変速機も新設計のものに換装され、履帯も取り外しが可能なゴムパッド付きのダブルピン/ダブルブロック型のものが用いられた。
これらの改良の結果、88式戦車の戦闘重量は80式戦車の38tから38.5tに増加した。
なお、88式戦車の主砲を中国で開発された長砲身の83-I式105mmライフル砲に換装したタイプも試作され、これは「88A式戦車」の名称が与えられたが中国軍には採用されなかった。

1990年代初めには、88式戦車にイスラエル製の「ISFCS-212」(Image-Stabilized Fire Control System 212:映像安定化射撃統制システム212型)と呼ばれる新型FCSを導入したタイプが開発され、「88B式戦車」の名称で中国軍に採用された。
88式/88B式戦車は全て80-I式/80-II式戦車からの改修によって調達され、1995年までに500両の88B式戦車が改修生産されている。

80式/88式戦車シリーズは外貨獲得のために海外への売り込みも図られたが、1991年2月の湾岸戦争地上戦でイラク軍が装備する59式/69式戦車がアメリカ軍のM1エイブラムズ戦車や、イギリス軍のチャレンジャー戦車に一方的に撃破され中国製兵器のイメージが大きく失墜したことと、その後に西側諸国やロシア・東欧諸国から国際市場に大量の戦後第2世代MBTや、一部の第3世代MBTが格安で放出されたためにたちまち競争力を失い、輸出には成功していない。

その後、中国軍とNORINCOは次世代の新型MBTとして99式戦車を実用化し2000年から量産を開始しているが、99式戦車は製造コストの高さから大量生産が難しいため、すでに旧式化している88B式戦車にモジュール式の複合装甲を追加して装甲防御力を大幅に向上させる等の近代化改修を施し、就役寿命の延長を図ることになった。
この近代化改修により、88B式戦車は2010年代まで中国軍の第一線部隊に留まるという。


<80式戦車>

全長:    9.34m
車体長:   6.04m
全幅:    3.37m
全高:    2.29m
全備重量: 38.0t
乗員:    4名
エンジン:  12150ZL 4ストロークV型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル
最大出力: 730hp/2,000rpm
最大速度: 57km/h
航続距離: 500km
武装:    83式51口径105mmライフル砲×1 (44発)
        54式12.7mm重機関銃×1 (500発)
        59式7.62mm機関銃×1 (2,250発)
装甲厚:   20〜250mm


<88式戦車>

全長:    9.34m
車体長:   6.04m
全幅:    3.37m
全高:    2.29m
全備重量: 38.5t
乗員:    4名
エンジン:  12150ZL 4ストロークV型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル
最大出力: 730hp/2,000rpm
最大速度: 57km/h
航続距離: 500km
武装:    83式51口径105mmライフル砲×1 (48発)
        54式12.7mm重機関銃×1 (500発)
        59式7.62mm機関銃×1 (2,250発)
装甲厚:   20〜250mm


<参考文献>

・「パンツァー2001年3月号 近代化の歩みを進める最近の中国戦車」 宇垣大成 著  アルゴノート社
・「パンツァー2018年1月号 特集 知られざる中国戦車」 宮永忠将/三鷹聡 共著  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「グランドパワー2004年8月号 中国戦車開発史(3)」 古是三春 著  ガリレオ出版
・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」  ガリレオ出版
・「世界の戦車(2) 第2次世界大戦後〜現代編」  デルタ出版
・「徹底解剖!世界の最強戦闘車両」  洋泉社
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー
・「世界の最新陸上兵器 300」  成美堂出版
・「新・世界の主力戦車カタログ」  三修社
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