60式装甲車は、戦後我が国で開発された最初のAPC(装甲兵員輸送車)である。 1956年に防衛庁は小松製作所と三菱重工業の2社に対して、兵員輸送用の装軌式装甲車の開発要求を出した。 この車両は「試製56式装甲車」(SU)の呼称が与えられ、コマツの試作車は「試製56式装甲車I型」(SU-I)、三菱の試作車は「試製56式装甲車II型」(SU-II)とそれぞれ呼ばれた。 翌57年には三菱とコマツで、各1両ずつの試作車が完成した。 コマツのSU-Iは車体前部に水平対向ディーゼル・エンジンを搭載し、変速・操向機は車体前端部に収容されていた。 車体の中程から後方は全て兵員室となっており、左側には前方機関銃座と銃手席が設けられていた。 一方、三菱のSU-IIは車体前部右側が操縦手席、前部左側が前方銃手席となっており、車体中央部右側にV型ディーゼル・エンジンを搭載し、車体後部は兵員室となっていた。 どちらの車両も車体前部に7.62mm機関銃M1919A4、車体上面の銃架に12.7mm重機関銃M2を装備していた。 各種試験の結果、コマツのSU-Iは前方にあるエンジンの排気や放熱の陽炎による操縦手、銃手の視界不良等が問題となり、第2次試作車の全般設計は三菱が行うことになった。 そして1959年、SU-IIに改良を加えた第2次試作車SU-II(改)が完成した。 変更点はまずエンジンの搭載位置が車体中央部左側となり、後部ドアを開けば操縦手席から後方が見えるようになったことで、これに対応して12.7mm重機関銃架と銃手席が反対の右側に移されている。 また加速性向上のため、トルク・コンヴァーターが3段型から1段型に改められている。 履帯はゴムブッシュの無い、いわゆるドライピン型に変更となった。 1960年にはこのSU-II(改)に若干の改良を加えて、「60式装甲車」として制式化された。 60式装甲車の車体は圧延防弾鋼鈑の溶接構造で、エンジンは三菱製の8HA21WT V型8気筒空冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力220hp)が搭載されている。 乗員の配置は前部右側に操縦手席、左側に前方銃手席、その後方中央部にプロペラシャフトを跨ぐ形で車長席、さらにその後方の車体右側通路に12.7mm重機関銃M2の銃手席が設けられている。 車体後部の兵員室には向かい合わせに左右各3名分のベンチシートが設けられており、普通科隊員6名を収容できるようになっている。 兵員室上面のハッチは前半部が1枚で前方に、後半部は左右に2分割され、それぞれがさらに2分割されて外側へ開くという他に例を見ない分割となっている。 60式装甲車の生産は1972年度まで続けられ合計で428両が完成しているが、その内220両が三菱、残りの208両がコマツで生産された。 なお60式装甲車の派生車両として、車体後部の兵員室に迫撃砲を搭載した60式自走81mm迫撃砲、および60式自走107mm迫撃砲があるが、どちらも少数の生産で終わっている。 |
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<60式装甲車> 全長: 4.85m 全幅: 2.40m 全高: 1.70m 全備重量: 11.8t 乗員: 4名 兵員: 6名 エンジン: 三菱8HA21WT 4ストロークV型8気筒空冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 220hp/2,400rpm 最大速度: 45km/h 航続距離: 230km 武装: 12.7mm重機関銃M2×1 (840発) 7.62mm機関銃M1919A4×1 (1,500発) 装甲厚: 8〜18mm |
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<参考文献> ・「パンツァー2004年2月号 陸上自衛隊 60式装甲車の開発とその派生車」 高橋昇/林磐男 共著 アルゴ ノート社 ・「パンツァー2003年5月号 陸上自衛隊 60式装甲車のファミリー車輌」 高城正士 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2003年3月号 陸上自衛隊の試作車輌」 高城正士 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2019年11月号 試製56式装甲車II型」 吉川和篤 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2013年1月号 陸上自衛隊の歴代装甲車」 アルゴノート社 ・「パンツァー2009年1月号 陸上自衛隊の装備車輌」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2010年8月号 自衛隊の車輌と装備 60式装甲車」 伊吹竜太郎 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2013年2月号 陸上自衛隊 60式装甲車写真集」 伊吹竜太郎 著 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」 デルタ出版 ・「陸上自衛隊 車輌・装備ファイル」 デルタ出版 ・「自衛隊歴代最強兵器 BEST200」 成美堂出版 ・「世界の最新陸上兵器 300」 成美堂出版 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「世界の装軌装甲車カタログ」 三修社 ・「自衛隊装備年鑑」 朝雲新聞社 |
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