III号指揮戦車
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+概要
ドイツ陸軍は1936年の機甲師団創設時から、効果的な集団戦車運用を行うために大型、高出力の強力な無線機を搭載した指揮戦車の必要性を認識していた。
そこで最初に製作されたのがI号戦車を改造したI号指揮戦車であったが、この車両は小柄過ぎて作業スペース、無線機搭載能力が不充分であった。
このため、より車内容積の大きいIII号戦車をベースにした指揮戦車が製作されることになった。
III号指揮戦車には幾つかのタイプがあるが、最初に作られたのがIII号戦車D型をベースにしたものであった。
この車両は、1938年6月~1939年3月にかけて30両が生産された。
戦車型との相違は砲塔が車体にボルト止めされて旋回できないようになり、主砲は撤去され空きスペースに無線機や机などが装備されたことである。
主砲の撤去された跡には容易に指揮戦車と分かって攻撃されないよう、ダミーの主砲が取り付けられていた。
さらに砲塔防盾の右端は切り欠かれて、オベルンドルフ・アム・ネッカーのマウザー製作所製の7.92mm機関銃MG34が1挺固定装備されたが、この機関銃が唯一の固定武装であった。
戦闘室前面右側の機関銃マウントも残されていたが、機関銃は撤去されてガンポートに変更された。
また、車体の左右側面にもガンポートが追加されていた。
無線機は車両間通信用のFu.6に、航空機通信用のFu.7または中距離通信用のFu.8が装備された。
これに合わせてアンテナも増設および配置が変わり、車体右側前寄りと左側中央後ろ寄りに起倒式のロッドアンテナ、機関室上にフレームアンテナが設けられるようになった。
なお砲塔および車体各部の装甲厚は、戦車型より強化されて30mmになっていた。
III号指揮戦車D型は1939年9月のポーランド侵攻作戦(Unternehmen Weiß:白作戦)と、1940年5~6月のフランス侵攻作戦で戦車部隊に配属されて使用された。
しかしそのサスペンション性能の悪さが嫌われ、1941年6月のソ連侵攻作戦(Unternehmen Barbarossa:バルバロッサ作戦)の前に前線からは引き上げられた。
同様の指揮戦車は、以後の型でも生産されている。
III号戦車E型をベースとしたものは、1939年7月~1940年2月にかけて45両が生産されている。
D型と改造要領は同じで、無線機のヴァリエーションにFu.6に受信専用のFu.2を装備したタイプがあった。
III号指揮戦車E型については性能的な問題は無く、ポーランド戦から終戦まで使用が続けられた。
さらにIII号戦車H型ベースの車両が製作され、1940年11月~1941年9月にかけて145両、1941年11月~1942年1月までに30両が生産された。
改造要領はE型と全く同じであるが、面白いのは戦車型が外装式防盾になったにも関わらず、内装式防盾のままのダミー主砲が取り付けられていたことである。
ここまでの指揮戦車を実戦で使用して問題となったのは、指揮戦車が武装を機関銃しか装備していない点であった。
もちろん指揮戦車が常に先頭を切って戦場で戦う必要は無いが、指揮を執るためにはある程度前線に出る必要があり、そうなれば一定の火力も必要である。
こうしてこれまでの特別な指揮戦車ではなく、通常のIII号戦車に無線機を追加する形での指揮戦車の生産が始められた。
ベースとなったのは、デュッセルドルフのラインメタル社製の42口径5cm戦車砲KwKを装備するIII号戦車J型の前期生産型で、1942年8~11月にかけて81両が生産された。
また1943年3~9月にかけて、104両が戦車型から改造された。
改造要領は簡単なもので5cm砲弾の搭載数を減らして、その空きスペースに追加の無線機を搭載するというものであった。
無線機の組み合わせは、Fu.5とFu.7またはFu.8であった。
また車体機関銃が廃止され、砲塔天井にTSF.1ペリスコープが取り付けられていた。
III号指揮戦車の中で最も異色な存在なのが、III号指揮戦車K型である。
K型は1942年12月~1943年2月にかけて50両が生産されており、ちょうどJ型ベースのIII号指揮戦車の生産が一旦打ち切られた時期にあたるので、このK型はJ型に代わる本格的な指揮戦車として開発された車両であると思われる。
K型の最大の特徴はその砲塔で、従来のIII号戦車用砲塔に代えてよりサイズの大きいIV号戦車用砲塔を搭載していた。
ドイツ陸軍は一時、III号戦車の火力強化のために7.5cm戦車砲を装備するIV号戦車の砲塔を搭載することを検討していたが、おそらくその副産物として製作されたのがIII号指揮戦車K型ではないかと思われる。
結局この計画は中止され、III号戦車はIV号戦車用砲塔を搭載する予定だった「K型」が欠番となり、J型の次の生産型は「L型」と命名されている。
しかし、指揮戦車型のみK型が生産されたということである。
戦車型ではK型はIV号戦車と同じ7.5cm戦車砲を装備する予定だったが、III号指揮戦車K型の主砲はIII号戦車J型後期以降と同じ、ラインメタル社製の60口径5cm戦車砲KwK39が装備された。
ただし、K型の主砲は同社製の60口径5cm対戦車砲PaK38の弾薬も使用できるように改良されており、「KwK39/2」という制式呼称が与えられていた。
主砲は砲塔防盾の左側にオフセットして装備されており、右側には操縦室前面と同じ視察ヴァイザーが設けられていた。
その他の砲塔装備品はIV号戦車G型に準じるもので、砲塔の左右側面前部には発煙弾発射機が各3基ずつ装備されていた。
なお無線機はFu.5とFu.7またはFu.8で、機関室後部中央に星型アンテナが追加されていた。
車両によっては砲塔および車体にシュルツェンが装備されていたが、これは標準装備ではなく後から追加されたものである。
ただ結局、III号指揮戦車K型は贅沢過ぎる指揮戦車でありすぐ生産は取り止められ、前述の改造型指揮戦車が作られることになった。
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<III号指揮戦車E型>
全長: 5.38m
全幅: 2.91m
全高: 2.44m
全備重量: 19.5t
乗員: 5名
エンジン: マイバッハHL120TR 4ストロークV型12気筒液冷ガソリン
最大出力: 300hp/3,000rpm
最大速度: 40km/h
航続距離: 165km
武装: 7.92mm機関銃MG34×1
装甲厚: 10~30mm
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<参考文献>
・「グランドパワー2001年8月号 ドイツIII号戦車(3) III号戦車の派生車輌」 嶋田魁 著 デルタ出版
・「グランドパワー2012年8月号 ドイツ戦車の装甲と武装」 国本康文 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2010年1月号 III号戦車の派生型(1)」 島内慶太 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2010年3月号 III号戦車の派生型(2)」 島内慶太 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2019年9月号 ドイツIII号戦車(5)」 寺田光男 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2011年7月号 ドイツIII号指揮戦車」 後藤仁 著 ガリレオ出版
・「パンツァー2017年2月号 III号指揮戦車D1/E/H型」 箙公一 著 アルゴノート社
・「パンツァー2016年2月号 ドイツ陸軍の指揮戦車」 後藤仁 著 アルゴノート社
・「戦車ものしり大百科 ドイツ戦車発達史」 斎木伸生 著 光人社
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