フランス陸軍は第2次世界大戦後、戦争中の遅れを取り戻すべく積極的に自走砲の開発に取り組んだ。 そして1950年代末から1960年代初めにかけて、Mle.61 105mm自走榴弾砲およびMle.F3 155mm自走榴弾砲を実用化したが、これらは小柄なAMX-13軽戦車の車体を流用した能力的に不充分なものであった。 そのため1960年代末になって、この2車種を同時に代替する新型自走砲の開発が始められた。 これが、「GCT」(Grande Cadence de Tir:大発射速度)155mm自走榴弾砲である。 GCT自走榴弾砲の開発は1969年に開始され試作第1号車は1972年に完成して、翌73年に開催されたサトリ兵器展示会において初めて一般公開された。 次いで1974〜75年にかけて6両の増加試作車が完成して運用試験を行った後、1977年からGIAT社(Groupement Industriel des Armements Terrestres:陸上兵器企業連合、2006年にネクスター社に改組)で本格的な生産が開始された。 最初にGCT自走榴弾砲を導入したのはサウジアラビア陸軍で1978年から引き渡しが始められ、翌79年6月からはフランス陸軍への引き渡しも行われている。 GCTは1998年までにフランス陸軍向け253両、サウジアラビア陸軍向け51両、イラク陸軍向け85両、クウェート陸軍向け18両の合計407両が完成している。 フランス陸軍では本車に「AU-F1」の呼称を与えて179両を生産し、1988年からはより強力なAPU(補助動力装置)と、信頼性を向上させた自動装填装置に換装された発展型の「AU-F1T」の生産に切り替えられ、74両が部隊に配備された。 GCT自走榴弾砲は通常の自走砲のように車体と砲塔が一体となったシステムではなく、155mm榴弾砲と弾薬庫、自動装填装置、FCS(射撃統制システム)、APU等を搭載した砲塔部のみで完結したシステムとなっている。 このため車体はAMX-30、T-72、アージュン、レオパルト等、様々なMBTの車体を流用することができるようになっており、専用車体を用いるシステムに比べて柔軟な運用が可能となっている。 これは最初の生産型がサウジアラビア陸軍向けであったように、GCTが輸出を意識して開発されたからである。 砲塔内にシステムを全て詰め込まなければならなかったため、GCTの砲塔は車体に比べてかなり巨大な箱型をしている。 ちなみにフランス陸軍が採用したAU-F1は、当時の主力MBTであったAMX-30戦車の車体を使用している。 AU-F1の車体は機関配置も含めてAMX-30戦車からほとんど変更されていないが、車体前部右側に設けられていた主砲弾薬庫は廃止され、代わりに28Vの発電機と砲塔内の空調装置を新設しており、車体重量は戦車型よりも2tほど軽くなっているという。 戦車型と同じく、操縦手は車体前部左側に位置する。 操縦手には外部視察用に3基のペリスコープが用意されているが、夜間操縦のために中央のペリスコープは映像強化型に換装することが可能となっている。 AU-F1の砲塔は圧延防弾鋼板の全溶接構造で、NBC防護システムを備えており全周旋回が可能である。 主砲の155mm榴弾砲を挟んで右側に砲手と車長、左側に装填手が位置しており、砲塔の上面には左側に装填手用ハッチ、右側に周囲にペリスコープを装備する車長用キューポラが設けられ、砲塔の左右側面には乗員の乗降に用いる後ろ開き式の縦長のドアが装備されている。 主砲はGIAT社製の39口径155mm榴弾砲が採用されており、俯仰角は−5〜+66度となっている。 砲身の俯仰と砲塔の旋回は油圧で行われるが、非常時には手動での操作も可能である。 砲塔後部には左右に2分割された弾薬庫と一体化された自動装填装置が備えられており、この関係から砲塔後面には弾薬補給用の下開き式の大型ハッチが左右に1枚ずつ設けられている。 この弾薬庫は右側が砲弾収納部、左側が装薬収納部となっており、それぞれ7列の垂直式収納ラックに6個ずつ計42発分の砲弾および装薬が収納されている。 なお装薬は、40発分が砲塔バスケット内のコンテナにも収納されている。 自動装填装置の使用時における発射速度は8発/分、バースト射撃では45秒間に6発の射撃が可能である。 フランス陸軍の試験では、1時間に108発の射撃が可能だったという。 自動装填装置が故障した場合は、人力により2発/分の速度で発射することができる。 AU-F1の主砲はNATO標準の全ての155mm砲弾を使用することができ、通常榴弾を用いた場合の最大射程は21,200mで、ロケット補助榴弾を用いると32,000mまでの射程延長が可能である。 副武装としては砲塔上面の装填手用ハッチに、対空用の7.62mm機関銃または12.7mm重機関銃を装備することができる。 副武装の携行弾数は7.62mm弾では2,050発、12.7mm弾では800発となっている。 1992年にはインド陸軍の次期自走砲選定試験に参加するために、GCT自走榴弾砲の砲塔システムをインドがライセンス生産を行っていた旧ソ連製のT-72M1戦車の車体に搭載したタイプが試作された。 フランス陸軍は2004〜07年にかけて94両のAU-F1のFCSをタレス社製のアトラスC4Iシステムに換装し、パワーパックも換装した改良型「AU-F1TA」に改修しており、さらに主砲を新型の52口径155mm榴弾砲に換装して最大射程を40kmに延長した改良型「AU-F2」も試作している。 |
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<AU-F1 155mm自走榴弾砲> 全長: 10.25m 車体長: 6.70m 全幅: 3.15m 全高: 3.25m 全備重量: 42.0t 乗員: 4名 エンジン: イスパノ・スイザHS-110 4ストローク水平対向12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル 最大出力: 720hp/2,000rpm 最大速度: 60km/h 航続距離: 450km 武装: 39口径155mm榴弾砲×1 (42発) 7.62mm機関銃F1×1 (2,050発)、または12.7mm重機関銃M2×1 (800発) 装甲厚: 15〜20mm |
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<参考文献> ・「パンツァー2015年11月号 AMX-30ベースのSPG GCT 155mm自走砲」 前河原雄太 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2014年4月号 1960〜80年代に活躍したフランス製自走砲」 鈴木多郎 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2013年5月号 フランス陸軍の現用戦闘車輌」 アルゴノート社 ・「パンツァー2003年2月号 海外ニュース」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2019年11月号 フランス戦車発達史(戦後編)」 齋木伸生 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2016年3月号 AMX-30の開発と構造」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946〜2000」 デルタ出版 ・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 齋木伸生 著 光人社 ・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著 三修社 ・「世界の装軌装甲車カタログ」 三修社 ・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「戦車パーフェクトBOOK」 コスミック出版 |
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