40Mニムロード対空自走砲
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+概要
ハンガリー陸軍は、スウェーデンのランツヴェルク社製のL-60軽戦車を38M「トルディ」(Toldi)の呼称で1938年からライセンス生産し、さらに、チェコのシュコダ製作所製のT-21中戦車を40M「トゥラーン」(Turán)の呼称で1940年からライセンス生産するなどして戦車戦力を整備していったが、戦車部隊にとって大きな脅威である航空攻撃への対処として、戦車に随伴できる機動力と装甲防御力を兼ね備えた対空車両の必要性も早くから認識していた。
ハンガリー陸軍はこの任務に使用する車両候補として、ランツヴェルク社がL-60軽戦車の車台をベースに1934年に開発したL-62対空自走砲を1939年に購入し、試験の結果、1940年に40M「ニムロード」(Nimród:狩人)の呼称でライセンス生産することを決めた。
ニムロード対空自走砲は、基本設計は原型のL-62対空自走砲と変わらなかったが、砲塔の設計がかなり変更されていた。
L-62対空自走砲の砲塔は円筒形のオープントップ式砲塔であったが、ニムロード対空自走砲では砲塔後部が延長されて、円筒形から馬蹄形になり背も高くなっていた。
また機関砲の防盾部分の装甲板の形状が工夫され、照準口に開閉式の装甲板が追加されるなどしてオープントップ式ではあるが、少しでも防御力向上に意が尽くされていた。
ニムロード対空自走砲の諸元は全長5.32m、全幅2.30m、全高2.80m、戦闘重量10.5tで、L-62対空自走砲に比べると全高が260mm高くなり、重量が500kg増加していた。
エンジンはL-62対空自走砲と同じく、ドイツのビューシンクNAG社製のL8V/36TR V型8気筒液冷ガソリン・エンジン(出力155hp)を搭載しており、路上最大速度50km/h、路上航続距離225kmの機動性能を発揮した。
ニムロード対空自走砲の車内レイアウトは当時の一般的な戦車と同様で、車体前部が操縦室、車体中央部が砲塔を搭載した戦闘室、車体後部が機関室となっていた。
操縦室内には前部に変速・操向機が置かれ、操縦手席は左側に配されていた。
操縦手用ハッチはスライド式で、スペースを確保するためか操縦手の頭に当たる部分が膨らんでおり、前方および左右を見るための視察口が設けられていた。
車体中央部の戦闘室は左右がフェンダーの上まで張り出しており、戦闘室の上部には56.3口径40mm対空機関砲36Mを装備した、馬蹄形の大型砲塔が搭載されていた。
砲塔は全周旋回が可能で、40mm対空機関砲の俯仰角は0~+80度となっていた。
砲塔内には、40mm対空機関砲を挟んで前方左右に1名ずつ砲手が位置し、左側の砲手が砲塔の旋回、右側の砲手が機関砲の俯仰を担当した。
左側砲手の後方には装填手、右側砲手の後方には車長が位置した。
主武装の40mm対空機関砲36Mは、スウェーデンのボフォース社製の40mm対空機関砲L/60を、ブダペストのMÁVAG社(Magyar Királyi
Államvasutak Gépgyára:ハンガリー王立鉄道機械製作所)でライセンス生産したもので、ハンガリー陸軍では野戦用の対空機関砲として1936年から使用しており、入手が容易であるというメリットがあった。
発射速度は120発/分で、ニムロード対空自走砲の車内には160発の40mm機関砲弾が搭載された。
車体後部の機関室にはL8V/36TR V型8気筒液冷ガソリン・エンジンが搭載されており、車体後面には空気流入用のスリットが開けられていた。
また車体後面上部は後方に張り出しており、この張り出し部の下面には排気マフラーが取り付けられていた。
足周りは原型のL-62対空自走砲と同様で、前方に起動輪、後方に誘導輪を配していた。
転輪はゴム縁付きの中直径転輪が片側5個で、トーションバー(捩り棒)式サスペンションで懸架されていた。
上部支持輪はゴム縁付きで、片側3個が取り付けられていた。
履帯はシングルピン/シングルブロックのスケルトン式で、幅は286mmであった。
ニムロード対空自走砲の生産はMÁVAG社で行なわれ、第1生産ロットとして1941~42年にかけて46両が生産された。
さらに第2生産ロットとして89両が追加発注され、1943~44年にかけて生産された。
第1生産ロットと第2生産ロットの車両はエンジンなど細部が異なっていたため、第1生産ロットの46両は「ニムロードI」、第2生産ロットの89両は「ニムロードII」と呼ばれた。
ニムロードIは原型のL-62対空自走砲と同じく、ビューシンクNAG社製のL8V/36TR V型8気筒液冷ガソリン・エンジンを搭載していたが、ニムロードIIはL8V/36TRエンジンをブダペストのガンズ社でライセンス生産した、VGT107
V型8気筒液冷ガソリン・エンジンに換装していた。
合計で135両が完成したニムロード対空自走砲は、ハンガリー陸軍の快速師団などに配属されて東部戦線にも投入されている。
本車が搭載する40mm対空機関砲は、ハンガリー陸軍が装備するトルディ軽戦車シリーズや40MトゥラーンI中戦車の主砲より対装甲威力が優れていたため、ニムロード対空自走砲は対空戦闘だけでなく対地戦闘にも積極的に使用されており、ソ連軍のT-34中戦車やKV-1重戦車とも撃ち合ったことがあるという。
ただ、対航空機と非装甲目標には絶大な威力を発揮する40mm対空機関砲も、ソ連軍の強力な戦車相手では分が悪かったものと思われる。
なおニムロード対空自走砲の武装強化型として、40mm対空機関砲36Mに代えてボフォース社製の80mm高射砲を搭載するタイプが研究されたが、試作車の製作まで至らずに終わっている。
この車両については、ペーパープランというのも困難なラフ図面しか残されていないが、ニムロード対空自走砲からほとんど設計変更無しに、80mm高射砲を無理やり搭載した車両だったようで、実用性にはかなり疑問がある。
この他にニムロード対空自走砲の車台を流用し、戦闘室となっていた車体中央部を改設計して、8名の兵員を収容する兵員室とした装甲兵員輸送車型が、43M「レヘル」(Lehel:古代マジャール人の首長)の呼称で製作されている。
ニムロード対空自走砲で現存する車両は1両のみで、ブダペスト郊外にあるハンガリー陸軍ボリャイ・ヤーノシュ砲兵学校に保管されている。
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<40MニムロードI対空自走砲>
全長: 5.32m
全幅: 2.30m
全高: 2.80m
全備重量: 10.5t
乗員: 6名
エンジン: ビューシンクNAG L8V/36TR 4ストロークV型8気筒液冷ガソリン
最大出力: 155hp/3,000rpm
最大速度: 50km/h
航続距離: 225km
武装: 56.3口径40mm対空機関砲36M×1 (160発)
装甲厚: 6~13mm
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<40MニムロードII対空自走砲>
全長: 5.32m
全幅: 2.30m
全高: 2.80m
全備重量: 10.5t
乗員: 6名
エンジン: ガンズVGT107 4ストロークV型8気筒液冷ガソリン
最大出力: 155hp/3,000rpm
最大速度: 50km/h
航続距離: 225km
武装: 56.3口径40mm対空機関砲36M×1 (160発)
装甲厚: 6~13mm
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兵器諸元(40MニムロードI対空自走砲)
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<参考文献>
・「グランドパワー2006年10月号 ドイツとともに戦った枢軸小国の戦車:2
ハンガリー編(3)」 斎木伸生 著 ガ
リレオ出版
・「世界の軍用車輌(1)
装軌式自走砲:1917~1945」 デルタ出版
・「パンツァー2012年4月号 ランツベルグ社の戦車シリーズ」 竹内修 著 アルゴノート社
・「パンツァー2001年2月号 ランツベルクL-62対空戦車」 水上眞澄 著 アルゴノート社
・「ビジュアルガイド
WWII戦車(2) 東部戦線」 川畑英毅 著 コーエー
・「戦車名鑑
1939~45」 コーエー
・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版
・「世界の無名戦車」 斎木伸生 著 三修社
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