III号戦車D型（3b/ZW）はC型に引き続いて1938年1〜6月にかけて30両が生産された型式で、このD型までがIII号戦車シリーズの中では増加試作型として分類される。
D型の車体製造番号は60221〜60225および、60316〜60340が与えられている。
III号戦車D型ではC型からまた足周りに変更が加えられており、III号戦車のサスペンション・システムが本当に試行錯誤の連続であったことを窺わせる。

D型では第1、第4ボギー・アームを支えるピボット位置がC型よりも車体中央寄りに移され、これに伴ってC型では地面に対して水平に配置されていたリーフ・スプリングが、サスペンション・アームの動きに対して垂直に作動するようにD型ではハの字型に配置されている。
また変速機がA〜C型に用いられたZF社（フリードリヒスハーフェン歯車製作所）製のSFG75変速機（前進5段／後進1段）から、同社製のSSG76変速機（前進6段／後進1段）に換装され起動輪、誘導輪の形状も変更された。

しかしこれらの改良はそれほどの効果を発揮せず、III号戦車D型の路上最大速度はC型と同じ35km/hに留まった。
また、D型では機関室の周辺にも大きく手が加えられている。
D型では機関室上面の吸／排気用のルーヴァーやグリルは全て廃止されて、大小4枚の密閉式ハッチのみとされた。

機関室の左右側面に突出した吸気用ダクトはそのままであったが吸気孔位置が変更され、B、C型の上面に開口したものからA型と同じダクト側面に開口したものに戻された。
またC型まで機関室上面後部にあった排気用グリルの代わりに、D型では機関室上面後端を延長してオーバーハング部が設けられ、このオーバーハング部の下から排気を行うように改められた。
マフラーの位置も変更され、従来よりずっと下にずらされてオーバーハング部の直下となった。

また排気管の位置もマフラーの側面下方となり、マフラー本体の形状も変更されている。
従来右側マフラーの上部に取り付けられていた発煙筒枠は、マフラーの移動に伴ってオーバーハング部の後面右側に移されている。
またC型までは車体後面下部中央に1個のみ設けられていた牽引用フック掛けは、IV号戦車シリーズと同様に左右両側に1個ずつ設けられるようになった。

この車体後部のデザインはD型で確立され、後のIII号戦車シリーズにも受け継がれている。
その他車体についての変更点としてはB、C型では円形だった車体前面の点検用ハッチがA型と同じ角形に戻され、前部の牽引用フック掛けの形が丸みを帯びた形状に変更されたことが挙げられる。
砲塔自体はIII号戦車C型と変わらなかったが、砲塔上面後部の車長用キューポラが新型のものに変更されている。

この新型キューポラはIV号戦車B〜D型にも用いられたもので、周囲に5個の視察ブロックを装備し装甲厚も30mmに強化されていた。
また細かいことだが、内装品を止めるために砲塔の上面等に突出していたボルトが装甲板と面一になり、操縦手席の前面装甲板下部に見えていたボルトがD型では確認できなくなっている。