III号突撃歩兵砲
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+概要
すでに戦力的価値が低下していたI号、II号戦車をベース車台とし、デュッセルドルフのラインメタル・ボルジヒ社製の15cm重歩兵砲sIG33を搭載して自走化を図ってきたドイツ軍であったが、原型となった戦車が元々訓練用として開発されたために機動性は充分とはいえず、市街地などの戦闘に投入するには装甲も非力で、さらにはオープントップの戦闘室も敵の肉薄攻撃にはなすすべも無かった。
この反省から登場したのが、III号戦車をベース車台とするIII号突撃歩兵砲である。
本車の開発の引き金となったのは1942年9月10~22日の総統会議で、スターリングラードの市内に突入した歩兵が、有効な支援を受けられないまま敵に撃破されたことを戦訓とし、密閉式の戦闘室を備える歩兵支援車両が必要という要求により開発がスタートした。
本車の開発・生産は、ベルリンのアルケット社(Altmärkische Kettenwerke:アルトマルク履帯製作所)が担当することになった。
本車はスターリングラード戦への投入が強く求められたため、遅くとも14日以内に可能ならば12両、少なくとも6両の製造を開始することとされた。
I、II号戦車よりサイズが大きく、機動性も優れてかつ装甲も強力で、さらには改造作業が簡単なことも考慮されたため、III号突撃砲E型がベース車台として選ばれた。
本来ならばIII号突撃砲E型が元々装備していた、エッセンのクルップ社製の24口径7.5cm突撃加農砲StuK37を、15cm重歩兵砲sIG33に換装するだけで、車体にはなるべく手を加えずに済ませたかったのだろうが、さすがに、III号突撃砲の車内にそのまま搭載するにはsIG33は大き過ぎた。
このため、新たに製作された大型の密閉式戦闘室を備えることになり、呼称も「突撃歩兵砲」と改められることになった。
III号突撃歩兵砲はまず1942年10月に6両が発注され、その数日後さらに6両が追加され、同月中に完成させることが求められた。
1942年11月にも12両が追加発注され、結局10月と11月合わせて24両が完成している。
なお、III号突撃歩兵砲は新規生産ではなく、修理のために後送されてきたIII号突撃砲E型を改造することで製作された。
実戦化が急がれたことにより、III号突撃歩兵砲への改造要領は極めて単純なものとされ、III号突撃砲E型の機関室の隔壁前からの車体上部構造を取り去り、この部分に前面80mm、側面50mm、後面15mm、上面10mm厚の装甲板を溶接した箱型の完全密閉式戦闘室を載せ、戦闘室内に設けられた砲架に11.4口径15cm重歩兵砲sIG33Bを装備した。
なお、主砲は次の会社により製造された。
・AEG社(Allgemeine Elektricitäts-Gesellschaft:総合電気会社): ベルリン・ヘニングスドルフ
・ベーム兵器製作所: シュトラコニッツ
戦闘室内の左前部には操縦手が配され、この部分には上下スライド式の視察ヴァイザーを装着し、反対側にはボールマウント式の7.92mm機関銃MG34が装備されたが、これらはIII号戦車の部品が用いられた。
戦闘室上面には車長用のハッチが設けられ、照準機の開口部の直上には支柱を立ててガードが取り付けられるといった、見るからに応急的な構造で、装甲板も専用に切断されたものではなく、戦闘室の上面は3枚の装甲板を溶接するといった手法が採られていたことも目を引く。
主砲の15cm重歩兵砲sIG33Bは分離薬莢式で、III号突撃歩兵砲は車内に30発の主砲弾薬を携行可能であり、価格は20,450ライヒスマルクであった。
最初に完成した12両のIII号突撃歩兵砲は第177突撃砲大隊に配備され、スターリングラード戦区には1942年11月8日に到着したが、12両全てをスターリングラード周辺で喪失している。
続いて製作された第2生産ロットの12両は、第17教導大隊突撃歩兵砲中隊に配備され、しばしば第22機甲師団の指揮下に入った。
1943年4月11日の時点でこの部隊(III号突撃歩兵砲7両)は、突撃歩兵砲中隊として第23機甲師団第201戦車連隊に配属されていた。
1943年4~10月の期間、第23機甲師団は第6軍および第1戦車軍に配属され、スターリノ、ミウス川流域、8月からドネツ川流域イジュームにおいて、ソ連軍の夏季攻勢に対して防衛戦を展開した。
第23機甲師団は1943年10月に、最後のIII号突撃歩兵砲が全損失したことを報告している。
なお、この期間中における第23機甲師団装備のIII号突撃歩兵砲の数の変遷は以下の通りである。
1943年5~7月 |
7両 |
1943年8月 |
6両 |
1943年9月 |
5両 |
1943年10月 |
5両 |
1943年11月 |
0両 |
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<III号突撃歩兵砲>
全長: 5.40m
全幅: 2.90m
全高: 2.33m
全備重量: 21.0t
乗員: 5名
エンジン: マイバッハHL120TRM 4ストロークV型12気筒液冷ガソリン
最大出力: 300hp/3,000rpm
最大速度: 20km/h
航続距離: 160km
武装: 11.4口径15cm重歩兵砲sIG33B×1 (30発)
7.92mm機関銃MG34×1
装甲厚: 10~80mm
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兵器諸元
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<参考文献>
・「第2次大戦 AFVファイル Vol.2 33B型III号突撃歩兵砲、ブルムベア&ヤークトティーガー」 山本敬一 著
ガリレオ出版
・「グランドパワー2014年12月号 写真集 III号突撃砲の派生型」 寺田光男 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2014年11月号 III号突撃砲の派生型」 寺田光男 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー1999年4月号 IV号突撃戦車ブルムベア」 山本敬一 著 デルタ出版
・「世界の軍用車輌(1) 装軌式自走砲:1917~1945」 デルタ出版
・「パンツァー2005年12月号 ドイツの市街戦用突撃臼砲 ブルムベア」 稲田美秋 著 アルゴノート社
・「パンツァー2015年1月号 第二次大戦時の直援用車輌列伝」 久米幸雄 著 アルゴノート社
・「パンツァー2012年8月号 15cm sIGを搭載したドイツ自走砲」 小山芳弘 著 アルゴノート社
・「パンツァー2006年7月号 III号突撃砲部隊の歴史と編成」 坂本雅之 著 アルゴノート社
・「パンツァー2002年6月号 III号突撃歩兵砲(1)」 後藤仁 著 アルゴノート社
・「パンツァー2002年7月号 III号突撃歩兵砲(2)」 後藤仁 著 アルゴノート社
・「ジャーマン・タンクス」 ピーター・チェンバレン/ヒラリー・ドイル 共著 大日本絵画
・「突撃砲」 W.J.シュピールベルガー 著 大日本絵画
・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 斎木伸生 著 光人社
・「戦車名鑑
1939~45」 コーエー
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