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VFWL対空自走砲


VFWL対空自走砲 クルップ社製試作車3.7cm対空機関砲搭載型の推定図



VFWL対空自走砲 クルップ社製試作車5cm対空機関砲搭載型の推定図



VFWL対空自走砲 ラインメタル・ボルジヒ社製試作車3.7cm対空機関砲搭載型の木製模型



●開発

1942年9月2日、ドイツ空軍軽高射砲部門第4課のクレイン工学博士はエッセンのクルップ社に対して、当時同社が開発を進めていた57口径3.7cm対空機関砲ゲレート339、またはデュッセルドルフのラインメタル・ボルジヒ社製の57口径3.7cm対空機関砲FlaK36、もしくはオベルンドルフ・アム・ネッカーのマウザー製作所製の65口径2cm4連装対空機関砲Flakvierling38を搭載することが可能な新型の装甲対空自走砲の開発を求めた。

クレイン博士がクルップ社に提示した装甲対空自走砲の要求仕様書によれば、対空機関砲とその弾薬、7名の乗員を合わせて戦闘重量は約4.5tとされ、サスペンションと変速・操向機、その他のコンポーネントは当時ニュルンベルクのMAN社と、ベルリン・マリーエンフェルデのダイムラー・ベンツ社の手で開発が進められていたVK.13.03軽戦車(後のII号戦車L型ルクス)から流用することとされていた。

クレイン博士は1942年10月1日付で、「VFWL」(Versuchsflakwagen-Leichte:軽試作対空車両)の呼称でVK.13.03軽戦車の車体を流用した装甲対空自走砲の図面をまとめたが、このVFWL対空自走砲の図面は3.7cm対空機関砲搭載型と、2cm4連装対空機関砲搭載型の2種が用意されていた。
しかしVK.13.03軽戦車の生産開始は計画よりも大きく遅延していたため、1942年10月13日にクルップ社は当時開発が進められていた新型軽戦車レオパルト(VK.16.02)のコンポーネントの流用を具申した。

そして11月4日にクルップ社はクレイン博士に対して、図面番号SKA637-40として3.7cm対空機関砲FlaK36、2cm4連装対空機関砲Flakvierling38、当時ラインメタル社が開発を進めていた57口径3.7cm対空機関砲ゲレート338V4(後にFlaK43として制式化される)をそれぞれ搭載したVFWL対空自走砲の概念図を提出した。
この際に、レオパルト軽戦車のコンポーネントを流用した場合の戦闘重量は約25tとの回答も出している。

しかしその後まもなくしてレオパルト軽戦車の開発が中止されることになったため、1943年1月20日にクレイン博士はクルップ社に対してVFWL対空自走砲の設計変更を指示し、コンポーネントにはIV号戦車のものを流用する新たな基本仕様を出した。

その内容は、エンジンにフリードリヒスハーフェンのマイバッハ発動機製作所が開発中のHL100 V型12気筒液冷ガソリン・エンジン(出力400hp)を使用し(ただし試作車は、出力360hpのHL90 V型12気筒液冷ガソリン・エンジンで可とされていた)、これをZF社(フリードリヒスハーフェン歯車製作所)製のAK7-80変速機(前進7段/後進1段)(同じく試作車はZF社製のSSG76変速機(前進6段/後進1段)で可)と組み合わせ、サスペンションはIV号戦車のものを用い戦闘重量は25tが限度で、路上最大速度45~50km/hというものであった。

また対空に加えて地上目標への攻撃も求められており、車内に台座を設けて砲を搭載することでより大口径、大重量の5cm対空機関砲を搭載することも視野に収めていた。
この要求を受けたクルップ社では新たな計画として開発に着手したが、3.7cm対空機関砲までは全周旋回が可能な砲塔形式を採れるものの、さすがに5cm対空機関砲は砲塔への搭載は無理で、3.7cm砲搭載型、5cm砲搭載型のいずれも左右開閉式の固定戦闘室形式として開発作業が進められた。

また1943年2月1日付でドイツ陸軍兵器局第6課は、VFWL対空自走砲の試作車に搭載するHL90ガソリン・エンジン2基の発注を確約している。
このような紆余曲折を経ながらも1943年2月22日にクルップ社はクレイン博士に、3.7cm対空機関砲FlaK43を搭載するVFWL対空自走砲の概念図SKA732と、当時同社が開発を進めていた新型5cm対空機関砲ゲレート48(Kp)を搭載した概念図SKA744を提出した。

いずれの概念図も同じ固定戦闘室を備えていたが、3.7cm砲搭載型は牽引用三脚架台ごと車体上面に載せられ、5cm砲搭載型は車内に円形の旋回式台座を設けて砲架を載せるという方式が採られていた。
また、3.7cm対空機関砲の脚架台には2cm4連装対空機関砲を搭載することも可能であった。
この概念図に従いVFWL対空自走砲の木製モックアップが製作されたが、残念ながらその写真は残されていない。

車体は既存の車両からの流用ではなくクルップ社の手で新規に設計され、前面には50mm厚の傾斜装甲板が用いられ、側/後面30mm、上/下面16mmとなっていた。
戦闘室側面の装甲板はメーベルヴァーゲン対空自走砲と同様に起倒式となっており、重量の増加を抑えるために10mm厚の装甲板を二重構造としていた点も同様だったが、装甲板の開度は8度と30度となっており、メーベルヴァーゲンのように装甲板を水平に展開して射撃プラットフォームとして利用することはできなかった。

その後VFWL対空自走砲の1/10サイズの木製模型が製作されたが、この模型には5cm対空機関砲ゲレート48(Kp)が載せられていた。
1943年4月12日、クルップ社は図面番号SKA744のVFWL対空自走砲(5cm対空機関砲搭載型)について試作車1両の製作を受注した。

そして同社は10月末までに、試作第1号車を製作するためにHL90ガソリン・エンジンとSSG76変速機、左右の履帯Kgs61/500/160といったコンポーネントを必要とすると報告を出している。
これに先立つ4月21日には、ラインメタル社に対してVFWL対空自走砲の試作第2号車の製作が発注されたが、この試作第2号車はVK.13.03軽戦車の車体を流用しており、上部構造の設計もクルップ社の試作第1号車とは異なっていた。

また4月28日にクルップ社が出した報告書によると、VFWL対空自走砲の試作第1号車の完成は1944年2月の予定と述べている。
続いて1943年5月10日にクルップ社はSKA792の図面番号で、VFWL対空自走砲の寸法を含めた基本仕様書を提出した。

それによるとVFWL対空自走砲は全長5.60m、全幅3.27m、全高2.83m、履帯接地長3.53m、装甲厚は前面50mm、側面30mm、上面20mm、下面15mm、戦闘室側面20mm×2、エンジンはHL90ガソリン・エンジン、SSG76変速機とクルップ社製の操向機を組み合わせて路上最大速度は45km/h、転輪は当時開発が進められていたIII/IV号戦車と共通のゴム内蔵式鋼製転輪を片側6個使用し、リーフ・スプリングで懸架する。

砲は全周旋回が可能で-5~+90度の俯仰角を備え、5cm対空機関砲搭載型の場合弾薬132発を車内に収め、乗員8名で接地圧は0.68kg/cm2とされていた。
ドイツ空軍統制高射砲部門第4課のヴァルター大佐は、1943年5月29日に対空自走砲の車体にはIV号戦車を用いる旨通達を出したが、新設計の車体を用いたクルップ社のVFWL計画はそのまま続行することとされた。

その後も、VFWL対空自走砲は各部に改良が加えられながら計画が進行したが、1943年7月初めにクルップ社の工場が連合軍の爆撃を受けて、試作車の製作が不可能となってしまった。
このため、マクデブルクのグルゾン製作所(クルップ社の子会社)の工場において製作が行われることに変更され、以後の作業は同所で進められることになった。

1944年3月17日付でクルップ社から出された報告書によると、VFWL対空自走砲の試作第1号車は5cm対空機関砲を搭載して製作作業が行われており、同年5月には完成の予定としている。
しかしこれは希望的観測だったようで、1944年11月27日付の報告書ではHL90ガソリン・エンジンがようやく試作車に搭載されたとしている。
しかし以後の報告は一切残されておらず、試作車が実際に完成したか否かは不明のままである。


●構造

前述のように、VFWL対空自走砲の試作車は第1号車がクルップ社、第2号車がラインメタル・ボルジヒ社に発注された。
クルップ社の試作第1号車は、既存の車両の車体を流用せず新規に設計されていた。
足周りは当時同社が開発を進めていたIII/IV号戦車と同様の構造になっており、片側6個の鋼製転輪を2個ずつリーフ・スプリングで懸架していた。

これを前方の起動輪、後方の誘導輪、片側3個の上部支持輪と組み合わせて足周りを構成していた。
パワープラントはマイバッハ社製のHL90 V型12気筒液冷ガソリン・エンジン(出力360hp)と、ZF社製のSSG76変速機(前進6段/後進1段)、クルップ社製の操向機を組み合わせていた。
車体の寸法は全長5.60m、全幅3.27m、全高2.83m、装甲厚は前面50mm、側面30mm、上面20mm、下面15mmとなっていた。

車体上面中央部には円形の旋回式台座が設けられ、クルップ社が開発を進めていた5cm対空機関砲ゲレート48(Kp)が砲架ごと搭載された。
砲は全周旋回が可能で-5~+90度の俯仰角を備え、車内には132発の5cm砲弾が収納されていた。
砲の左右と後方は起倒式の20mm厚の装甲板で囲まれてオープントップの戦闘室が構成され、砲と操作員を敵の攻撃から防護するようになっていた。

射撃時には戦闘室左右と後方の装甲板は展開され、砲の射界を確保するようになっていた。
一方ラインメタル社の試作第2号車は、後に「II号戦車L型ルクス」として制式化されるVK.13.03軽戦車の車体をベースとして製作されていたが、車体はVK.13.03軽戦車よりも延長されており、それに伴って転輪数もVK.13.03軽戦車の片側5個から7個に増やされていた。

転輪はVK.13.03軽戦車の大直径のものがそのまま用いられ、同様にオーバーラップ(挟み込み)式に配置されていた。
これを前方の起動輪、後方の誘導輪と組み合わせて足周りを構成しており、上部支持輪は省かれていた。
ベースとなったVK.13.03軽戦車と同様に車体上面に戦闘室が一段高く張り出していたが、戦闘室の中央部には大直径の旋回式台座が設けられ、大型の全周旋回式砲塔が搭載されていた。

車体に比べて砲塔のサイズが大きいため、旋回式台座は左右が戦闘室からオーバーハングしていた。
砲塔はオストヴィント対空戦車のものを小柄にしたような構造になっており、上面はオープントップで武装はオストヴィントと同じく57口径3.7cm対空機関砲FlaK43を1門装備していた。
なおラインメタル社では、当時開発を進めていた77口径5.5cm対空機関砲ゲレート58を搭載したタイプのVFWL対空自走砲を製作することも計画していたらしいが、詳細は不明である。


<VFWL対空自走砲 クルップ社製試作車5cm対空機関砲搭載型>

全長:    5.60m
全幅:    3.27m
全高:    2.83m
全備重量: 
乗員:    8名
エンジン:  マイバッハHL90 4ストロークV型12気筒液冷ガソリン
最大出力: 360hp/3,600rpm
最大速度: 45km/h
航続距離: 
武装:    5cm対空機関砲ゲレート48(Kp)×1 (132発)
装甲厚:   15~50mm


<参考文献>

・「ドイツ陸軍兵器集 Vol.4 突撃砲/駆逐戦車/自走砲」 後藤仁/箙浩一 共著  ガリレオ出版
・「ドイツ試作/計画戦闘車輌」 箙浩一/後藤仁 共著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2010年8月号 ドイツ計画戦車」 後藤仁 著  ガリレオ出版


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