III/IV号10.5cm自走榴弾砲
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+概要
ドイツ陸軍兵器局第6課は1942年春に、新たな発想に基づいた10.5cm級榴弾砲を備える新型自走砲の計画をまとめ上げた。
その骨子は、砲は砲塔ごと取り外して地上で砲台としての射撃が可能なこと、全周射撃能力を備えることの2点で、エッセンのクルップ社と、デュッセルドルフのラインメタル・ボルジヒ社がそれぞれ独自に開発を行うこととされ、本格的な作業がスタートした。
兵器局第6課がまとめた新型自走砲案は確かに優れた計画であったが、実戦化するまでに多大な時間を必要とするため、ドイツ陸軍総司令部(OKH)は、短時間で実用化できる暫定的な自走砲の開発を要求した。
この要求に基づき、ベルリンのアルケット社(Altmärkische Kettenwerke:アルトマルク履帯製作所)はII号戦車の車台をベースに、ラインメタル社が開発した28口径10.5cm軽榴弾砲
leFH18/2を限定旋回式に搭載した自走榴弾砲「ヴェスペ」(Wespe:スズメバチ)を開発し、1943年1月から生産が開始された。
一方、兵器局第6課の要求に従ってクルップ社は、「ホイッシュレッケ10」の呼称で新型自走砲の基本設計をまとめ上げ、1943年に試作車3両が製作された。
ちなみに、「ホイシュレッケ」(Heuschrecke)とはドイツ語で「バッタ」を意味する。
またラインメタル社の方も、28口径10.5cm軽榴弾砲leFH18/40/2を搭載する新型自走砲の基本設計をまとめ、1944年に試作車1両が製作された。
ラインメタル社が開発した新型自走砲の車体には、クルップ社のホイッシュレッケ10と同じくIII/IV号車台が用いられ、上部構造も同様のものであったが機関室の形状は大きく異なっていた。
主砲の10.5cm軽榴弾砲leFH18/40/2は、ホイッシュレッケ10と同じくオープントップ式の全周旋回砲塔に搭載されたが、ホイッシュレッケ10では、車体の左右側面に装備された起倒式クレーンを用いて砲塔ごと主砲を降ろすようになっていたのに対し、ラインメタル社の自走砲では主砲のみを取り外すという手法が採られた。
このため主砲は牽引型から脚と車輪を外しただけで、防盾を装着したまま砲塔内に収められていた。
主砲の俯仰角は-10~+70度とホイシュレッケ10より大きく、弾薬搭載数もホイシュレッケ10の60発に対して、本車は80発を搭載することができた。
車体後面には起倒式のアームが2本設けられており、アームの先端には円形の固定板が取り付けられ、これに地上で主砲を牽引する際に用いる車輪が2個装着されていた。
また、車輪と車体後面の間には牽引用の脚が装着されていたが、ホイッシュレッケ10と違い主砲のみを取り外すために、起倒式クレーンは装備していなかった。
このため、主砲の取り外しにはSd.Kfz.9/1などのクレーン車を用いる必要があったが、反面すっきりとまとめられ、その結果として生産コストをホイッシュレッケ10よりも抑えることができた。
砲塔の装甲板は、後面の中央がヒンジにより観音開き式に開くようになっており、射撃に際してはこの部分を開いて乗員の作業空間を広げていたが、主砲の取り外しを目的として、砲塔側面の装甲板もヒンジにより外側に開くことができた。
また車体上部構造より砲塔の幅が広いため、これをカバーするために上部構造の左右側面には収納箱を兼ねた張り出し部が設けられており、張り出し部の側面は下開き式に開くようになっていた。
エンジンはホイッシュレッケ10と同じく、フリードリヒスハーフェンのマイバッハ発動機製作所製のHL90 V型12気筒液冷ガソリン・エンジン(出力360hp)を搭載していたが、ホイシュレッケ10ではエンジンの吸/排気グリルが機関室上面にまとめられていたのに対し、本車では機関室の左側面に開口されたグリルより外気を導入し、右側面のグリルから排出するというIV号戦車と同じ方式が採られていた。
もっとも、IV号戦車では機関室の側面下部に斜め下向きにグリルが設けられていたのに対し、本車では機関室の側面が上に向かって大きく傾斜しており、側面に直接グリルが設けられているという違いがあった。
機関室上面のグリルについては、IV号戦車のものに酷似していた。
起動輪については、ホイシュレッケ10ではIII号戦車G型までのものが用いられていたが、本車にはIII号戦車H型以降の新型起動輪が装着されていた。
ラインメタル社が開発した新型自走砲の試験結果は明らかにはされていないが、クルップ社のホイシュレッケ10と同様、暫定的車両として開発されたヴェスペ自走榴弾砲ほどの完成度は無いものと判断され、それ以上の段階に進むこと無く計画は中止された。
1両のみ製作された試作車は戦後イギリス軍に接収され、現在はダックスフォードの王立戦争博物館別館に展示されている。
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<III/IV号10.5cm自走榴弾砲>
全長: 6.80m
全幅: 3.00m
全高: 2.90m
全備重量: 25.0t
乗員: 5名
エンジン: マイバッハHL90 4ストロークV型12気筒液冷ガソリン
最大出力: 360hp/3,600rpm
最大速度: 45km/h
航続距離: 300km
武装: 28口径10.5cm軽榴弾砲leFH18/40/2×1 (80発)
装甲厚: 10~30mm
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<参考文献>
・「パンツァー2004年8月号 ドイツ火砲運搬車物語(1) ホイシュレッケ」 稲田美秋 著 アルゴノート社
・「パンツァー2010年5月号 ドイツの知られざる自走砲物語」 久米幸雄 著 アルゴノート社
・「パンツァー1999年7月号 ドイツ陸軍の重砲」 水野靖夫 著 アルゴノート社
・「ピクトリアル ドイツ軍自走砲」 アルゴノート社
・「グランドパワー2012年10月号 ドイツ試作自走10.5cm軽榴弾砲」 後藤仁 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2003年7月号 10.5cm自走榴弾砲”ヴェスペ”」 後藤仁 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2023年4月号 ドイツ軍自走砲(8)」 寺田光男 著 ガリレオ出版
・「第2次大戦 ドイツ戦闘兵器カタログ Vol.4 火砲、ロケット兵器:1939~45」 ガリレオ出版
・「第2次大戦 ドイツ戦闘兵器カタログ Vol.2 AFV:1943~45」 後藤仁 著 ガリレオ出版
・「第2次大戦 ドイツ試作軍用車輌」 ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(1) 装軌式自走砲:1917~1945」 デルタ出版
・「ジャーマン・タンクス」 ピーター・チェンバレン/ヒラリー・ドイル 共著 大日本絵画
・「ドイツの火砲 制圧兵器の徹底研究」 広田厚司 著 光人社
・「ドイツ兵器名鑑 1939~45 陸上編」 コーエー
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