2S9「ノーナ(Nona:第9音)S」120mm自走迫撃砲は、空挺部隊の火力支援用自走砲ASU-85の後継として1981年にソ連軍に制式採用され、空挺部隊への装備が開始された。 2S9自走迫撃砲の存在を西側が初めて確認したのは、モスクワ赤の広場における1985年11月7日の革命記念日パレードであったが、本車はそれ以前にアフガニスタンの戦場に投入されていた。 2S9自走迫撃砲の基本構造は、BMD-1空挺戦闘車の派生型であるBTR-D空挺兵員輸送車の車体に、120mm迫撃砲2A60を装備する完全密閉式砲塔を搭載したものである。 本車に搭載されている120mm迫撃砲2A60は、迫撃砲弾および通常砲弾の両方を発射できるユニークなライフル砲で、本車1車種をもって迫撃砲と直射砲の両方を持つのと同じ効果が期待できる。 また本車はBMD-1空挺戦闘車と同様にパラシュートを用いた空挺投下が可能なため、特に空挺部隊にとっては大変に有用な火力支援車両といえる。 120mm迫撃砲2A60は120mm迫撃砲弾(3VOF49、重量19.8kg)を用いた場合有効射程0.4〜8.8km、噴射ブースター付き迫撃砲弾(型式名称不明、重量は同じ)を用いると最大射程は13kmまで延伸できる。 また、対戦車および硬目標用の成形炸薬弾(型式名称不明、重量13.17kg)も発射できる。 この成形炸薬弾は射距離に関わらず、厚さ600mmのRHA(均質圧延装甲板)を穿孔することが可能であるが、戦車程度の大きさの目標に対する有効射程がわずか500m程度しかなく、あくまで応急的な兵器といえよう。 砲弾の装填は自動式で、発射速度は7発/分となっている。 2S9自走迫撃砲の砲塔は一見360度旋回可能に見えるが、実際は左右に各35度ずつしか指向できない。 これは、小柄な車体に無理して自動装填装置を組み込んだためと思われる。 2S9自走迫撃砲の車体はBMD-1空挺戦闘車よりも約48cm延長されており、それに伴って転輪も片側6個に増やされている。 サスペンションは油気圧式で上下に伸縮させることが可能であり、空挺投下時にはサスペンションのアームを畳んで車底と転輪接地部を水平にする。 2S9自走迫撃砲をパラシュート投下する際には、着地直前にロケット・ブースターに点火してショックを和らげる特殊キャリアにセットされるようになっており、An-22大型輸送機から投下することができる。 また本車は浮航性能も備えており、なかなか使い勝手の良い車両である。 こうした特性から2S9自走迫撃砲はすでに空挺師団に相当数が配備されている他、最近ロシア海軍歩兵でも採用し、「ズーブル」(Zubr:野牛)強襲揚陸艇(ホバークラフト)に2両を搭載して活用するという。 2S9自走迫撃砲はロシア以外の国では今のところ使用されておらず、正確な生産数も不明である。 |
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<2S9 120mm自走迫撃砲> 全長: 6.02m 車体長: 5.40m 全幅: 2.63m 全高: 2.30m 全備重量: 8.7t 乗員: 4名 エンジン: 5D20 4ストロークV型6気筒液冷ディーゼル 最大出力: 240hp/2,600rpm 最大速度: 60km/h(浮航 10km/h) 航続距離: 500km 武装: 120mm迫撃砲2A60×1 (25発) 装甲厚: 6〜16mm |
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<参考文献> ・「パンツァー2001年9月号 ソ連・ロシア自走砲史(12) 長射程自走砲の登場」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2001年10月号 ロシア軍AFV インアクション」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2010年10月号 ソ連空挺戦闘車輌の系譜」 竹内修 著 アルゴノート社 ・「パンツァー1999年8月号 最近のロシア軍AFV」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「ロシア軍車輌写真集」 古是三春/真出好一 共著 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2020年5月号 赤の広場のソ連戦闘車輌写真集(5)」 山本敬一 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946〜2000」 デルタ出版 ・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 齋木伸生 著 光人社 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「世界の最新陸上兵器 300」 成美堂出版 ・「世界の装軌装甲車カタログ」 三修社 |
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