15式軽戦車
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+開発
中国軍の戦車開発は、1990年代末期に開発した戦後第2世代MBTの96式戦車を経て、戦後第3世代MBTである99式戦車に到達し、現在でもその性能強化に邁進している。
しかし99式戦車やその発展型である99A式戦車は戦闘重量が50tを超えており、これらの戦後第3世代MBTを運用できる環境は中国国内では限られている。
特に水郷地帯が広がる亜熱帯の南部や、チベット、ヒマラヤなどの高山帯を控える南西部では運用はできない戦車である。
こうした地域では長らく62式軽戦車が運用されていたが、旧ソ連製の戦後第1世代MBTの技術をベースに開発された59式戦車を原型とし、そのスケールダウン型として開発された62式軽戦車の性能的限界は早くから指摘されていた。
しかし62式軽戦車の後継となるべき新型軽戦車の開発は難航し、2010年代に入ってようやく実用化された。
この新型軽戦車の写真は2011年に初めてリークされ、「高原猛虎」という呼称で知られるようになった。
2016年には中国国際航空宇宙博覧会において「VT-5」という輸出用の新型軽戦車が初めて公開されたが、このVT-5軽戦車は高原猛虎と外観がそっくりであったため、同車の海外輸出バージョンであると推測されている。
その後2018年12月末に、中国政府は高原猛虎の制式呼称が「15式軽戦車」(ZTQ-15)であることを公表し、2019年10月1日に開催された建国70周年記念軍事パレードにおいて、15式軽戦車が初めて一般公開された。
15式軽戦車の量産がいつ頃開始されたのかは不明であるが、耐用年数の限界に達した62式軽戦車は2011年に全て退役していることから、本来はそれに間に合うように量産を開始する予定だったと思われる。
しかし、15式軽戦車は開発過程において冷却水管の破裂、エンジン火災、油気圧パワーアシスト破損、射撃不良などあらゆる面でトラブルが発生し、完成までに8年の歳月を費やしたといわれている。
このため62式軽戦車の退役から15式軽戦車の就役までには数年間のブランクがあり、その間は後継車両が存在しない期間が続いたようである。
15式軽戦車の現在の生産数は不明であるが、計画では300両の調達が予定されているという。
現在、15式軽戦車は中国陸軍および海軍陸戦隊で運用されている他、輸出バージョンのVT-5軽戦車が44両バングラデシュ陸軍に採用されている。
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+攻撃力
15式軽戦車の主砲には、イギリスの王立造兵廠製の105mmライフル砲L7をベースに国内開発された51口径105mmライフル砲が採用されている。
105mm砲を装備する従来の中国製MBTでは砲弾を人力で装填していたが、15式軽戦車の場合は自動装填装置を採用しているため装填手が不要となり、乗員が3名に減っている。
砲塔後部のバスル内にはベルト式マガジンを備えた自動装填装置が搭載されており、砲手の指示でベルトが廻り、指示された砲弾を装填ラックに供給し機械式ラマーで装填するようになっている。
砲弾の再装填は砲塔後面に設けられた装填ハッチに加え、車内から装填することも可能である。
主砲弾薬にはAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)、HEAT(対戦車榴弾)、HE(榴弾)が用意されており、砲腔内発射式のGP-2対戦車ミサイルを運用する能力も備えている。
車内には各種弾薬合わせて38発の105mm砲弾を収容することが可能で、NORINCO(中国北方工業公司)が開発した新型のBTA-2 APFSDSを使用した場合、射距離2,000mで550mm厚のRHA(均質圧延装甲板)を貫徹することができる。
またGP-2対戦車ミサイルを使用した場合、最大射程は5,000mに達し射距離に関わらず600mm厚のRHAを穿孔することが可能である。
15式軽戦車の副武装は、主砲と同軸に86式7.62mm機関銃(旧ソ連製のPKTのライセンス生産型)を1挺、砲塔上面に88式12.7mm重機関銃(旧ソ連製のNSVTのライセンス生産型)を1挺装備しているが、従来の中国製MBTと異なり、12.7mm重機関銃は車内から遠隔操作できるRWS(遠隔操作式武装ステイション)に搭載されており、乗員が身を乗り出すこと無く車内から安全に射撃を行うことが可能である。
これは、ゲリラとの不正規戦の戦訓を反映しているようである。
なお、RWSには12.7mm重機関銃に代えて40mm自動擲弾発射機を装備することも可能であるという。
15式戦車のFCS(射撃統制システム)は、ディジタル弾道コンピューターとレーザー測遠機や各種センサー類を統合した進歩したものを備えており、99A式戦車と同様に前線司令部や他の車両とのデータリンクを確立するC4Iシステムも搭載している。
また中国軍は行動が制限される山岳地帯での戦闘において以前から、戦車の主砲に大仰角をかけた状態で遠距離の射撃を行う戦法を重視しており、15式軽戦車のFCSは遠距離の間接射撃を正確に行う能力を重視して設計されている。
つまり戦車に自走榴弾砲としての役目も担わせようというもので、山岳地帯での運用を前提に開発された15式軽戦車ならではの特性といえよう。
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+防御力
15式軽戦車の車内レイアウトは車体前部が操縦室、車体中央部が全周旋回式砲塔を搭載した戦闘室、車体後部が機関室というオーソドックスな配置になっている。
車体・砲塔共に圧延防弾鋼板の全溶接構造となっているが、15式軽戦車は山岳地帯や水田地帯での機動力を重視して大幅な軽量化が図られているため、99式戦車等に比べるとかなり装甲防御力は低く抑えられている。
ただし砲塔前面部分のみはセラミックを封入した複合装甲が導入されており、この部分のみは戦後第3世代MBTに準ずる装甲防御力を備えている。
また本車は、想定される脅威の度合いに応じて車体の各部に複合装甲、ERA(爆発反応装甲)、格子装甲などを合計3tまで追加で装着することが可能になっている。
また15式軽戦車は、装甲防御力の弱さを補うためアクティブ防御システムを装備している。
砲塔の周囲にはレーザー検知機が備えられており、敵から照射された対戦車ミサイル誘導用のレーザーを感知した際には警報を発すると共に、砲塔の左右側面に装備されている発煙弾発射機から自動的に煙幕を展開して車体を隠蔽するようになっている。
15式軽戦車は他の中国軍の戦後第3世代MBTと同様にNBC防護システムを完備しており、加えて寒冷な高地や亜熱帯の地域での乗員の居住性を考慮して、99A式戦車と同様にエアコンを標準装備している。
また高地での行動に対応するために、酸素ボンベの追加分や紫外線防止装置も搭載されている。
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+機動力
15式軽戦車のエンジンは、本車用に新たに開発された出力1,000hpのV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジンが採用されている。
このエンジンは高地の空気の薄い環境に対応するために2基のターボチャージャーを搭載しており、長年対立しているインド軍が装備するT-72戦車やT-90戦車が浸入することが難しい高地でも、15式軽戦車は活動することが可能である。
なお15式軽戦車のエンジンは、ターボチャージャーを作動させている状態では1,200hpの出力を発揮することができるが、低地でこれを使うとエンジンの寿命を縮めてしまうため、高地での活動時にのみターボチャージャーを作動させるという特殊な運用がなされるという。
一方、15式軽戦車の変速・操向機は無段階の油圧機械式自動変速・操向機が採用されているという。
無段階変速・操向機は陸上自衛隊の10式戦車にも採用されている先進的なもので、エンジンの出力を高い伝達効率で起動輪に伝えることができる。
また15式軽戦車は従来の中国製MBTに採用されてきたトーションバー(捩り棒)式サスペンションに代えて、10式戦車と同様に先進的なセミアクティブ式サスペンションを採用しているといわれる。
走行装置に関しては99式戦車と同様のレイアウトを採用しており、前方の誘導輪、後方の起動輪、片側6個の複列式転輪、片側3個の上部支持輪を、取り外しが可能なゴムパッド付きのダブルピン/ダブルブロック型履帯と組み合わせている。
この足周りによって15式軽戦車は路上最大速度70km/h、路上航続距離450kmの機動力を発揮する。
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<15式軽戦車>
全長: 9.20m
車体長: 7.50m
全幅: 3.30m
全高: 2.50m
全備重量: 33.0〜36.0t
乗員: 3名
エンジン: 4ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 1,000hp
最大速度: 70km/h
航続距離: 450km
武装: 51口径105mmライフル砲×1 (38発)
88式12.7mm重機関銃または40mm自動擲弾発射機×1
86式7.62mm機関銃×1
装甲: 複合装甲
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<参考文献>
・「パンツァー2018年1月号 特集 知られざる中国戦車」 宮永忠将/三鷹聡 共著 アルゴノート社
・「パンツァー2019年12月号 能勢伸之のツキイチ安全保障(10)」 能勢伸之 著 アルゴノート社
・「パンツァー2017年3月号 珠海航空展2016 出品された中国製AFVを見る」 アルゴノート社
・「パンツァー2021年2月号 特集 中国最新鋭 15式軽戦車」 毒島刀也 著 アルゴノート社
・「パンツァー2019年2月号 中国国際航空航天博覧會(1)」 布留川司 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2024年1月号 復活!ダメコンセプト戦車」 宮永忠将 著 アルゴノート社
・「パンツァー2020年1月号 15式軽戦車を観察する」 宮永忠将 著 アルゴノート社
・「パンツァー2020年12月号 高原猛虎 15式軽戦車」 アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社
・「戦闘車輌大百科」 アルゴノート社
・「世界の戦車パーフェクトBOOK 最新版」 コスミック出版
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