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TABC-79装甲偵察車





●開発

ルーマニアは1970年代に入ってからTAB-71装甲兵員輸送車、TAB-77装甲兵員輸送車など、旧ソ連製の装輪式装甲車の改良ライセンス生産型の開発を手掛けるようになった。
そしてこれらの車両の開発で得られたノウハウを活かして、ルーマニア初の完全オリジナルの装輪式装甲車として開発されたのがTABC-79装甲偵察車である。

ちなみに名称の「TABC-79」は、「Transportor Amfibiu Blindat de Cercetare Model 1979:偵察用水陸両用装甲輸送車両1979年型」の略であり、現在は「ABC-79M」と名称が変更されている。
本車の詳細な開発経過は不明だが、名称から1979年に制式化されたことが推察でき、時間スケジュール的にはTAB-77装甲兵員輸送車とほとんど同時並行して開発されたものと思われる。

なぜルーマニアが2種類の装輪式装甲車の開発を並行して進めたのか不思議に思われるが、これはTABC-79装甲偵察車とTAB-77装甲兵員輸送車の開発目的が異なっていたことがその理由である。
TAB-77装甲兵員輸送車は旧ソ連製のBTR-70装甲兵員輸送車の独自改良型で、基本的な構造やデザインは原型車両とそっくりであり、兵員輸送を主目的に開発された車両であることが分かる。
一方、TABC-79装甲偵察車は名称からも分かるとおり偵察を主目的として開発された車両である。

TABC-79装甲偵察車の車体は圧延防弾鋼板の溶接構造で、全体的なデザインはTAB-77装甲兵員輸送車をそのまま小型化して4輪にしたような感じである。
当時のルーマニアはまだ兵器開発の技術も経験も乏しく、一から新規に新型兵器を開発することが困難だったため、既存の旧ソ連製兵器を模倣して独自の改良を加えるというやり方で新型兵器の開発を行っていた。

原型となる車両が存在したTAB-77装甲兵員輸送車の開発は比較的スムーズに進んだが、TABC-79装甲偵察車の場合は新規開発の車両であったため(当時、ルーマニア陸軍は旧ソ連製のBRDM-1/2という偵察用の装輪式装甲車を保有していたのだが、何らかの理由で模倣できなかったのか?)、開発を円滑に進めるためにTAB-77装甲兵員輸送車を小型化するという開発方法を採ったと推測される。


●構造

TABC-79装甲偵察車の車体各部の装甲厚は不明であるが、装甲防御力は小口径弾や榴弾の破片に耐えられる程度のようである。
資料によっては20mm機関砲弾の直撃に耐えられるとするものもあるが、車体サイズと重量から考えるとそこまでの防御力があるとは思えない。

TABC-79装甲偵察車の車内レイアウトはTAB-77装甲兵員輸送車と同様で、車体前部が操縦室、車体中央部が砲塔を搭載した戦闘室/兵員室、車体後部が機関室となっている。
操縦室内には左側に操縦手、右側に車長が位置する。
操縦室前面には各々装甲フラップ付きの大型のウィンドウが設けられており、充分な前方視界が確保されている。

操縦室上面には各々の乗員用に半円形の前開き式ハッチが設けられており、ここから外部を視察したり乗降を行ったりできる。
また操縦室の前側面にもそれぞれ視察用のペリスコープが備えられており、ここから外部を視察することもできる。
車長席の上面には赤外線サーチライトが装備されており、これは車内から操作できるようになっている。

TABC-79装甲偵察車の戦闘室/兵員室の上面には、前方寄りに1名用の砲塔が搭載されている。
この砲塔はTAB-77装甲兵員輸送車に装備されているものと同じルーマニア・オリジナルのもので、旧ソ連のBTR-70装甲兵員輸送車の砲塔と似ているが、左側に視察用サイトの膨らみがある点が異なっている。
武装はBTR-70装甲兵員輸送車と同じく、旧ソ連製の14.5mm重機関銃KPVTと7.62mm機関銃PKTを同軸に装備している。

機関銃の俯仰および砲塔の旋回は手動で行うようになっており、砲塔上面は密閉されていてハッチ類は設けられていない。
TABC-79装甲偵察車の兵員室内には、4名(2名とも)の兵員/偵察員が搭乗できる。
兵員室の左右側面および車体後面のドアには、それぞれガンポートおよび外部視察用のペリスコープが設けられており、車内から射撃を行うことが可能になっている。

兵員室の左右側面下部にはそれぞれ三角形の前開き式ハッチが設けられており、兵員はここから乗降を行うようになっている。
また後部の機関室右側を通って車体後部に繋がる通路があり、車体後面右側に右開き式のドアが設けられているため、ここから乗降を行うことも可能である。

車体後部に繋がる通路の上面にも左開き式の角形ハッチが設けられており、外部の視察や乗降に利用することができる。
車体後部の機関室には左側に寄せて、サヴィエム社製の798-05N2 直列6気筒ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力154hp)が搭載されている。

排気パイプは左側面に導かれ、機関室上面には冷却空気の吸気、排気口が設けられている。
TABC-79装甲偵察車の機動性能は路上最大速度85km/h、路上航続距離700kmとなっている。
また本車は浮航能力を備えており、水上航行時には車体後部に備えられたウォーター・ジェットを用いて15km/hの速度で航行することが可能である。


●派生型

この種の装輪式装甲車の常として、TABC-79装甲偵察車には基本のAPC(装甲兵員輸送車)型以外に多数の派生型が用意されている。

☆TAB-79A砲兵観測車
本車は砲兵観測用の車両であり、車体は基本的にTABC-79装甲偵察車と同一だが砲塔は搭載されておらず、代わりに観測用のキューポラが設けられている。
車内には所要の観測機材が装備されているが、その詳細については不明である。
武装は、車体上部にピントルマウント式に7.62mm機関銃PKTが装備されているのみである。

☆TAB-79AR 82mm自走迫撃砲
本車は、TABC-79装甲偵察車の自走迫撃砲型である。
車体は基本的に原型と同じだが、車体中央部の戦闘室部分にベースを設けて迫撃砲を搭載している。
砲塔は当然ながら廃止されており、砲塔があった部分の車体上面には観音開き式の円形ハッチが設けられている。

本車はこのハッチを開いて、迫撃砲を車内に搭載したまま射撃することができる。
本車が搭載する迫撃砲はラティル社製の82mm迫撃砲M1977で、射程は4,600m、82mm砲弾は66発を収容できる。
もちろん迫撃砲は車内からだけでなく、車体から降ろして車外でも射撃可能である。
また副武装として、車体上面後部ハッチ部分に7.62mm機関銃を装備するようになっている。

☆TAB-RCH-84化学車両
本車は化学戦用の車両であり、車体そのものは原型とほとんど同じである。
砲塔は撤去されており、車内に化学戦用の所要装備が搭載されている。
装備の詳細は不明であるが、核、化学、生物兵器に対応した自動式センサーを装備していると推測される。

外側から見て目立つのは、車体後部に装備されたマーキング用の小旗である。
これは汚染地域を示すために使用されるが、もちろん乗員が車外に出ること無しに自動的に敷設できるはずである。
本車の乗員は4名で、武装は車体上面のピントルマウントに装備された7.62mm機関銃のみである。

☆TCG-80工兵偵察車
本車は工兵用の偵察車両でTABC-79装甲偵察車から砲塔を撤去しており、武装は車体上面のピントルマウントに装備された7.62mm機関銃のみである。
車両の詳細については、情報不足でよく分からない。

☆ML-A95対空ミサイル・システム
本車はTABC-79装甲偵察車の砲塔を取り外して、代わりに対空ミサイル用ターレットを装備したものである。
このターレットは1名用で、左右に各2基ずつルーマニア国産のCA-95赤外線誘導式短射程対空ミサイルを装備している。

TABC-79装甲偵察車は、1990年代に生産が終了したものと考えられている。
ルーマニアではTAB-C装甲偵察車、AM-425装甲偵察車といったTABC-79装甲偵察車と同一ないし小改良型を海外販売用に提案しているが、今のところ商談はまとまっていないようである。
TABC-79装甲偵察車のルーマニア軍における装備数は1999年の段階で陸軍に394両、海軍歩兵に36両である。
なおこの数字はAPC型だけで、派生型は含まれていない。

ルーマニアはもちろん最近戦争はしておらず、TABC-79装甲偵察車が実戦投入される場面は無い。
しかし、TABC-79装甲偵察車はルーマニア軍部隊のPKO任務で使用されており、これまでアンゴラ、アルバニア等に派遣されている。
部隊での使用実績はそれほど悪くないようで、TABC-79装甲偵察車は初の国産装甲車としては充分な実用性を備えているようである。


<TABC-79装甲偵察車>

全長:    5.64m
全幅:    2.805m
全高:    2.335m
全備重量: 9.275t
乗員:    3名
兵員:    4名
エンジン:  サヴィエム798-05N2 直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 154hp
最大速度: 85km/h(浮航 15km/h)
航続距離: 700km
武装:    14.5mm重機関銃KPVT×1 (500発)
        7.62mm機関銃PKT×1 (2,000発)
装甲厚:  


<参考文献>

・「パンツァー2001年9月号 ルーマニアの軽装甲車 TABC-79」 齋木伸生 著  アルゴノート社
・「パンツァー2011年10月号 現代のルーマニア軍」 鹿内誠 著  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「世界の最新装輪装甲車カタログ」  三修社
・「新・世界の装輪装甲車カタログ」  三修社
・「世界の軍用4WDカタログ」  三修社


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