24式機動120mm迫撃砲
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+開発
24式機動120mm迫撃砲は、現在配備が進められている陸上自衛隊初の装輪式自走迫撃砲である。
陸上自衛隊は従来、60式自走81mm迫撃砲、60式自走107mm迫撃砲、96式自走120mm迫撃砲など、装軌式車両をベースとした自走迫撃砲を運用してきたが、これらは不整地における機動性に優れる反面、装輪式の自走迫撃砲に比べて製造・運用コストが高いため、大量調達が難しいことが問題となっていた。
同じ自走砲でも、長射程での高い射撃精度を求められる自走榴弾砲の場合は、安定した大重量の装軌式車体を備えるのが望ましいが、自走迫撃砲の場合は主砲の射程が短く、また高仰角をかけた状態で射撃を行うケースが多いため、射撃プラットフォームとしての安定性で劣る装輪式車体でも問題は少なく、むしろ安価で大量調達が可能というメリットの方が大きい。
このため、諸外国の自走迫撃砲は現在装輪式がトレンドとなっており、防衛省もそうした世界情勢を鑑みて、陸上自衛隊の次期自走迫撃砲を装輪式とする方針を決定したと思われる。
陸上自衛隊では2017年度から、初の火力支援用装輪式装甲車である16式機動戦闘車(略称:16MCV、開発・生産の主契約者は三菱重工業)の実戦部隊への配備を開始しており、退役した74式戦車に代わる機甲戦力の一翼を担わせている。
また防衛省は2014年度から小松製作所に対して、96式装輪装甲車の後継となる8輪型の装甲兵員輸送車を、「装輪装甲車(改)」の呼称で開発させており、この16MCVもしくは装輪装甲車(改)の車体をベースにファミリー車両を開発することで、従来運用してきた装軌式の89式装甲戦闘車に代わる装輪式歩兵戦闘車、6輪型の87式偵察警戒車に代わる8輪型の偵察用装甲車、96式自走120mm迫撃砲および、牽引式の120mm迫撃砲RTに代わる装輪式自走迫撃砲を調達することを計画した。
そして、この一連のファミリー車両に「共通戦術装輪車」という呼称を与えると共に、2018年1月に三菱と「共通戦術装輪車システム設計A」、続いて同年2月にコマツと、「共通戦術装輪車システム設計B」の開発契約を締結した。
このように共通戦術装輪車は当初、三菱とコマツによる競争試作の形で開発がスタートしたが、2018年6月にコマツ側が、装輪装甲車(改)の開発を断念する意向を表明する事態となった。
装輪装甲車(改)が開発中止となったことで、そのファミリー車両である共通戦術装輪車の開発からもコマツは撤退することとなり、このため共通戦術装輪車の開発は、16MCVをベースに三菱が単独で請け負うことになった。
共通戦術装輪車の開発の細かなスケジュールは不明であるが、2022年9月28日に、共通戦術装輪車の歩兵戦闘型と機動迫撃砲型の試作車が、大分県の日出生台演習場で実施した射撃試験から帰還する様子を捉えた、スクープ写真がSNS上に流出している。
2024年9月4日に公表された、令和7(2025)年度予算概算要求の概要において、共通戦術装輪車 歩兵戦闘型の制式呼称が「24式装輪装甲戦闘車」、共通戦術装輪車 機動迫撃砲型の制式呼称が「24式機動120mm迫撃砲」であることが判明した。
なお共通戦術装輪車 偵察戦闘型については、この時点では制式呼称は与えられていなかった。
24式機動120mm迫撃砲は2024年度から調達が開始され、2024年度予算、2025年度概算要求でそれぞれ8両ずつ、80億円の計上、83億円が要求されている。
前作の96式自走120mm迫撃砲が24両の少数調達に留まったのとは対照的に、本車は最終的には102両が調達される予定である。
今後は、全国の即応機動連隊の火力支援中隊に優先的に配備されるものと見られる。
前述のように、24式機動迫撃砲は16MCVの車体をベースとして流用しており、105mm戦車砲を装備する16MCVの砲塔を撤去し、車体後部を嵩上げして上面と後面を開放可能な戦闘室とし、フランスのタレス社製の120mm迫撃砲2R2Mを豊和工業でライセンス生産したものを、後ろ向きに搭載している。
この2R2Mは、96式自走迫撃砲の主武装であった120mm迫撃砲RTに、半自動装填装置を追加するなどの改良を施したものであり、弾薬の装填に要する砲操作員の負担が軽減されている。
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+攻撃力
24式機動120mm迫撃砲の主武装である120mm迫撃砲2R2Mは、フランスのトムソン・ブラント社(現タレス社)が1961年に開発した牽引式の120mm迫撃砲RTをベースとし、これに半自動装填装置を追加するなどの改良を施した車載用重迫撃砲である。
原型の牽引式120mm迫撃砲RTは、フランスを始め15カ国の陸軍で採用されるベストセラーとなっており、陸上自衛隊もアメリカ製の牽引式107mm迫撃砲M2の後継として、1992年度から導入を開始している。
陸上自衛隊では、豊和工業においてライセンス生産したRTを、普通科連隊の重迫撃砲中隊に配備しており、2023年度までに合計504門を調達し、さらに、96式自走120mm迫撃砲の主武装として24門を調達している。
陸上自衛隊での制式呼称は「120mm迫撃砲RT」となっているが、メーカーにおける正式呼称は、「Mortier 120mm Rayé Tracté
Modèle 61」(牽引式120mmライフル迫撃砲モデル61)である。
この120mm迫撃砲RTは1959年に最初の試作品が完成し、1961年には最初の量産品が作られている。
120mm迫撃砲RTおよび2R2Mの砲身は、通常の迫撃砲に使われている滑腔砲身ではなく、呼称の通りライフル砲身が採用されている。
従って、通常の迫撃砲が安定翼の付いた有翼弾を使用するのに対し、RTおよび2R2Mでは砲弾の旋転により弾道を安定させることになる。
RTおよび2R2Mが使用する砲弾の後部には棒状のものが取り付けられているが、これは安定翼ではなく装薬を保持するためのチューブである。
これに切り欠きの付いた円盤状の装薬を取り付け、発射後は砲弾から分離される。
一般に迫撃砲は低初速であり、有翼弾を使用することが原因で横風等の影響を受け易い。
しかしRTおよび2R2Mでは、旋転安定式を採用したことにより風の影響を受け難く、命中精度を向上させている。
公算誤差は左右方向で射距離の0.1~0.15%、前後方向で射距離の0.4~0.58%に収まるとされており、翼安定式の迫撃砲に比べ精度が高い。
RTおよび2R2Mの砲身長は2.08mで、砲身の外面には放熱用に表面積を増すための溝がびっしり掘られている。
重量は107mm迫撃砲M2が151kgなのに対して、RTは約4倍の582kgにも達する。
迫撃砲は円形のターン・テーブルに載せられており、砲の旋回角は左右各800ミル(約45度)となっている。
旋回操作は、砲身右側下部の旋回用ハンドルを回転させて行う。
砲の俯仰角は、+30~+85度となっている。
俯仰操作は砲身左側下部の俯仰用ハンドルを回転させ、砲身外面の溝に噛まされたピニオン・ギアを作動させて行われる。
照準は、軸環に取り付けられた托座に装着された照準機で行われ、砲身右側上部の照準用ハンドルを使って交差水平軸を動かして行われる。
RTおよび2R2M用の弾薬には榴弾、発煙弾、照明弾、対軽装甲弾、そして噴進弾が用意されている。
「噴進弾」というのはロケット補助推進弾の自衛隊での呼称であるが、現場では単に「RAP」(Rocket-Assisted Projectile:ロケット補助推進弾の頭字語)と呼ばれることが多い。
RTおよび2R2Mの弾薬は、ダイキン工業と小松製作所においてライセンス生産されている。
最大射程は通常弾の場合で8,140m、噴進弾を使用すると12,850mに達する。
2R2Mの最大発射速度は10発/分とされており、メーカーによるとこの高い発射速度により、トータルの砲撃効果は従来の155mm榴弾砲に匹敵するという。
また24式機動迫撃砲は、陸上自衛隊の最新鋭MBTである10式戦車に搭載されている中隊・小隊単位のC4Iシステムである、10式戦車ネットワーク(略称:10NW、開発担当は三菱重工業)と同様のC4Iシステムを搭載しており、中隊・小隊単位でのリアルタイムな指揮統制・情報共有・射撃指揮が可能となっている。
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+防御力
24式機動120mm迫撃砲の車体は圧延防弾鋼板の全溶接構造になっているが、その防御力に関しては一切明らかにされていない。
しかし、本車のベースとなった16MCVの防御力が、車体前面で20mm機関砲弾の直撃、それ以外の部分で12.7mm重機関銃弾の直撃に耐えられる程度といわれているので、本車もそれと同程度の防御力は備えていると推測される。
また、24式機動迫撃砲の車体前面と側面には16MCVと同様、基本装甲の上に防弾鋼板と思われるモジュール式の増加装甲板がボルト止めされている。
このように車体の増加装甲をモジュール式にしているのは、必要に応じてより防御力の高い増加装甲を取り付けられるように、設計したためではないかと推測される。
24式機動迫撃砲の車内レイアウトは、車体前部左側がパワーパックを収納した機関室、前部右側が操縦室、車体後部が主武装の120mm迫撃砲2R2Mおよび、砲操作員、弾薬等を収容する戦闘室となっている。
戦闘室の上面は、120mm迫撃砲を射撃する際には左右に大きく開放するようになっており、また戦闘室の後面は弾薬の積み降ろしや乗員の乗降に用いるため、大型のランプドアが設けられている。
ランプドアの中央には右開き式の縦長のドアが設けられており、ランプドアを閉鎖した状態ではこのドアを使用して乗降を行う。
またランプドアは水平に開放した状態で固定できるため、開放時には砲操作員の作業用プラットフォームとして利用するようになっている。
120mm迫撃砲の俯仰機構のさらに下部には、砲身を格納するための折り畳み機構があり、この左側から伸びたハンドルを回して砲部を車体後部方向にさらに倒し、完全に車内に格納できるようになっている。
なお、24式機動迫撃砲の乗員は車長、操縦手、砲操作員3名の計5名となっており、これは前作の96式自走120mm迫撃砲と変わらない。
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+機動力
24式機動120mm迫撃砲のパワーパックは、ベースとなった16MCVと同様、三菱重工業製の4ストローク直列4気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力570hp)と、トルク変換機付きの自動変速・操向機を組み合わせており、戦闘重量が26.0tなので出力/重量比は21.9hp/tという高い値である。
パワーパックは車体前部左側の機関室に収容され、機関室の側面には排気口とラジエイター・グリルが、上面には吸気口が設けられている。
24式機動迫撃砲のサスペンションは、三菱とダイキン工業が共同開発した油気圧式サスペンションが採用されており、全輪が独立懸架されている。
駆動方式は、8×8と8×4を選択できるようになっていると推測されており、道路上では燃費効率の良い8×4方式で走行し、不整地ではグリップ力に優れる8×8方式に切り替える。
また、本車は最近の装輪式装甲車では必須の装備となっている、CTIS(タイヤ空気圧中央制御装置)も備えていると思われる。
車体の方向転換は前2軸が操向して行うようになっており、操縦手にはパワーステアリング付きの円形の操向ハンドルが用意されている。
動力伝達は、車体下部の真ん中に通った1本の推進軸から、ディファレンシャル・ギア(差動歯車)を用いて左右に分配する構造を採っており、同じ8輪装甲車ながら、96式装輪装甲車やNBC偵察車とは異なっている。
24式機動迫撃砲のタイヤについては、ブリヂストン社製のL302ランフラット・タイヤ(395/85R20)を装着している。
これらの足周りによって、本車は路上最大速度100km/hという高い機動性能を発揮する。
本車の航続距離については明らかにされていないが、ベースとなった16MCVの路上航続距離が800km程度といわれていることから、それに近い値ではないかと推測される。
前作の96式自走120mm迫撃砲と比較すると不整地での機動性では劣るものの、路上での機動性能の高さが24式機動迫撃砲の最大の長所といえるであろう。
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<24式機動120mm迫撃砲>
全長: 8.10m
全幅: 3.00m
全高: 2.70m
全備重量: 26.0t
乗員: 5名
エンジン: 三菱 4ストローク直列4気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 570hp/2,100rpm
最大速度: 100km/h
航続距離:
武装: 17.3口径120mm迫撃砲2R2M×1
装甲厚:
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<参考文献>
・「パンツァー2023年12月号 16式機動戦闘車ファミリー 共通戦術装輪車比較」 アルゴノート社
・「パンツァー2022年12月号 共通戦術装輪車 歩兵戦闘車型&機動迫撃砲型」 アルゴノート社
・「パンツァー2023年11月号 令和6年度概算要求の注目点」 三鷹聡 著 アルゴノート社
・「パンツァー2024年12月号 陸上自衛隊 共通戦術装輪車」 アルゴノート社
・「パンツァー2024年4月号 軍事ニュース」 荒木雅也 著 アルゴノート社
・「ウォーマシン・レポート68 16式機動戦闘車」 アルゴノート社
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