19式装輪自走155mm榴弾砲
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+開発
19式装輪自走155mm榴弾砲は、陸上自衛隊の野戦特科部隊が運用している牽引式155mm榴弾砲FH70の後継として開発された8×8型装輪式の自走榴弾砲である。
155mm榴弾砲FH70はイギリス・西ドイツ・イタリアの3国が1970年代後期に共同開発したもので、ベースブリード弾を使用した場合の最大射程は30kmに達し、APU(補助動力装置)を搭載し自走も可能という優秀な牽引榴弾砲であった。
陸上自衛隊は1983年度からライセンス生産により422門のFH70を導入し、FH70の最大のカスタマーとなった。
しかし、FH70のような牽引式の火砲では射撃・陣地変換の迅速化、戦略機動性の向上に限界があり、また当時開発が進められていた野戦特科部隊用のC4Iシステムである火力戦闘指揮統制システム(FCCS)や、観測ヘリコプター等とネットワーク化を図る必要性から、防衛省は「火力戦闘車」の呼称で8×8型の装輪式自走榴弾砲を新規開発する計画を、2012年度予算の概算要求で財務省に提出した。
しかし、2012年度予算での火力戦闘車の開発開始は見送られることになり、翌13年度予算で呼称を「装輪155mmりゅう弾砲」に変更してようやく開発が認められ、2018年度まで開発が続けられた。
装輪155mm榴弾砲は開発に掛かるコストを抑えるため、主砲・車体に極力既存の技術を活用することを念頭に置いて開発が計画され、当初は重装輪回収車の車体に99式自走155mm榴弾砲の主砲を限定旋回式に搭載するものとして構想されていた。
しかし開発中に、重装輪回収車は自走榴弾砲のベース車体として使用するには問題があることが判明した。
だが陸上自衛隊には他に自走榴弾砲のベースとして適している装輪式車両が存在せず、これから新規開発するのも予算的に不可能であったため、やむを得ず海外から既存の8×8型装輪式トラックを導入することになった。
そして最終的に、ドイツのRMMV社(Rheinmetall MAN Military Vehicles:ラインメタルMAN軍用車両)製のHX44M重トラックが装輪155mm榴弾砲のベース車体として選定された。
装輪155mm榴弾砲の主契約者は99式自走榴弾砲と同じく日本製鋼所が指名されており、2018年5月31日までに試作車5両が同社から防衛装備庁へ納入されて評価試験が開始された。
そして、早くも2019年度予算で7両を調達することが決定され、「19式装輪自走155mmりゅう弾砲」として制式化された。
本車の開発に掛かった総経費は約99億円とされており、比較的低予算で実用化することに成功している。
2019年8月25日に静岡県御殿場市の東富士演習場で開催された富士総合火力演習(総火演)2019において、19式自走榴弾砲の試作車が初めて一般公開され、翌20年5月24日に開催された総火演2020では特科教導隊第4中隊所属の生産型が公開された。
19式自走榴弾砲は2020年度と2021年度にも7両ずつ調達されており、現存する牽引式155mm榴弾砲FH70を置き換える形で配備が進められていく模様である。
19式装輪自走155mm榴弾砲の調達数 |
予算計上年度 |
調達数 |
2019年度 |
7 |
2020年度 |
7 |
2021年度 |
7 |
2022年度 |
7 |
合 計 |
28 |
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+構造
前述のように19式自走榴弾砲のベース車体には、ドイツのRMMV社製のHX44M 8×8型重トラックが用いられている。
HXシリーズはRMMV社が2000年代半ばに軍用に開発した全輪駆動トラックのファミリーで、用途に応じて4×4、6×6、8×8、10×10のラインナップが用意されている。
2012年には改良型のHX2シリーズが発表されており、HX44MはHX2シリーズの8×8型である。
19式自走榴弾砲の基本構造は、8×8型トラックの車体前部にエアコンを備えた密閉式の乗員室(3名収容)を設け、車体後部に剥き出しの状態で155mm榴弾砲を限定旋回式に搭載したものである。
5名の乗員のうち残る2名は、車体中央の左右に設けられた開放式の1名用座席に分かれて乗る必要がある。
他国の装輪式自走砲と比較すると、車輪の数こそ異なるものの、フランスのカエサル155mm自走榴弾砲と構造がよく似ている。
本車の主砲に採用された日本製鋼所製の52口径155mm榴弾砲は、同社が99式自走榴弾砲の主砲として開発した52口径155mm榴弾砲と基本的に同様のものが用いられており、開発コストの低減が図られている。
ただし、19式自走榴弾砲は主砲を外装式に搭載しているため、射撃時に発射ガスが車内に逆流する対策をする必要が無くなったことから、99式自走榴弾砲の主砲に装着されていた排煙機が取り外されている。
なお一般的に、装輪式の自走榴弾砲は装軌式の自走榴弾砲と異なり、主砲の旋回角に制限を設けている車両が多い。
これは、装輪式自走榴弾砲の多くが装軌式に比べて軽量で車体が細長いため、装軌式自走榴弾砲に比べて射撃プラットフォームとしての安定性に劣っているためで、装輪式自走榴弾砲が横方向に主砲を射撃した場合、反動で車体が転倒してしまう危険が大きいのである。
このため19式自走榴弾砲の主砲の旋回角は、おそらく左右各45度程度(左右合計で90度程度)の範囲に制限されていると以前は推測されていた。
しかし2023年秋になって、本車がほぼ真横に主砲を旋回させて水平射撃を行っている写真が公表されたため、主砲の旋回範囲が予想よりかなり大きいことが判明している。
軽量な装輪式の19式自走榴弾砲が横方向への水平射撃を行えるのは、後述する駐鋤のアシスト効果が大きいためと考えられる。
99式自走榴弾砲の場合、40tという大きな車体重量で主砲射撃時の反動を受け止めることができるため、他国の多くの自走榴弾砲が車体後部に装備している駐鋤が廃止されているが、軽量な19式自走榴弾砲は車重だけで主砲射撃時の反動を受け止めきれないため、車体後部に駐鋤を装備している。
203mm自走榴弾砲などが装備している一般的なドーザー型の駐鋤の場合、舗装された路面上では駐鋤を使用できないという欠点があったが、19式自走榴弾砲の駐鋤は、接地面積の広いゴムパッド付きの台形タイプが用いられているため、舗装路面上でも射撃を行うことが可能になっている。
なお、19式自走榴弾砲の駐鋤はアシスト効果を高めるために、舗装路面上で射撃を行う時以外は、多数のスパイクを装着したアタッチメントを取り付けるようになっている。
総火演2019で公開された19式自走榴弾砲の試作車は、スパイク付きのアタッチメントを駐鋤に取り付けており、土のグラウンド上で射撃体勢に入る際、駐鋤のスパイクを深く地面に突き刺していたのが映像で確認できる。
前述のように、舗装路面上で射撃を行う場合はスパイクを取り外さなければならないが、駐鋤の接地面積が大きいためアシスト能力に問題は無いようである。
99式自走榴弾砲は現用の自走榴弾砲で唯一、砲弾と装薬の両方を自動で装填できる高度な自動装填装置を採用しているが、19式自走榴弾砲も主砲の発射速度を向上させるために自動装填装置を導入している。
ただし製造コストを抑えるため、19式自走榴弾砲は砲弾のみが自動装填で、装薬は手動で装填する方式を採用している。
このため、99式自走榴弾砲が装填手を1名しか必要としないため乗員が4名となっているのに対し、19式自走榴弾砲は装填手を2名必要とするため、乗員が5名(車長、砲手、操縦手、装填手2名)に増えている。
また実際の運用においては、19式自走榴弾砲の射撃時には4名の装填手が配置されるようで、残りの2名の装填手は移動時には他の車両に分乗するようである。
19式自走榴弾砲の主砲は砲弾も装薬も99式自走榴弾砲と同じものを使用し、最大射程もほぼ同程度といわれている。
99式自走榴弾砲は通常弾を使用した場合の最大射程が30km、ベースブリード弾を使用した場合は最大射程40kmに達するとされている。
牽引式155mm榴弾砲FH70は通常弾の最大射程24km、ベースブリード弾で30kmとされているので、99式自走榴弾砲と同等の性能を持つ19式自走榴弾砲は大幅に射程が向上していることが分かる。
また、19式自走榴弾砲は路上最大速度90km/hという高い機動力を発揮できるため、火砲としての総合的な性能はFH70を格段に上回っているのはいうまでもない。
19式自走榴弾砲は、射撃統制システム(FCS)についても高度に自動化されたものが搭載されており、火力戦闘指揮統制システム(FCCS)等から得た目標の位置情報や座標などを、タブレット端末からタッチパネル入力するだけで照準を行うことが可能である。
またシステムの故障や情報伝達が困難な状況に備えて、コリメーター等の予備の照準装置も備えている。
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<19式装輪自走155mm榴弾砲>
全長: 11.21m
全幅: 2.50m
全高: 3.40m
全備重量: 25.0t
乗員: 5名
エンジン: MAN D2066 4ストローク直列6気筒液冷ディーゼル
最大出力: 440hp/1,900rpm
最大速度: 90km/h
航続距離:
武装: 52口径155mm榴弾砲×1
装甲厚:
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<参考文献>
・「パンツァー2019年11月号 初披露!19式装輪自走155mm榴弾砲のディテール」 アルゴノート社
・「パンツァー2022年3月号 特集 装輪自走砲の今」 荒木雅也/毒島刀也 共著 アルゴノート社
・「パンツァー2012年10月号 現在計画中の陸自装輪戦闘車輌」 荒木雅也 著 アルゴノート社
・「パンツァー2022年6月号 初公開 装輪15榴実弾射撃」 武若雅哉 著 アルゴノート社
・「パンツァー2012年1月号 陸上自衛隊 21世紀の新装備」 三鷹聡 著 アルゴノート社
・「パンツァー2018年9月号 岐路に立つ日の丸防衛産業」 竹内修 著 アルゴノート社
・「パンツァー2018年8月号 ヴェールを脱いだ装輪155mmりゅう弾砲」 アルゴノート社
・「パンツァー2016年1月号 陸自新型装備 2020」 柘植優介 著 アルゴノート社
・「パンツァー2011年11月号 今月のトピックス」 アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社
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