NATOコードネームでSA-6「ゲインフル」(Gainful:利益のある、儲かる)と呼ばれる、ZRK-SD 2K12「クーブ」(Kub:立方体)は(ZRK-SDとは師団自走対空ロケット・システムの略号)、1958年に開発が下令された対空ミサイル・システムである。 全体を統括したのはツシノにあるトロポフ設計局(OKB-134)で、1967年1月には防空軍(PVO)の装備として制式採用され、1970年には地上軍でも本格的な装備化が始まった。 「クーブ」対空ミサイル・システムは、1967年にモスクワ赤の広場で行われたパレードで早くも一般公開されており、この時に西側が初めて存在を確認した。 本システムは、3M9対空ミサイルを3連装で装備する全周旋回式ランチャーを搭載する2P25自走発射機と、各種レーダー等の支援車両で構成され、1970年以降戦車師団から順次1個連隊ずつ配属されていったが、連隊の構成は連隊司令部、標的探知部隊(長距離レーダー各種から成る)と5個中隊から成っている。 1個中隊には平時編制で、3M9対空ミサイルを搭載した2P25自走発射機4両と1S91自走誘導レーダー1両、それに予備ミサイル3発を搭載したクレーン付きの2T7再装填トラック4両が配属されている。 3M9対空ミサイルは低〜中高度(50〜12,000m)迎撃用で、今日まで3度改良型が出現している(最後の改良型は3M9M4)。 全長5.8mで発射重量599kg、炸薬弾頭の重量は59kgで、最大有効射程は24kmである。 2P25自走発射機は、アストロフ設計局(SKB-40)が開発したASU-85空挺自走砲のコンポーネントを流用して開発されたもので、同設計局が開発したZSU-23-4「シルカ」対空自走砲の車台と共通化されている。 「クーブ」対空ミサイル・システムはZSU-23-4「シルカ」対空自走砲と組み合わせて、前線の地上軍が展開している上空域に濃密な対空火網を形成する。 本システムによる迎撃はまず、連隊の標的探知部隊からの敵機飛来情報が各中隊の誘導レーダーに伝達され、各中隊では誘導レーダーのデータと指示を自走発射機が受け、1目標に対して1〜3発の3M9対空ミサイルが発射される。 誘導レーダーは28kmまでの距離を捕捉するディッシュ型(上段)と、55〜75km程度までの距離を捕捉する横長のパラボラ型(下段)の2段式になっており、自走発射機とほぼ同じ車台に搭載している。 自走誘導レーダーにはレーダー誘導に際しての敵側のジャマー対策として、TVカメラによる緊急用誘導システムも搭載されている。 3M9対空ミサイルは発射後4秒でマッハ1.5まで加速されて目標のごく近くまで誘導され、最後は自動赤外線ホーミングでさらに接近して炸裂するようになっている。 「クーブ」対空ミサイル・システムは、旧ソ連が開発した対空ミサイル・システムとしては最も西側航空機を撃墜したものと思われ、1973年の第4次中東戦争(ヨム・キプール戦争)の際には、エジプト軍が装備する本システムによって地上攻撃に襲来したイスラエル空軍機が20機撃墜されている。 本システムは本国ロシアはもちろん、中東諸国やインドなどで今日も多数が現役として就役しており、輸出型は2K12E「クヴァドラート」(Kvadrat:正方形)と称される。 |
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<2P25自走発射機> 全長: 7.389m 車体長: 6.79m 全幅: 3.18m 全高: 3.45m 全備重量: 14.0t 乗員: 3名 エンジン: V-6R 4ストロークV型6気筒液冷ディーゼル 最大出力: 240hp/1,800rpm 最大速度: 44km/h 航続距離: 260km 武装: 3M9対空ミサイル3連装発射機×1 (3発) 装甲厚: 最大9.4mm |
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<3M9対空ミサイル> 全長: 5.80m 直径: 0.335m 翼幅: 1.245m 発射重量: 599kg 弾頭重量: 59kg 誘導方式: セミアクティブ・レーダー 最大飛翔速度: マッハ2.8 有効射程: 3,700〜24,000m 有効射高: 50〜12,000m |
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<参考文献> ・「グランドパワー2006年2月号 自走対空ミサイルSA-6ゲインフルのディテール」 真出好一 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2020年5月号 赤の広場のソ連戦闘車輌写真集(5)」 山本敬一 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2019年12月号 1980年代のソ連軍AFV」 山本敬一 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2005年11月号 シリーズ:中東戦争(8)」 古是三春 著 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946〜2000」 デルタ出版 ・「パンツァー2002年5月号 ソ連・ロシア ロケット/ミサイル車輌史(4)」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2014年5月号 チェコ陸軍の現用AFV」 アルゴノート社 ・「ロシア軍車輌写真集」 古是三春/真出好一 共著 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「大図解 世界のミサイル・ロケット兵器」 坂本明 著 グリーンアロー出版社 ・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「世界の戦車・装甲車」 竹内昭 著 学研 ・「世界の最新陸上兵器 300」 成美堂出版 ・「ミサイル事典」 小都元 著 新紀元社 |
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