ドイツ軍は第2次世界大戦当初は、既存の戦闘車両をベースに砲塔を撤去して、代わりに固定戦闘室を設ける等の大掛かりな改設計を施した指揮車両を開発して運用していたが、大戦中期以降は開発期間の短縮と生産の効率化を図って、既存の戦闘車両に無線機やアンテナを追加した程度の簡易な指揮車両を運用するようになった。
大戦後期に登場したヘッツァー駆逐戦車の指揮車型も、同様のコンセプトに基づいて通常型に無線機とアンテナを追加装備する簡単な改修で生み出された指揮車両である。

ヘッツァー駆逐戦車の指揮車型は、ヘッツァー駆逐戦車を装備する部隊の大隊もしくは中隊本部に配備され、前線後方に位置する上級組織との連絡に供することを目的とした車両である。
指揮車型は、通常型が標準装備としているFu.5無線機（10W.S.c送信機とU.Kw.E.e超短波受信機の組み合わせ）に加えて、長距離送信能力を備えたFu.8無線機（30W.S.a送信機とMw.E.c中波用受信機の組み合わせ）を追加したのが最大の変化である。

1944年3月に完成したヘッツァー駆逐戦車の3両の試作車の内、試作第2号車（車体製造番号321002）は指揮車型として製作されており、機関室の左側面に星型アンテナとその基部、およびアンテナ基部を保護する装甲カバーが装着されていた。

このことからも分かるように、ヘッツァー駆逐戦車は生産当初から指揮車型の運用が考慮されており、生産時に機関室左側面にアンテナ線を車内に引き込むための開口部を設け、その前後にも装甲カバーを固定するボルト穴を開けることで指揮車型への改装を容易にしていた。
通常型では円形の鋼板を溶接して開口部を塞いでいたが、指揮車型に改装する際には鋼板を取り外して星型アンテナとその基部が取り付けられた。

開口部の前後に開けられたボルト穴は、通常型ではボルトを差し込んで穴を塞いでいたが、指揮車型では装甲カバーがボルトで固定された。
指揮車型で追加されたFu.8無線機は、0.83～3MHzの周波数帯を使用する中波無線機で、停止時における通信距離は音声通信の場合50km、電鍵通信の場合120kmとなっていたが、これが走行中になると15kmと50kmに低減した。

Fu.8無線機は、戦闘室内左側の袖板の上に前後に分けた形でラックを設けて収められ、併せてその部分の床上にGC400発電機が追加装備され、電源の供給に充てられた。
指揮車型の生産数や生産比率などは明らかにはされていないが、ヘッツァー駆逐戦車を装備した部隊の数から考えて、少なくとも100両以上が指揮車型として配備されたものと思われる。