第2次世界大戦後にソ連が実用化したPT-76水陸両用軽戦車のライセンス生産権を得て、中国が国産化したのが60式水陸両用軽戦車で、これに中国が独自に改良を加えて能力向上を図ったのが、この63式水陸両用軽戦車である。 当初開発は中国軍事技術研究所と第60研究所の手で進められたが、その後の開発と試作車の製作は中国機甲軍科学技術機関と第615工場の手に委ねられた。 そして最終的に試作車の製作は第256工場が担当し、1963年に「63式軽戦車」として制式化が行われた。 その後、生産は中国北方工業公司(NORINCO)に移り中国軍向けとして800両が生産され、最近でも台湾を威嚇するための各種上陸演習で姿が見られている。 またヴェトナム戦争中に北ヴェトナム軍に150両が供与され、1972年のクアンチ省での攻勢作戦に投入されたといわれる。 さらにミャンマーにも105両が輸出された他、スーダンその他のアフリカ諸国にも輸出されている。 60式水陸両用軽戦車からの最大の変更点は、60式水陸両用軽戦車が装備していた76.2mm戦車砲搭載2名用砲塔を、62式軽戦車で採用されたものに酷似した85mm戦車砲搭載3名用砲塔に換装した点である。 車体は60式水陸両用軽戦車と非常に酷似しているものの、車体前面下部の傾斜角がかなり緩やかになって垂直に近くなっている。 この車体前部形状の変化はより重量の重い砲塔を装備したことにより、浮航性の妨げとなることを防ぐために内部容積の拡大を図って、浮力の減少を避けるための措置と考えるのが妥当であろう。 なお砲塔リング径が大きくなったため、車体前部中央にあった操縦手席は前部左側に移されている。 操縦手用ハッチの前方には3基のペリスコープが装備され、この内の1基は夜間視察用として必要に応じて赤外線ペリスコープに変更することが可能である。 砲塔は鋳造製で62式軽戦車のものに酷似しているが、装甲厚は減らされているものと思われ形状もややリファインされている。 FCS(射撃統制システム)も同一のものがそのまま踏襲され、一部にレーザー測遠機を装備している車両が存在するのも同一である。 小柄な車体に載せられても砲塔の大きさをさほど感じないため、砲塔のサイズは62式軽戦車のものより小型化されているかも知れないが詳細は不明である。 砲塔内には左側前方に砲手、その後方に車長が配され、右側には装填手が位置している。 主砲は62式軽戦車と同じ62式85mm戦車砲を装備しており、−4〜+18度の俯仰角を有している。 使用弾種はAPDS(装弾筒付徹甲弾、砲口初速792m/秒)、HEAT(対戦車榴弾、砲口初速845m/秒)、HE(榴弾、砲口初速785m/秒)で、戦闘室内に弾薬47発を収容し発射速度は8発/分といわれる。 また副武装として主砲同軸の59式7.62mm機関銃と、装填手用ハッチの前方に対空用の54式12.7mm重機関銃を装備しているのも62式軽戦車と同様である。 砲塔を換装したことなども手伝って戦闘重量は60式水陸両用軽戦車より2.5tほど増加しているが、機動性の低下を避けるためにエンジンは出力400hpの12150L-2 V型12気筒液冷ディーゼル・エンジンに換装されており、その結果出力/重量比が増大したため、路上最大速度は60式水陸両用軽戦車の44km/hから64km/hに大きく向上している。 変速機は、前進5段/後進1段の手動式である。 60式水陸両用軽戦車と同様に、水上での航行は車体後部に装備された専用のウォーター・ジェットが用いられ、12km/hの速度で航行することができる。 サスペンションはトーションバー(捩り棒)方式が採用され、片側6個のゴム縁付き転輪は原型となったPT-76水陸両用軽戦車のものに酷似しており、恐らくそのライセンス生産型である60式水陸両用軽戦車のものをほとんどそのまま使用しているものと思われる。 NBC機材は装備されていないが車長と砲手にはそれぞれ夜間視察機材が用意されており、送受信距離16kmのA-220A式無線機が装備されている。 |
<63式水陸両用軽戦車> 全長: 8.435m 車体長: 7.15m 全幅: 3.20m 全高: 2.522m 全備重量: 18.7t 乗員: 4名 エンジン: 12150L-2 4ストロークV型12気筒液冷ディーゼル 最大出力: 400hp/2,000rpm 最大速度: 64km/h(浮航 12km/h) 航続距離: 370km 武装: 62式54口径85mmライフル砲×1 (47発) 54式12.7mm重機関銃×1 (500発) 59式7.62mm機関銃×1 (1,000発) 装甲厚: 10〜45mm |
<参考文献> ・「パンツァー2014年6月号 各国の海兵隊(9) 中国陸戦隊」 荒木雅也 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2024年8月号 北朝鮮兵器カタログ」 荒木雅也 著 アルゴノート社 ・「世界AFV年鑑 2005〜2006」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2004年7月号 中国戦車開発史(2)」 古是三春 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「世界の戦車(2) 第2次世界大戦後〜現代編」 デルタ出版 ・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版 ・「徹底解剖!世界の最強戦闘車両」 洋泉社 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー |