対米開戦後の日本軍のAFV開発は試作期間の短縮の要請から、ドイツ軍の既存車両を直接参考にすることが多かった。
技術側は太平洋戦争末期になると、アメリカ軍戦車を研究することもあったのだが、参謀本部は終始ドイツ頼みで、ドイツ以外（米ソなど）のAFVを参考にすることはほとんど無かった。

この一式十糎自走砲（ホニＩＩ車）も、ドイツ軍機甲師団の機動砲兵連隊に配属されていた、ＩＩ号戦車の車台をベースに開発された10.5cm自走榴弾砲ヴェスペのコンセプトを模倣した車両である。
本車の開発の目的は一式砲戦車（ホニＩ車）と同様、戦車団または戦車師団内の機動砲兵連隊の自走砲化を、旧式化しつつあった九七式中戦車（チハ車）の車台を活用して実現することにあった。

1942年に編制された戦車師団は、戦車旅団2個（各戦車連隊2個）と機動歩兵連隊1個、そして機動砲兵連隊1個等から成っていた。
その機動砲兵連隊は九〇式野砲（口径75mm）1個大隊と、九一式十糎榴弾砲2個大隊から成る。

ホニＩ車はその九〇式野砲を自走化したもので、ホニＩＩ車は九一式十糎榴弾砲を自走化しようと製作されたものであった。
一式十糎自走砲は秘匿呼称「ホニＩＩ車」として1941年3月から開発が始まり、試作車は1942年の中頃に完成し陸軍野戦砲兵学校での実用試験を受けた。

試験の結果は良好であったため、同年中に「一式十糎自走砲」として制式化された。
ホニＩＩ車の生産はホニＩ車と同様、日立製作所亀有工場で行われた。
1943年11月以降、ホニＩ車とホニＩＩ車合計で138両が完成したといわれているが、ホニＩＩ車の生産はごく少数に終わったようである。

ホニＩＩ車の車体はチハ車のものをほぼそのまま利用しており、ホニＩ車と同じく主砲の周囲を装甲板で囲んで戦闘室を構成していた。
直接対戦車戦闘が主ではなく、遠距離からの間接照準射撃が任務であったために、装甲はホニＩ車（最大装甲厚50mm）ほど強力ではなく、車体と戦闘室の前面で25mmであった。

ホニＩ車と同じく戦闘室の上面と後面はオープンとなっており、敵の砲爆撃で生ずる弾片から砲側員を守ることはできなかった。
主砲には口径105mm、砲身長2,090mmの九一式十糎榴弾砲が搭載された。
よってホニＩ車は自走野砲であったが、ホニＩＩ車は自走榴弾砲である。

九一式十糎榴弾砲の威力については、ビルマに行った砲兵部隊が「榴弾でM4中戦車を破壊できた」と記している。
しかし、開発当初は対戦車任務は想定されていなかった。
高射砲を除くと、口径が105mm以上の火砲は弾頭と薬筒/薬嚢とが分離式になっていたので、装填には2挙動を要し発射速度は比較的低下する。

砲身は単肉式で補強のために砲口リングが付けられ、射撃時の反動を低減するための砲口制退機は備えていなかった。
閉鎖機は隔螺式で、砲架は車載用に小改修されていた。
砲口初速454m/秒、最大射程10,800mで砲の俯仰角は−15〜＋25度、旋回角は左右各11度ずつである。
携行弾数は、20発とも16発ともいわれている。