HOME研究室(第2次世界大戦後〜現代編)装輪式装甲車装輪式装甲車(フィンランド)>XA-180装甲車

XA-180装甲車





XA-180装甲車は、フィンランド陸軍の旧式化したソ連製のBTR-60PB装甲兵員輸送車の後継として、パトリア社(旧SISU社)が同社製のSA-105VK(4×4)重トラックのコンポーネントを利用して1980年代に開発した6×6型の装輪式APC(装甲兵員輸送車)である。
1982年に最初の試作車が完成しており、翌83年にフィンランド陸軍への採用が決定し生産が開始された。

この内の9両はフィンランド国連大隊に配備され、国連PKO(平和維持活動)を通じてその活躍が世界的に知られるようになった。
XA-180装甲車の車体は圧延防弾鋼板の全溶接構造で、7.62mm徹甲弾を30mの距離から射撃されても跳ね返す防弾能力が与えられている。

車内レイアウトは車体最前部が操縦室、その後方が機関室、車体後部が兵員室となっている。
操縦室内には左側に操縦手、右側に車長が位置する。
操縦室の前面と左右側面には視界の広い大型の防弾ウィンドウが備えられており、良好な視界を得ている。
それぞれのウィンドウには装甲シャッターが取り付けられており、戦闘時にはシャッターを閉じて乗員を保護するようになっている。

乗員の乗降は操縦室の左右側面に設けられたドアまたは、操縦室上面に設けられた2枚のハッチから行う。
機関室は操縦手席の背後、車体左側にあり、車体後部の兵員室とはその右側にある通路で結ばれている。
兵員室内には左右の壁側にそれぞれ5名用のベンチシートが設置されており、10名の完全武装歩兵を収容することができる。
兵員の乗降は、車体後面の観音開き式のドアから行う。

兵員室の左右側面には各3カ所ずつ、視察用ブロック付きのガンポートが設けられており、一応の乗車戦闘が可能になっている。
兵員室の上面後部には2個のハッチが設けられており、開いて立てたままロックすると防弾板として使える。
XA-180装甲車には固有の武装は無いが、フィンランド陸軍の多くの車両は車体上面中央のキューポラにロシア製の12.7mm重機関銃NSVTを装備している。

車体のサイズは戦闘重量15.5t、全長7.35mで、装輪式装甲車としては最も大きな部類に属する。
ペイロードは6,500kgあり、大型の砲塔や各種のミサイル発射機を搭載することが可能である。
足周りはヴァルメット社製のモデル611 直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力236hp)と、アメリカのアリソン社製のMT-643自動変速機(前進4段/後進1段)の組み合わせとなっている。

タイアは14.00×20のランフラット・タイアで、リーフ・スプリングと油圧ショック・アブソーバーが懸架している。
路上最大速度は95km/h、路上航続距離は800kmである。
本車は水上浮航能力があり、車体後部左右に備えられた推進用のプロペラによって水上を10km/hのスピードで航行できる。


●派生型

XA-180装甲車はこれだけの大きさの自走車体であるから、強力な武装の搭載や派生型の開発が自由に実施できる。
派生型としてはXA-181クロタルNG対空ミサイル・システム、エリクソン・ジラフ捜索レーダー車、2名用砲塔に90mm低圧砲を搭載した火力支援型、HOT対戦車ミサイル連装発射機搭載型、対空機関砲搭載型、装甲救急車などがある。

XA-181クロタルNG対空ミサイル・システムは、フランスのトムソンCSF社製のクロタルNG対空ミサイルの発射筒8発、捜索レーダー、追跡レーダー、火器管制システムなどを自走車体に完備した自己完結型防空兵器である。
エリクソン・ジラフ捜索レーダー車はXA-180装甲車の車体上部にクレーンを取り付け、レーダー・アンテナを上空高く持ち上げる広域・低空捜索用の野戦警戒システムで、XA-181クロタルNG対空ミサイル・システムに敵航空機のデータを伝える役目を持っている。

1990年代になると、XA-180装甲車の発展型であるXA-185装甲車が登場した。
改良されたのは機関部で、エンジン出力が246hpに10hpアップされている。
車体もさらに容積を増やすために天井を高くしており、戦闘重量は16tに達している。
また燃料タンクの容量が増やされたため、路上航続距離が900kmに延びている。

XA-186装甲車はXA-185装甲車の改良型であり、車体各部の装甲が強化され、車体上面中央に1名用のヘリオ重機関銃砲塔が搭載されている他、車体前面にはワイアー・カッターも装備されている。
ただし、同車では水上浮航能力が無くなっている。
これまでにフィンランドを始めとする北欧諸国やオーストリア、アイルランド、オランダの各国軍向けに、XA-180/185装甲車シリーズはおよそ600両余りが生産されている。


<XA-180装甲車>

全長:    7.35m
全幅:    2.90m
全高:    2.47m
全備重量: 15.5t
乗員:    2名
兵員:    10名
エンジン:  ヴァルメット611 直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 236hp/2,500rpm
最大速度: 95km/h(浮航 10km/h)
航続距離: 800km
武装:    12.7mm重機関銃NSVT×1 (1,000発)
装甲厚:   最大10mm


<XA-185装甲車>

全長:    7.35m
全幅:    2.90m
全高:    2.60m
全備重量: 16.0t
乗員:    2名
兵員:    10名
エンジン:  ヴァルメット612 直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 246hp/2,500rpm
最大速度: 95km/h(浮航 10km/h)
航続距離: 900km
武装:    12.7mm重機関銃NSVT×1 (1,000発)
装甲厚:   最大10mm


<参考文献>

・「パンツァー2008年11月号 フィンランドが生み出したベストセラーAPC XAシリーズ」 柘植優介 著  アルゴ
 ノート社
・「パンツァー2003年3月号 バラエティーを増す最近の兵員輸送車(2)」 小野山康弘 著  アルゴノート社
・「パンツァー1999年10月号 フィンランドのSISU XA-180装甲兵車」  アルゴノート社
・「パンツァー2004年5月号 パトリアAMV 8×8」 林磐男 著  アルゴノート社
・「パンツァー2014年2月号 フィンランド陸軍AFVの30年」  アルゴノート社
・「パンツァー2011年8月号 最近のSISU XAシリーズ」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「グランドパワー2020年10月号 フィンランド軍の戦闘車輌(1)」 齋木伸生 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2021年1月号 フィンランド軍の戦闘車輌(4)」 齋木伸生 著  ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(4) 装輪式装甲車輌:1904〜2000」  デルタ出版
・「世界の最新兵器カタログ 陸軍編」  三修社
・「世界の装輪装甲車カタログ」  三修社
・「世界の最新陸上兵器 300」  成美堂出版


HOME研究室(第2次世界大戦後〜現代編)装輪式装甲車装輪式装甲車(フィンランド)>XA-180装甲車