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2S35コアリーツィヤSV 152mm自走榴弾砲





●開発

2S35「コアリーツィヤ(Koalitsiya:連合)SV(Sukhoputniye Vojska:陸軍)」152mm自走榴弾砲は、ロシア陸軍が新たに開発した重装軌式プラットフォーム「アルマータ」(Armata:ギリシャ語で兵器を意味する単語”Arma”の複数形)シリーズの一環として、2S19「ムスタ(Msta:ロシア北西部を流れる河川名)S」152mm自走榴弾砲を代替する目的で開発された装軌式自走砲である。

2S35自走榴弾砲の開発は2S19自走榴弾砲と同じく、エカテリンブルク(旧スヴェルドロフスク)のUTM(Uraltransmash:ウラル輸送機械工場)が担当した。
本車は2016年より生産が開始され、ロシア陸軍への引き渡しが行われることになっている。
しかし2S35自走榴弾砲の実物を見る限り、本車が「アルマータ」シリーズの車両であるとは思えない点がある。

2S35自走榴弾砲は、2015年5月にモスクワ赤の広場で挙行された対独戦勝70周年記念パレードで初めて一般公開されたが、このパレードに参加した車両は同じ「アルマータ」シリーズであるT-14戦車やT-15歩兵戦闘車とは車体の構造が大きく異なっており、どちらかというとT-90戦車シリーズの派生型のような印象を受けた。
他の「アルマータ」シリーズがT-90戦車に比べて車体が大柄で、転輪数も片側7個とT-90戦車より1個増やされているのに対して、2S35自走榴弾砲は車体長がやや短く、転輪数もT-90戦車と同じ片側6個になっている。

そもそも「アルマータ」プラットフォームを開発した目的が、車体を共通化することで開発・運用に掛かるコストを低減させることなので、大幅に設計を変更しては意味が無いのである。
この点について世界の軍事関係者たちは、対独戦勝70周年記念パレードに参加した車両は2S35自走榴弾砲の暫定的な試作車であり、実際にロシア陸軍に配備される生産型はT-14戦車と同様の車体構造を持つものになるのではないかと推測しているようである。

2S35自走榴弾砲は開発当初は、射撃速度の向上を狙って152mm榴弾砲を縦に2連装で装備しており、その斬新なコンセプトで世界の軍事関係者たちを驚かせたが、砲を連装装備する案は2010年に放棄され、2014年11月より試験に供された試作車は常識的な1門装備の形に落ち着いた。
2S35自走榴弾砲の愛称が「連合」を意味する「コアリーツィヤ」になったのは、砲を連装装備する初期の設計案の名残と思われる。


●攻撃力

2S35自走榴弾砲の砲塔は、ステルス性を考慮して平面を多用した角張ったデザインになっているものの、基本的には前作である2S19自走榴弾砲の砲塔によく似ている。
ただし2S19自走榴弾砲が4名の砲塔乗員を必要としたのに対して、2S35自走榴弾砲は大幅に自動化が進められた結果砲塔が無人化されており、T-14戦車と同じく車長、操縦手、砲手の3名の乗員は全て車体前部の装甲カプセル内に横並びに搭乗するようになっている。

砲手は装甲カプセル内の左側に位置し、主砲の照準−弾薬の装填−主砲の発射の一連の操砲動作は車体内からの遠隔操作によって行うようになっている。
主砲の発射速度は、8発/分という高いレベルを実現している。
2S35自走榴弾砲の主砲は、2S19自走榴弾砲に搭載されていた48口径152mm榴弾砲2A64の改良型である、52口径152mm榴弾砲2A88が採用されている。

この砲の最大射程は通常榴弾を使用した場合で30km、ロケット補助榴弾を使用した場合で40kmに延びているといわれる。
使用砲弾は通常の榴弾の他、対戦車子弾やジャミング用子弾を収めた運搬弾、レーザー誘導弾の9K25「クラスノポール」などが運用できる。

2S35自走榴弾砲の副武装は、砲塔上面左寄りに設けられたRWS(遠隔操作式武装ステイション)に12.7mm重機関銃Kordが1挺装備されている。
従来のロシア製自走砲では、副武装の12.7mm重機関銃は乗員が砲塔から身を乗り出して操作しなければならなかったが、2S35自走榴弾砲では12.7mm重機関銃をRWSに装備したことで、車内から安全に操作できるようになっている。


●防御力

2S35自走榴弾砲の車体と砲塔は、共に圧延防弾鋼板の全溶接構造となっている。
本車は近接戦闘用の車両ではないため、装甲厚はかなり薄く抑えられていると思われるが具体的な厚さは不明である。
T-90戦車シリーズと同じく車体前面下部には簡易型のドーザー・ブレイドが取り付けられているが、これは対戦車地雷などに対する補助装甲の役割も果たしている。

また本車はAPS(アクティブ防御システム)を備えており、砲塔上面の四隅に設置されたレーザー検知装置が自車に向かってくる対戦車ミサイル等を感知すると、砲塔の左右側面前部と砲塔上面の左右端に各3基ずつ備えられている発煙弾発射機902B「トゥーチャ」(Tucha:黒雲)から自動的に発煙弾を発射して、ミサイルの誘導を妨害するようになっている。


●機動力

2S35自走榴弾砲の車体は、同じ「アルマータ」シリーズであるT-14戦車に比べて車体長が短縮されて転輪数も1個減らされているが、エンジンはT-14戦車と同じく車体後部に配置されている。
2S35自走榴弾砲のエンジンは、T-90A戦車と同じV-92-S2 V型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力1,000hp)が搭載されていると推測されている。
このエンジンにより、2S35自走榴弾砲は路上最大速度60km/hの機動性能を発揮する。

2S35自走榴弾砲の転輪については、T-90戦車シリーズと同じく6個の肉抜き穴が開けられているタイプが用いられており、T-14戦車やT-15歩兵戦闘車の転輪とは明らかに異なっている。
なお車体の重量バランスが後ろに偏っているため、第1転輪と第2転輪、第2転輪と第3転輪の間隔が比較的広く取られているのに対し、それ以外の転輪の間隔は狭くなっている。
こうすることでT-90戦車シリーズと同じ転輪数ながら、接地長を長くすることに成功している。

2S35自走榴弾砲のサスペンションはT-90戦車シリーズと同じく一般的なトーションバー(捩り棒)方式のようで、T-14戦車と異なり円形の取り付け基部を持つアームが組み合わされていない。
このことからも、対独戦勝70周年記念パレードに参加した車両は2S35自走榴弾砲の暫定的な試作車であった可能性が高いようである。


<2S35 152mm自走榴弾砲>

全長:    
全幅:    
全高:    
全備重量: 48.0〜55.0t
乗員:    3名
エンジン:  V-92-S2 4ストロークV型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 1,000hp/2,500rpm
最大速度: 60km/h
航続距離: 500km
武装:    52口径152mm榴弾砲2A88×1 (50発)
        12.7mm重機関銃Kord×1 (300発)
装甲厚:  


<参考文献>

・「パンツァー2018年8月号 特集 迷走する?T-14」 小泉悠/ヴォルフガング・シュナイダー 共著  アルゴノート
 社
・「パンツァー2015年7月号 ロシアの新型AFVシリーズ「アルマタ」」 古是三春 著  アルゴノート社
・「パンツァー2020年2月号 能勢伸之のツキイチ安全保障(12)」 能勢伸之 著  アルゴノート社
・「パンツァー2016年8月号 ロシア軍新自走砲 コアリツィアSV」  アルゴノート社
・「パンツァー2022年2月号 軍事ニュース」  アルゴノート社
・「パンツァー2024年1月号 軍事ニュース」  アルゴノート社
・「ウォーマシン・レポート48 ニュールック ロシア軍AFV」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「なんでこうなった!? 誰が考えた!? 世界の珍兵器大全」 ストロー=クーゲルスタイン 著  KADOKAWA
・「グランドパワー2019年10月号 ソ連軍主力戦車(4)」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「世界の戦車パーフェクトBOOK」  コスミック出版

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