1944年11月27日にアドルフ・ヒトラー総統は、当時計画されていたアルデンヌ地方への大反攻「ラインの守り作戦」（Unternehmen Wacht am Rhein）への投入を目的として、少なくとも20～30両の火焔放射車両を用意せよとの命令を出した。
このヒトラーの命令によりヘッツァー駆逐戦車をベースに急遽開発されたのが、「38式火焔放射戦車」（Flammpanzer 38）である。

翌11月28日にヒトラーは続く3日の内に、転用できる戦車および突撃砲を以って何両の火焔放射車両を完成し得るか早急に決定せよと命じた。
12月3日にヒトラーは、下令した火焔放射車両整備計画に沿って合計35両の火焔放射車両が使えるであろうとの報告を受け取った。

その内訳は、III号戦車をベースに1942年後期に開発されたIII号火焔放射戦車が少なくとも10両、新開発の38式火焔放射戦車が20両となっていた。
38式火焔放射戦車は基本的には、ヘッツァー駆逐戦車の主砲であるデュッセルドルフのラインメタル・ボルジヒ社製の48口径7.5cm対戦車砲PaK39に代えて火焔放射機を搭載し、併せて放射機構と放射用燃料を車内に収めた車両で合計20両が完成した。

この20両は既存のヘッツァー駆逐戦車からの改造ではなく、ヘッツァーの生産ライン上で新規に製作されたもので、1944年12月3日にはその内の1両がヒトラーに展示された。
完成した20両の38式火焔放射戦車は新編された第352、第353火焔放射中隊にそれぞれ10両ずつが配備され、ラインの守り作戦の支援を目的とする「北風作戦」（Unternehmen Nordwind）への投入のためツヴァイブリュッケンに鉄路輸送された。

第352火焔放射中隊は1944年12月25日に、第353火焔放射中隊は12月30日にそれぞれ前進を開始し、アメリカ軍との戦闘に投入されたが、その戦闘状況は明らかにされていない。
北風作戦に投入された20両の38式火焔放射戦車のうち半数近くが失われ、残存車は第352火焔放射中隊に集中配備されたものと思われる。

それは1945年3月15日付で同中隊から出された装備報告書において、11両の38式火焔放射戦車を装備し内8両は稼働車との記述が見られるからである。
またドイツ側の資料には残されていないが、既存の38式回収戦車から2両（車体製造番号322735、322867）が38式火焔放射戦車に改造され、戦後チェコスロヴァキア陸軍で用いられたといわれる。

38式火焔放射戦車は前述のように、7.5cm対戦車砲PaK39の代わりにケーベ社製の1.4cm火焔放射機FmW41を主砲防盾内に装着し、防盾の上面を一部開口して照準用のペリスコープとその装甲カバーを新設したが、火焔放射機の俯仰角と旋回角は極めて限定されていた。
なお、本車は火焔放射車両であることを隠蔽するために、ヘッツァー駆逐戦車の主砲に似た形の被覆外筒を火焔放射機に装着しており、ヘッツァー駆逐戦車に偽装することで敵を欺瞞していた。

車体中央部の戦闘区画内には700リットルの放射用燃料を収めるタンクが置かれ、ポンプを用いた加圧式放射機構により最大射程50～60m、60～70回の火焔放射を可能としていた。
放射用燃料への点火はカートリッジ（薬包）を用いて行われ、ヘッツァー駆逐戦車と同じく戦闘室上面に副武装として車内操作式の7.92mm機関銃MG34を1挺装備していた。

38式火焔放射戦車の戦闘重量はヘッツァー駆逐戦車より500kg軽い15.5tで、乗員は同じく4名であった。
ただしヘッツァーとは乗員の役割が変更されており、ヘッツァーの乗員が車長、砲手、装填手、操縦手となっていたのに対し、38式火焔放射戦車では車長、火焔放射手、無線手、操縦手となっていた。
当初の計画では38式火焔放射戦車の乗員は3名とされ、車長が無線手を兼ねることになっていたが、本車を実戦投入した結果、乗員を4名にした判断は正しかったと評価されたようである。

38式火焔放射戦車の装甲厚は、ヘッツァー駆逐戦車と同様で車体と戦闘室の前面が60mm、側/後面が20mmとなっていた。
前面装甲板は避弾経始を考慮して大きく傾斜させられており、前方からの戦車砲弾、対戦車砲弾に対して相当な防御力を備えていたが、それ以外の部分は小火器弾の直撃や榴弾の破片に耐える程度の防御力しか備えていなかった。

エンジンは、チェコ・プラハのプラガ社製のAC2800 直列6気筒液冷ガソリン・エンジン（排気量7,754cc、出力160hp/2,800rpm）を搭載しており、イギリスのSCG社（Self-Changing Gears：自動変速ギア会社）からライセンス生産権を得て、プラガ社が独自に改良を加えたプラガ・ウィルソン手動変速・操向機（前進5段/後進1段）と組み合わされていた。

足周りは片側4個の大直径転輪と片側1個の上部支持輪、前方の起動輪、後方の誘導輪で構成されており、転輪は2個一組となってリーフ・スプリング（板ばね）式サスペンションで懸架されていた。
履帯は幅350mmのKgs.64/350/104履帯が用いられ、さらに冬季時には「ヴィンターケッテ」（Winterkette：冬季用履帯）と呼ばれる、雪原走行用の890mm長のグローサー（履帯に取り付ける滑り止め）を装着するようになっていた。