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TH-495/R-495歩兵戦闘車





●開発

1990年半ば、NATO(北大西洋条約機構)の兵器装備研究グループは各国で共通運用を行う多用途装甲戦闘車両の基本計画を、「MBAV」(多目的基本装甲車両)としてまとめ上げた。
この計画はアメリカ製のM113装甲兵員輸送車の後継として、低コストかつ最低18種類の任務に適合でき、空輸可能な30t前後の戦闘重量を上限として、2000年以降からの運用が可能というものであった。
これに続いて、NATO各国の兵器メーカーに対してMBAVの要求仕様書が送られた。

これに応じてドイツのティッセン・ヘンシェル社が自社資金で開発した車両が、TH-495シリーズである。
TH-495シリーズで最初に試作されたのはIFV(歩兵戦闘車)タイプの車両で、1992年半ばに完成している。
このIFV型は他のファミリー車両よりも車体が長く、転輪数も片側6個と1個増やされていた。
車体サイズは全長6.75m、全幅2.84m、全高2.83m、戦闘重量25.9tとなっていた。

TH-495シリーズで2番目に作られた試作車は、ファミリーの基本となる小型のAPC(装甲兵員輸送車)タイプの車両である。
このAPC型は1993年に完成し、1994年にフランスで開催された兵器展示会ユーロサトリ'94で初公開された。
全長5.97m、全幅2.84m、全高2.39m、戦闘重量21.6tで、転輪数は片側5個に減らされていた。

車体上面中央部の右寄りにはヴェクマン社製の車長用キューポラが備えられており、武装としてアメリカのブラウニング社製の12.7mm重機関銃M2が取り付けられていた。
この機関銃は車内からの遠隔操作で射撃を行うことが可能で、搭載弾薬は800発となっている。
固有の乗員は操縦手と車長兼機関銃手の2名で、後部兵員室内には完全装備の歩兵8名を収容することができる。

ティッセン・ヘンシェル社はこのAPC型をベースに、90〜120mm級火砲を備える砲塔を搭載した火力支援型や、アメリカ製のTOW対戦車ミサイルを装備する対戦車型、アメリカ製のスティンガー対空ミサイルを装備する対空型、レーダー車、野戦救急車、工兵車、補給車、指揮通信車など様々なヴァリエーションを提案している。
TH495シリーズは現時点で一応開発は終わっており、いつでも量産が可能な状態になっている。

1990年代初頭、ブライアン・マルルーニー政権時のカナダ政府が陸軍の新装備としてTH-495シリーズの採用を決定し、カナダにティッセン・ヘンシェル社の子会社ベアヘッド工業が設立されて量産の準備が行われたものの、1993年の政権交代後、ジャン・クレティエン政権は主に価格面の問題でTH-495シリーズの採用をキャンセルし、代わりに装輪式のLAV-III装甲車シリーズを導入することを決定した。

その後、1996年にティッセン・ヘンシェル社はヘンシェル・ヴェアテクニク社と名前を変えた後、2000年にラインメタル・ラントジステーム社に吸収合併された。
TH-495シリーズはR-495シリーズに名称変更されて販売が引き継がれることになったが、現在のところどこからも受注は入っていないようである。


●構造

TH-495シリーズの車体は圧延防弾鋼板の溶接構造で、車体各部には着脱可能なモジュール式の増加装甲板が本体と間隔を空けて装着されている。
この増加装甲板は、作業者が2名いれば野外でも簡単な工具を使って素早く着脱できる。
つまり空輸などの長距離輸送時には、重量の嵩む増加装甲板を本体とは別にして輸送できるというユニークな構造になっているのである。

また車体側面のスカートを取り外せば、現在世界で最もポピュラーな戦術輸送機であるC-130ハーキュリーズにぴったりと搭載できるサイズになる。
冷戦終結後の国際情勢の中で、欧州各国の陸軍部隊には高い緊急展開能力が要求されており、TH-495シリーズはその要求にマッチした車両といえるだろう。

TH-495シリーズのパワーパックはMTU社製の8V-183-TE22 V型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力600〜680hp)と、ZF社(フリードリヒスハーフェン歯車製作所)製のLSG1500自動変速機(前進4段/後進2段)の組み合わせとなっており、車体前部右側に搭載されている。
IFV型の場合、乗員の配置は車体前部左側に操縦手、砲塔内の左側に車長、右側に砲手が位置する。

車体後部は兵員室となっており、左側に4名分、右側に3名分のシートが向かい合わせに配され、計7名の完全装備の歩兵を収容することができる。
車体の側面には乗車歩兵用のガンポートやペリスコープは装備されておらず、すっきりとした垂直面になっている。

車体の後面には歩兵の乗降用に観音開き式のドアが設けられており、それぞれのドアにはガンポートと一体になった新型の視察装置が取り付けられている。
砲塔はイタリアのオート・メラーラ社製のT-25砲塔が搭載されているが、これはイタリア陸軍のVCC-80ダルド歩兵戦闘車の砲塔と同じものである。

この砲塔は全周旋回が可能で、主砲の俯仰角は−10〜+50度となっている。
砲塔の上面には安定化された車長用サイトが備えられており、360度の旋回が可能となっている。
主砲はスイスのエリコン社製の80口径25mm機関砲KBA-B02で、これもダルドの主砲と同じものである。
副武装は、主砲と同軸に7.62mm機関銃MG3が装備される。

また最近ではマウザー製作所製の82口径30mm機関砲MK30-2と同軸機関銃を装備する、KUKA社製の2名用低姿勢砲塔E-4を搭載したタイプの試作車も製作されている。
NBC防護装置や暗視装置は標準装備となっており、さらに乗車歩兵のために、車体左右側面に取り付けられたTVカメラの画像を映すモニターも標準装備となっている。


<TH-495/R-495歩兵戦闘車>

全長:    6.75m
全幅:    2.84m
全高:    2.83m
全備重量: 25.9t
乗員:    3名
兵員:    7名
エンジン:  MTU 8V-183-TE22 4ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 600hp/2,300rpm
最大速度: 75km/h
航続距離: 500km
武装:    80口径25mm機関砲KBA-B02×1 (510発)
        7.62mm機関銃MG3×1
装甲厚:


<TH-495/R-495装甲兵員輸送車>

全長:    5.97m
全幅:    2.84m
全高:    2.39m
全備重量: 21.6t
乗員:    2名
兵員:    8名
エンジン:  MTU 8V-183-TE22 4ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 600hp/2,300rpm
最大速度: 75km/h
航続距離: 500km
武装:    12.7mm重機関銃M2×1 (800発)
装甲厚:


<参考文献>

・「パンツァー2000年5月号 ドイツ企業が開発した輸出用戦闘兵車」  アルゴノート社
・「パンツァー2002年6月号 海外ニュース」  アルゴノート社
・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」  デルタ出版
・「世界の装軌装甲車カタログ」  三修社


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