FCM 2C重戦車
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+概要
2C重戦車は第1次世界大戦末期の1918年に、マルセイユを本拠地とするFCM社(Forges et Chantiers de la Méditerranée:地中海造船・製鉄所)の手で開発された重戦車である。
当時フランス陸軍が運用していたシュナイダー突撃戦車やサン・シャモン突撃戦車などの大型戦車は、さすがに性能的な限界が見えてきており、FCM社の提案によってこれらの後継となる新型重戦車を開発することになった。
FCM社が設計した新型重戦車は、イギリス陸軍の菱形戦車シリーズと同じく車体上部まで履帯が取り巻くスタイルで、全長10mを超える大型戦車であった。
第1次大戦中に開発された大型戦車としては珍しく全周旋回式の砲塔を装備しており、しかも車体の前後に砲塔を1基ずつ装備していたので多砲塔戦車のはしりともいえる。
武装は、車体前部の主砲塔にAPX社(Atelier de Construction de Puteaux:ピュトー工廠)製の36口径75mm加農砲M1897、車体後部の副砲塔にサン・ドニのオチキス社製の8mm空冷重機関銃M1914を装備し、車体前面と左右側面にも8mm重機関銃M1914を各1挺ずつ装備していた。
フランス陸軍は本車を1919年に予定していたドイツ軍に対する大規模な攻勢に投入することを計画し、「FCM 2C重戦車」として制式採用しFCM社に300両の発注を行った。
2C重戦車はFCM社のラ・セーヌ=シュル=メール工場で生産が行われたが、当時の工業技術では製造が困難な戦車であったため量産は遅々として進まず、1918年11月の第1次大戦終了時までに完成した2C重戦車はわずか10両に過ぎなかった。
大戦が終結したことでフランス陸軍はこれ以上2C重戦車を生産する必要性は無くなったと判断し、残りの290両の発注を全てキャンセルした。
完成した10両の2C重戦車も、用意されたエンジンの出力不足から実際には戦場に投入できるような状態ではなく、何とか使用できるようになったのは、1921年に戦争賠償としてドイツから引き渡されたダイムラー自動車製のメルツェーデス航空機用直列6気筒液冷ガソリン・エンジン(出力180hp)2基が搭載されてからである。
しかしこれでもまだ出力不足だったようで後に、やはり戦利品としてドイツから引き渡された出力250hpのマイバッハ発動機製作所製ガソリン・エンジンに換装されている。
2C重戦車の駆動機構は、構造が複雑になり重量がかさむ「発電機-モーター駆動方式」いわゆるハイブリッド駆動方式を採用しており、ただでさえ低い稼働率をさらに低下させる一因となっていた。
これはまずガソリン・エンジンで発電機を駆動させ、発生した電気を用いて左右に独立して設けられた電気モーターを回転させて、動力を起動輪に伝達するという駆動方式である。
わざわざ構造が複雑になるハイブリッド駆動方式を採用せざるを得なかったのは、70tにも達する2C重戦車の大きな重量に原因があった。
当時の工業技術では、70tもある重戦車を走行させることが可能な機械式変速・操向機を製作することは事実上不可能で、ハイブリッド駆動方式を導入する他に手が無かったのである。
1926年になってFCM社は、2C重戦車の内の1両をソッター・オル社製の250hpガソリン・エンジン2基に換装し、主砲を155mm榴弾砲に改め装甲を強化した車両を製作し、これは「2Cbis」と呼ばれている。
その後2C重戦車は交換用パーツの不足から共食いで8両まで減り、1940年5月のドイツ軍のフランス侵攻時には第51突撃戦車大隊に編制されていた。
2C重戦車は第1次大戦の遺物の旧式戦車であったが、ドイツ軍の侵攻に際しては戦線に投入することが決まり貨車に積まれて前線に向かった。
しかしドイツ軍の空爆により貨車の移動が不能となったため、2C重戦車がドイツ軍に使用されないよう乗員の手で自爆処理されてしまった。
ドイツ軍は鹵獲した2C重戦車を本国のクンマースドルフ試験場に運搬し、修理の上性能試験を実施している。
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<2C重戦車>
全長: 10.27m
全幅: 2.95m
全高: 4.01m
全備重量: 70.0t
乗員: 12~13名
エンジン: メルツェーデス 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン×2
最大出力: 360hp
最大速度: 12km/h
航続距離: 160km
武装: 36口径75mm加農砲M1897×1 (125発)
8mm重機関銃M1914×4 (10,000発)
装甲厚: 13~45mm
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<2Cbis重戦車>
全長: 10.27m
全幅: 2.95m
全高: 4.01m
全備重量: 70.0t
乗員: 12~13名
エンジン: ソッター・オル 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン×2
最大出力: 500hp
最大速度: 12km/h
航続距離: 160km
武装: 155mm榴弾砲×1
8mm重機関銃M1914×4 (10,000発)
装甲厚: 13~45mm
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<参考文献>
・「パンツァー2014年10月号 第一次大戦の戦車総覧 初登場した地上戦の主役達」 荒木雅也 著 アルゴノー
ト社
・「パンツァー2020年4月号 AFV(アホデ・ファニーナ・ヴィークル)(14)」 M.WOLVERINE 著 アルゴノート社
・「パンツァー2006年4月号 各国多砲塔戦車の歴史 フランス/アメリカ」 柘植優介 著 アルゴノート社
・「パンツァー1999年9月号 フランスのマンモス戦車 FCM-2C重戦車」 古是三春 著 アルゴノート社
・「パンツァー2000年1月号 1940年におけるフランス戦車」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2024年7月号 フランス軍突破戦車 CHAR 2C」 箙公一 著 アルゴノート社
・「世界の戦車 1915~1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著 大日本絵画
・「世界の戦車(1) 第1次~第2次世界大戦編」 ガリレオ出版 ・「日本と世界の珍兵器大図鑑」 ダイアプレス
・「戦車名鑑 1939~45」 コーエー
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