7.5cm装甲対戦車自走砲II型
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7.5cm装甲対戦車自走砲II型
V2地対地ミサイルの装甲誘導・管制車
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+開発
ドイツ陸軍は1934年後半から、5tハーフトラック(Sd.Kfz.6)のシャシーを流用した対戦車自走砲の研究に着手し、その結果誕生したのが7.5cm対戦車自走砲1型/2型であるが、これらの車両は試験結果が芳しくなかったため量産には至らずに終わった。
そこで引き続き、5tハーフトラック流用の改良型対戦車自走砲が開発されることになった。
前作では設計と装甲ボディ、主砲の製造をデュッセルドルフのラインメタル社が担当し、5tハーフトラックの生産メーカーであるベルリン・オーバーシャイネヴァイデのビューシンクNAG社がシャシーを提供する形を採ったが、今回は装甲ボディの製造まで含めて本家であるビューシンクNAG社が単独で進めることになった。
本車の開発要求に関しては明らかではないが、1936年にドイツ陸軍兵器局第6課との間に開発と試作車4両の製作契約が結ばれたことは間違いないようである。
本車の基本的な構造は、当時5tハーフトラックの主力生産型であったBN l 7のコンポーネントを用い、ビューシンクNAG社の手で設計・製造された装甲ボディと砲塔を搭載したものであったが、7.5cm対戦車自走砲2型でも使用された延長型シャシーBN
l 10(H)が用いられ、このためシャシー製造番号も前作に続く独自の連番2009〜2012が与えられていた。
ただし、7.5cm対戦車自走砲2型ではこの延長型シャシーBN l 10(H)を用いるにあたって、転輪の数を片側6個に増やしたのに対し、本車の場合は7.5cm対戦車自走砲1型と同じく転輪数を片側5個としたため、第5転輪と誘導輪の間に隙間が生じることになった。
自社開発された装甲ボディの形状はラインメタル社の手になる前作とは大きく変化し、どちらかといえば足周りを除いて戦車に近いものになった。
また装甲厚は、前面は前作と同じ20mmだったが側面14mm、後面10mmに強化されていた。
前作と同様、車体中央部には全周旋回が可能な12角形のオープントップ式砲塔が搭載されたが、前作よりも砲塔の前後長が延ばされ、より全高が低められていた。
砲塔の装甲厚については不明だが、おそらく前面20mm、側/後面14mmであったと思われる。
なお、本車は装甲の強化に伴って前作より戦闘重量が増加したため、エンジンはオリジナルの5tハーフトラックより強力な、フリードリヒスハーフェンのマイバッハ発動機製作所製のHL45
直列6気筒液冷ガソリン・エンジン(150hp/3,800rpm)が搭載された。
砲塔にはラインメタル社が開発した40.8口径7.5cm対戦車砲PaK41が搭載され、戦闘室内に7.5cm砲弾35発が収められた。
これらの変更により本車の戦闘重量は前作の6tから2倍近い11tに増大したが、強化型エンジンに換装したおかげで整地における最大速度は50km/hと、通常型の5tハーフトラックと同等の機動力を確保した。
本車の機関室の形状は前作と変わらず、通常型では車体前部に位置していたエンジンを車体後部に移した点も同様であった。
乗員配置についても前作と同様で、車体前部の左側に操縦手が位置し、右側には無線手が配された。
また砲塔内には、車長兼装填手と砲手の2名が位置していた。
本車は「装甲自走砲架II型」の呼称が与えられたが4両が完成した試作車の内、7.5cm対戦車砲PaK41を備える砲塔を搭載した車両は2両のみで、残る2両の試作車の内1両はV2地対地ミサイルの装甲誘導・管制車、最後の1両はラインメタル社製の93.7口径5cm対空機関砲FlaK41を搭載する対空自走砲として完成した。
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+部隊配備
前述のように4両が完成した装甲自走砲架II型の試作車の内、7.5cm対戦車砲PaK41を備える砲塔を搭載した車両は2両のみで、完成後長らく本国での試験に供されていたが、1941年12月に北アフリカに向けて発送され、翌42年1月にはリビアに陸揚げされた。
この2両は第605戦車駆逐大隊に配備されて戦闘に投入されたが、同大隊には同じく5tハーフトラックをベースとするSd.Kfz.6/3ディアナ対戦車自走砲も配備されていた。
そして2両の装甲自走砲架II型の内1両が1942年5月にイギリス軍の攻撃で失われ、残る1両は同年6月に機械的な故障で行動不能となって放棄され、そのままイギリス軍の手に落ちその際の写真が残されている。
また装甲自走砲架II型の試作車の内1両は、V2地対地ミサイルの装甲誘導・管制車といういかにもドイツ的なユニークな車両として完成した。
これは固定式のサイトでV2ミサイルを運用した場合、直ちに連合軍機による攻撃を受けるのは必至との発想から誕生した機材であり、トレイラーにミサイルを載せた状態のV2牽引車と行動を共にし、森などに隠れてV2ミサイルの発射を行う際の指揮・管制車で、V2ミサイルの発射時に生じる高熱かつ有毒な噴射ガスから乗員を守るため、車体の上部に箱型の装甲戦闘室を架設し、その内部に各種誘導・管制機材が収められた。
試験の結果は上々だったようで、その後本車の開発ノウハウを背景として、より大型の8tハーフトラック(Sd.Kfz.7) KM m 11に装甲戦闘室を載せ、各種機材を収容したV2ミサイル用の誘導・管制車49両が製作されている。
最後に残った装甲自走砲架II型の試作車1両は、弾着威力と長射程、そして高い射撃速度を両立させる対空火器としてラインメタル社が開発した、93.7口径5cm対空機関砲FlaK41を搭載する対空自走砲として完成した。
5cm対空機関砲FlaK41は射撃速度130発/分、最大射程8,400mと、ドイツ軍の主力対空火器であった同社製の57口径3.7cm対空機関砲FlaK36を上回る性能を備えていたが、射撃時の振動が過大で照準精度に難が生じたため、結局60門という少数生産に留まっている。
このため自走砲への搭載も、試験以上に進むことは無かった。
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<7.5cm装甲対戦車自走砲II型>
全長:
全幅:
全高:
全備重量: 11.0t
乗員: 4名
エンジン: マイバッハHL45 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 150hp/3,800rpm
最大速度: 50km/h
航続距離:
武装: 40.8口径7.5cm対戦車砲PaK41×1 (35発)
装甲厚: 10〜20mm
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<参考文献>
・「グランドパワー2012年9月号 ドイツ・ハーフトラック改造対戦車自走砲」 後藤仁 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2021年10月号 5tハーフトラック」 後藤仁 著 ガリレオ出版
・「ドイツ陸軍兵器集 Vol.4 突撃砲/駆逐戦車/自走砲」 後藤仁/箙浩一 共著 ガリレオ出版
・「第2次大戦 ドイツ戦闘兵器カタログ Vol.1 AFV:1939〜43」 後藤仁 著 ガリレオ出版
・「パンツァー2002年11月号 ドイツAFVアルバム(265)」 伊藤裕之助 著 アルゴノート社
・「ジャーマン・タンクス」 ピーター・チェンバレン/ヒラリー・ドイル 共著 大日本絵画
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