2S4「チュルパーン」(Tyulpan:チューリップ)は、現在運用中の迫撃砲の中で世界最大の口径を持つ240mm迫撃砲2B8を搭載する自走迫撃砲で、「オブイェークト305」の開発番号で1960年代初期に開発がスタートしている。 本車の開発はウラル運輸車両工場(ウラルトランスマシュ)が担当しているが、シャシーは同工場が開発を担当した2S5「ギアツィントS」152mm自走加農砲や、2K11「クルーグ」対空ミサイル・システムの自走発射機2P24と共通のイズジェリェ100シリーズを用いている。 「2S4 240mm自走迫撃砲」として制式採用され、部隊配備が始まったのは1970年代初期である。 本車の存在が西側で初めて確認されたのは1975年のことで、西側では「M1975」や「SM-240」と呼称されていた。 主砲の240mm迫撃砲2B8は、数々のロケット迫撃砲を開発してきたペルミ機械工場が開発した後装式迫撃砲で、車体上面後部に外装式に搭載されている。 射撃時には後部のベースプレートを地上に降ろし、その上に迫撃砲を後ろ向きに立てて発射するようになっている。 迫撃砲は+50〜+80度の仰角を取ることが可能で、旋回角は左右各10度ずつとなっている。 使用砲弾は榴弾、対コンクリート砲弾、化学砲弾、核砲弾等があるが、化学砲弾、核砲弾は現在では運用されていないものと思われる。 通常の破片榴弾(3F-864、重量130.84kg)を用いた場合の有効射程は800〜9,650mで、射程延伸用のロケット・ブースター(AMR-03F2、重量228kg)を付属させた場合、最大有効射程は18,000mになる。 搭載弾薬数は40発で、20発ずつのドラムマガジン2基に装填されて車内に収容される。 装填は人力では困難で、クレーンを用いて行われる。 このため発射速度は仰角が+60度の場合1発当たり62秒、同+80度の場合は77秒を要する。 このように、2S4自走迫撃砲は現用地上火砲としては最大重量を持つ榴弾の発射が可能であるが、発射速度が相当遅いので、本車で編制される軍直属自走重迫撃砲連隊は34〜56両から成り、多数による同時発射でその威力を発揮するものとされている。 2S4自走迫撃砲の車体構造は2S5自走加農砲と基本的に同じで、車体前部右側の機関室にパワーパックを収め、左側に前から操縦手席、その後ろに車長席のあるキューポラが位置し、車体後部の両側にはその他の操砲要員(2名)の乗車席と弾薬庫が配置されている(2S4自走迫撃砲には他に操砲要員が5名必要なため、これらの要員は他の支援車両に乗車する)。 車長用キューポラには回転銃架に7.62mm機関銃PKTと赤外線サーチライトが取り付けられており、マニュアルまたはリモコン操作での機関銃発射等が可能となっている。 またもちろん車長用・操縦手用の夜間視察装置や、NBC防護装置も搭載されている。 2S4自走迫撃砲は、実は旧ソ連軍兵器としては最も実態が知られていないものの1つで、ウラル以西のロシア地域には現在1個連隊(55両)が存在するのみと発表され、全体の生産数は約400両で打ち切られたと推定されている。 本車はロシア本国以外にチェコスロヴァキアとイラクに輸出されており、イラクの車両はレバノンのキリスト教民兵部隊に引き渡されている。 |
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<2S4 240mm自走迫撃砲> 全長: 7.94m 全幅: 3.25m 全高: 3.225m 全備重量: 27.5t 乗員: 4名 エンジン: V-59 4ストロークV型12気筒液冷ディーゼル 最大出力: 520hp/2,000rpm 最大速度: 60km/h 航続距離: 500km 武装: 240mm迫撃砲2B8×1 (40発) 7.62mm機関銃PKT×1 (1,500発) 装甲厚: 15mm |
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<参考文献> ・「パンツァー2001年8月号 ソ連・ロシア自走砲史(11) 自走迫撃砲の開発」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「ソビエト・ロシア戦闘車輌大系(下)」 古是三春 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946〜2000」 デルタ出版 ・「世界の軍事・戦車博物館」 笹川俊雄 著 大日本絵画 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「世界の装軌装甲車カタログ」 三修社 |
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