38式偵察戦車
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+開発
38式偵察戦車(Vollkettenaufklärer 38)は「ゲレート564」(564兵器機材)の呼称で、チェコ・プラハのBMM社(Böhmisch-Mährische Maschinenfabrik:ボヘミア・モラヴィア機械製作所、旧ČKD社)の手で開発が進められたヘッツァー駆逐戦車ベースの威力偵察用戦車である。
本車の開発は同じくヘッツァーの車体をベースとし、デュッセルドルフのラインメタル・ボルジヒ社製の11.4口径15cm重歩兵砲sIG33を搭載する火力支援型と並行して進められた。
38式偵察戦車の試作車は1944年9月に完成したがこれは新規に製作されたものではなく、既存のヘッツァー駆逐戦車もしくは38式回収戦車から改造して製作されたようである。
完成した試作車は早速ツォッセンのクンマースドルフ車両試験場に送られて9月29日から試験に供されたが、試験の結果については記録が残されておらず、結局38式偵察戦車は生産段階に進むこと無く終わった。
38式偵察戦車が生産に至らなかった理由については、本車と同じ主砲を搭載し、より製造・運用コストが安い8輪装甲車Sd.Kfz.234/3や、半装軌式装甲車Sd.Kfz.250/8およびSd.Kfz.251/9が実用化されていたことが大きいと思われる。
なお38式偵察戦車には、オベルンドルフ・アム・ネッカーのマウザー製作所製の65口径2cm対空機関砲FlaK38を車載用とした、55口径2cm機関砲KwK38を連装で装備したタイプや、ラインメタル社製の15.5口径12cm重迫撃砲sGrW42を搭載したタイプの開発も計画されており、いずれも試作車が完成したとされているが写真などは公表されていない。
また、38式回収戦車の車体に2cm対空機関砲FlaK38を搭載し、メーベルヴァーゲン対空自走砲と同様に機関砲の周囲を起倒式の装甲板で覆って戦闘室を構成していた謎の車両が存在したことが、戦後プラハ近郊で撮影された写真で確認されている。
車体に損傷が見られないため、戦後チェコスロヴァキア陸軍で運用されたのではないかと思われるが、この車両はその後の記録には一切登場しない。
この車両の正体については、ヘッツァー駆逐戦車もしくは38式偵察戦車の派生型の1つであると主張する研究者も存在するが、大戦末期にプラハが何度も連合軍の空襲を受けている点を考慮すると、実際は現地改造で製作された急造の対空車両である可能性が高い。
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+構造
38式偵察戦車は、15cm重歩兵砲搭載型と同様にヘッツァー駆逐戦車の車体をオープントップ化して流用していたが、戦闘室は15cm重歩兵砲搭載型より背の低い構造となり、主砲もエッセンのクルップ社製の24口径7.5cm加農砲K51に変更された。
この7.5cm加農砲K51はIV号戦車短砲身型やIII号突撃砲短砲身型の主砲と基本的に同様のもので、大口径榴弾を発射できるため敵歩兵や陣地の制圧に適しており、Gr.38HL/C HEAT(対戦車榴弾)を使用すれば射距離に関わらず100mmのRHA(均質圧延装甲板)を穿孔可能であったため、対戦車戦闘にも用いることが可能であった。
主砲は従来の自走砲のように戦闘室内の床板に砲架を設けて搭載するのではなく、Sd.Kfz.234/3やSd.Kfz.250/8、Sd.Kfz.251/9後期型と同様に、戦闘室前部の天井に設けられた砲架を介して搭載されていた。
主砲には連動して旋回する横長の角形の防盾が取り付けられており、戦闘室の左右側面にも防御装甲板が上部に追加装備されていた。
主砲の右隣には同軸としても使用可能な機関銃架が設置されており、副武装としてデーベルンのMLJG社(Metall und Lackwarenfabrik Johannes Großfuß:ヨハネス・グロースフース金属・漆器製作所)製の7.92mm機関銃MG42を1挺装備していた。
戦闘室前面左側の操縦手用ヴァイザーはヘッツァーのものとは形状が異なっており、前面右側には視察クラッペが新設された。
また戦闘室の前面と左右側面には、箱(内容不明)を取り付けるためのブラケットが新たに設けられた。
ヘッツァーで左側の前部フェンダーの付け根付近に装備されていた防空型前照灯(ノーテクライト)は廃止され、代わりに戦闘室前面中央に大型の前照灯(ボッシュライト)が取り付けられた。
本車の乗員は車長、砲手、操縦手の3名だったようである。
38式偵察戦車のエンジンについては、ドイツ陸軍当局はディーゼル・エンジンの搭載を要望していたといわれるが、試作車にはヘッツァーと同じくプラハのプラガ社製のAC2800 直列6気筒液冷ガソリン・エンジン(出力160hp)が搭載されたようである。
ただし、車体後部の排気マフラーはヘッツァーのものとは位置・形状共に異なっていた。
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<38式偵察戦車>
全長:
全幅:
全高:
全備重量:
乗員: 3名
エンジン: プラガAC2800 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 160hp/2,800rpm
最大速度:
航続距離:
武装: 24口径7.5cm加農砲K51×1
7.92mm機関銃MG42×1
装甲厚:
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<参考文献>
・「グランドパワー2001年11月号 駆逐戦車ヘッツァー(2) ヘッツァーのバリエーション」 箙浩一 著 デルタ出版
・「グランドパワー2013年6月号 駆逐戦車ヘッツァー」 後藤仁 著 ガリレオ出版
・「ドイツ試作/計画戦闘車輌」 箙浩一/後藤仁 共著 ガリレオ出版
・「第2次大戦 ドイツ試作軍用車輌」 ガリレオ出版
・「パンツァー2000年12月号 ヘッツァー駆逐戦車の派生型」 後藤仁 著 アルゴノート社
・「ドイツ駆逐戦車ヘッツァー」 ゲンブンマガジン
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