44Mタシュ重戦車
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+開発
ハンガリー陸軍はチェコのシュコダ製作所の協力を得て、1942年に最初の国産戦車である40M「トゥラーン」(Turán)中戦車を戦力化したが、この戦車はソ連軍の主力戦車であるT-34中戦車やKV-1重戦車に対して全く歯が立たなかった。
このためハンガリー陸軍は1943年春に、これらソ連軍戦車に対抗できる性能を持つ新型重戦車の開発を開始した。
この新型重戦車の開発を担当したのはハンガリーにあるドイツ系企業ヴァイス・マンフレード社で、40/43MズリーニィII突撃砲の設計も手掛けたエルネー・コヴァーチュハーズィ技師が本車の設計に当たった。
44M「タシュ」(Tas:ハンガリー建国神話で部族長の父といわれる人物)と名付けられたこの新型重戦車の外観は、ドイツ陸軍が1943年に戦力化し第2次世界大戦後半の主力戦車として用いたV号戦車「パンター」(Panther:豹)に良く似ており、車体・砲塔とも傾斜した装甲板で構成された避弾経始に優れたデザインになっていた。
これはハンガリー陸軍が1944年にドイツからパンター戦車を供与されたため、タシュ重戦車を開発する際に参考にしたものと思われる。
タシュ重戦車は、カタログスペック上はソ連軍のT-34-85中戦車と互角以上に戦える強力な戦車であったが、当時のハンガリーの工業技術力ではこのような高度な兵器を開発するのは荷が重かったようで、本車の開発は順調には進まなかった。
最終的に1944年7月27日、アメリカ軍の爆撃によってヴァイス・マンフレード社の工場内で製作中であった試作車が破壊されたことで、タシュ重戦車の開発は終焉を迎えた。
タシュ重戦車の試作車については写真が残されておらず、どの程度まで開発が進捗していたかは定かでないが、1/10スケールの縮小模型の写真が残されているため、おおよその実像を掴むことは可能である。
なおハンガリー陸軍はタシュ重戦車と並行して、同一車体からズリーニィの後継となる突撃砲の開発も進めていた。
この車両はタシュ重戦車の車幅を拡げて車体上部に密閉式の固定戦闘室を設け、ドイツ製の88mm戦車砲を限定旋回式に搭載することになっていた。
この突撃砲で特徴的なのは、ズリーニィに比べてかなり低姿勢なシルエットにデザインされていた点で、装甲厚はタシュ重戦車と同じく前面で最大120mmとなっていたが、優れた避弾経始と低いシルエットにより実質的な防御力はタシュ重戦車よりかなり高かったと思われる。
主砲については、ドイツ陸軍のティーガー戦車に搭載されたクルップ社製の88mm戦車砲を搭載することになっていたが、ティーガーI戦車の56口径88mm戦車砲KwK36なのか、ティーガーII戦車の71口径88mm戦車砲KwK43なのかはっきりしない。
いずれにしても、この突撃砲はタシュ重戦車と同様にソ連軍戦車と互角以上に戦える能力を持っていたと思われるが、やはりヴァイス・マンフレード社への爆撃によって開発は終焉を迎えた。
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+攻撃力
タシュ重戦車の主砲には、パンター戦車と同じくドイツのラインメタル・ボルジヒ社製の70口径75mm戦車砲KwK42が採用され、同社からライセンス生産権を得て国内生産することになっていた。
このKwK42はPz.Gr.39/42徹甲弾を使用した場合砲口初速925m/秒、射距離100mで138mm、500mで124mm、1,000mで111mm、2,000mで89mmの均質圧延装甲板(傾斜角30度)を貫徹することが可能であった。
副武装としては8mm機関銃34/40AMを主砲と同軸に1挺、戦闘室前面に1挺の合計2挺装備していた。
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+防御力
タシュ重戦車は全長9.20m、全幅3.50m、全高3.00m、戦闘重量38tとトゥラーン中戦車よりかなり大柄であり、装甲厚も前面で最大120mmと非常に強力であった。
また従来のハンガリー戦車とは異なり、装甲板の接合に溶接が多用されていた点が大きく進化していた。
前述したように本車はパンター戦車の外観を模倣したデザインとなっており、車体・砲塔とも傾斜した装甲板で構成された避弾経始に優れたデザインになっていたため、実質的な防御力は非常に高かったと思われる。
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+機動力
タシュ重戦車を開発するに当たって最大の問題となったのはエンジンで、ハンガリーの企業には大重量のタシュ重戦車に必要な高出力エンジンを開発する能力が無かったため、パンター戦車に用いられたマイバッハ発動機製作所製のHL230P30
V型12気筒液冷ガソリン・エンジン(出力700hp)をドイツから導入することが望まれたが、これは不可能であった。
このため、トゥラーン中戦車に搭載された出力260hpのV-8H V型8気筒液冷ガソリン・エンジン(元はチェコのシュコダ社が開発したもので、ヴァイス・マンフレード社がライセンス生産を行っていた)を2基搭載して、520hpの出力を得ることになった。
タシュ重戦車の足周りは従来のハンガリー戦車とは異なっており、中直径の複列式転輪を2個一組でリーフ・スプリング(板ばね)で懸架するようになっていた。
これを片側3組配置することで転輪数は片側6個となり、片側5個の上部支持輪と組み合わされていた。
パンター戦車と同様に前方に起動輪、後方に誘導輪が配置されていた。
履帯は接地圧を低減するためにかなり幅広のものが用いられていたが、その形状はソ連軍戦車の履帯に近いデザインになっていた。
この足周りによってタシュ重戦車は路上最大速度40km/h、路上航続距離200kmの機動性能を発揮する予定であった。
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<44Mタシュ重戦車>
全長: 9.20m
全幅: 3.50m
全高: 3.00m
全備重量: 38.0t
乗員: 5名
エンジン: ヴァイス・マンフレードV-8H 4ストロークV型8気筒液冷ガソリン×2
最大出力: 520hp/2,200rpm
最大速度: 40km/h
航続距離: 200km
武装: 70口径75mm戦車砲KwK42×1
8mm機関銃34/40AM×2
装甲厚: 20~120mm
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<参考文献>
・「グランドパワー2006年10月号 ドイツとともに戦った枢軸小国の戦車:2 ハンガリー編(3)」 斎木伸生 著 ガ
リレオ出版
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