第2次世界大戦中からソ連軍は多数の自走砲を開発し装備してきたが、ほとんどは直接照準射撃で前線部隊の攻撃作戦を援護するような直援型のものだった。 戦後、ソ連地上軍は戦車部隊と狙撃兵部隊を主力に未曾有の規模の機械化部隊を編制したが、これに支援砲火を提供する砲兵隊は自動車牽引式のものが主力で、機甲部隊と共に迅速な機動と陣地転換を行うには向いていなかった。 そこで1965年以降、122mm榴弾砲と152mm榴弾砲を自走化する計画が「GAVTU」(ソ連軍輸送牽引車両開発監督局)から発注された。 その内1971年に完成し制式採用されたのが、2S1「グヴォジーカ」(Gvozdika:カーネーション)122mm自走榴弾砲である。 西側から一時「M1973」とか「SO-122」と呼称されていた2S1自走榴弾砲は、MT-LB装甲輸送・牽引車の車体をベースに、1963年に制式化されて牽引式榴弾砲の主力の一端を担っていた38口径122mm榴弾砲D-30(2A18)を基に開発された36口径122mm榴弾砲2A31を、360度旋回可能な完全密閉式砲塔に搭載したものである。 本砲は重量21.7kgの破片榴弾(OF-462)を最大射程15.2kmで発射できる他、装甲貫徹力460mmの成形炸薬弾(BK-6M/HEAT-FS)も準備されている。 また近年、レーザー誘導式の精密射撃用砲腔内発射式ロケット弾「キトロフ2」が開発されたが、高価な砲弾であるため極めて限定的にしか使用されていない。 車内には、40発分の弾頭と装薬を搭載している。 2S1自走榴弾砲は装填が完全には自動化されておらず、装填手が2名(分離薬莢式のため)搭乗し手動装填するようになっている。 車内動作のみの操砲での発射速度は2発/分、車体後部ドアから給弾を受けた場合は4発/分で、現代火砲としては遅い部類になる。 今日の目で見れば、第2次大戦型の牽引砲に装甲と車体を与えただけの旧式自走砲である。 しかしMT-LB装甲輸送・牽引車をベースにしたため浮航性能も持っており、機動面でも路上最大速度60km/h、路外最大速度30km/hとこの種の自走砲としては良好である。 2S1自走榴弾砲は生産開始後まず戦車師団から引き渡しが始まり、1個師団当たり18両編制(3個中隊)の1個大隊が配属された。 そして後に「カテゴリ1」(常に臨戦態勢の装備充足率がされた部隊)の自動車化狙撃師団には、6個大隊が配属されていった。 本車によりソ連軍は初めて、地形障害を戦車などと共に乗り越えられる間接照準射撃用の自走砲を持つことができたのである。 2S1自走榴弾砲は1980年代には西側の同種自走砲に比べて射程が短いことや、自動化が進んでいないこともあって旧式化してしまったが1990年頃まで生産が続けられ、約1万両が旧ワルシャワ条約機構諸国やフィンランド、中東諸国等に就役したと見られている。 旧ソ連以外では、ポーランドとブルガリアでライセンス生産が行われた。 |
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<2S1 122mm自走榴弾砲> 全長: 7.26m 全幅: 2.85m 全高: 2.732m 全備重量: 15.7t 乗員: 4名 エンジン: YaMZ-238 4ストロークV型8気筒液冷ディーゼル 最大出力: 300hp/2,100rpm 最大速度: 60km/h(浮航 4.5km/h) 航続距離: 500km 武装: 36口径122mm榴弾砲2A31×1 (40発) 装甲厚: 15〜20mm |
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<参考文献> ・「パンツァー2001年7月号 ソ連・ロシア自走砲史(10) 機甲部隊支援用自走砲の開発」 古是三春 著 アルゴ ノート社 ・「パンツァー2013年5月号 旧ソ連時代から使われる汎用装甲車輌 MT-LB」 柘植優介 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2013年12月号 旧ソ連製の軽自走砲 2S1グヴォズジーカ」 鹿内誠 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2002年1月号 ロシア軍車輌 インアクション」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2003年7月号 ロシア軍AFV インアクション」 アルゴノート社 ・「ロシア軍車輌写真集」 古是三春/真出好一 共著 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2020年5月号 赤の広場のソ連戦闘車輌写真集(5)」 山本敬一 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946〜2000」 デルタ出版 ・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 齋木伸生 著 光人社 ・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著 三修社 ・「世界の装軌装甲車カタログ」 三修社 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「世界の最新陸上兵器 300」 成美堂出版 |
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