HOME研究室(第2次世界大戦後〜現代編)装軌/半装軌式装甲車装軌/半装軌式装甲車(ソヴィエト/ロシア)>T-15歩兵戦闘車

T-15歩兵戦闘車





●開発

T-15歩兵戦闘車は、ロシア陸軍が新たに開発した重装軌式プラットフォーム「アルマータ」(Armata:ギリシャ語で兵器を意味する単語”Arma”の複数形)シリーズの一環として開発された重装軌式IFVである。
同じ「アルマータ」シリーズであるT-14戦車と多くのコンポーネントが共通化されており、開発・運用に掛かるコストの低減が図られている。

ロシア陸軍はMBT、軽戦車、装軌式IFV、装軌式APCなど従来運用してきた装軌式車両全般を、重装軌式の「アルマータ」と中装軌式の「クルガニェツ25」の、2種類のプラットフォームを用いた装軌式車両ファミリーで置き換えることを計画しており、T-15歩兵戦闘車はBMP-2歩兵戦闘車とMT-LB装甲輸送・牽引車を代替する重量50t級の重装軌式IFVとして開発された。

T-15歩兵戦闘車の開発は、T-14戦車と同じくニジニ・タギルのウラル貨車工場(UVZ)設計局が担当しており、「オブイェークト149」の試作名称でT-14戦車と並行して開発が進められた。
2016年には数は不明ながら、ロシア陸軍から生産発注を受けている。


●攻撃力

T-15歩兵戦闘車はT-14戦車と同じ「アルマータ」プラットフォームを採用しているものの、車両の用途が違うため車内レイアウトは大きく異なっている。
T-15歩兵戦闘車の車内レイアウトは車体前部がエンジンや変速機を収めた機関室、車体中央部が車長、砲手、操縦手の3名の乗員を収めた乗員室、車体後部が9名の完全武装歩兵を収容する兵員室となっている。

これはIFVとしては一般的な車内レイアウトであるが、他のIFVと大きく異なるのは砲塔が無人化されている点である。
T-15歩兵戦闘車は車体後部に、車内から遠隔操作できる全周旋回式の無人砲塔を搭載している。
この砲塔はトゥーラの制御システム開発設計局(KBP)が開発したもので、「ブメラーング(ブーメラン)BM」もしくは「エポック」(画期的なもの)という名称が与えられている。

T-15歩兵戦闘車の武装は砲塔前面に装備された80.5口径30mm機関砲2A42と、同軸に装備された7.62mm機関銃PKTが各1門ずつ、さらに砲塔の左右側面に9M133「コルネットEM」対戦車ミサイルの連装発射機が1基ずつ装備されている。
この30mm機関砲とATMという武装の組み合わせは、BMP-2歩兵戦闘車を踏襲している。

30mm機関砲2A42は、3UBR8 APDS(装弾筒付徹甲弾)を用いた場合砲口初速1,120m/秒、射距離1,500mにおいて25mmのRHA(均質圧延装甲板)を貫徹可能である。
さらに、M929 APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)を用いた場合は射距離1,000mで55mm、2,000mで45mmのRHAを貫徹することが可能である。

T-15歩兵戦闘車の搭載弾薬数は30mm機関砲弾が500発(徹甲弾160発、榴弾340発)、7.62mm機関銃弾が2,000発となっている。
一方、9M133「コルネットEM」対戦車ミサイルは最大有効射程8,000mで、ERA(爆発反応装甲)対策として二重弾頭を備えており、射距離に関わらず1,300mmのRHAを穿孔可能である。


●防御力

T-15歩兵戦闘車の最大の特徴は、ロシア陸軍の最新鋭MBTであるT-14戦車と共通のプラットフォームを採用することでT-14戦車に匹敵する装甲防御力を付与されている点で、イスラエル陸軍が主力MBTであるメルカヴァ戦車をベースに開発したナメル装甲兵員輸送車とコンセプトが似ている。
T-15歩兵戦闘車の車体と砲塔は圧延防弾鋼板の全溶接構造となっているが、装甲板はSSRI(Steel Scientific Research Institute:鋼科学研究所)が開発した「44S-sv-Sh」と呼ばれる特殊な防弾鋼板が採用されている。

この「44S-sv-Sh」は従来の防弾鋼板に比べて重量が軽く、極度の低温下でも性能が劣化しないという特徴を備えている。
またT-15歩兵戦闘車は車体の前面に複合装甲が導入されており、複合装甲部分は交換可能なモジュール構造になっている。

複合装甲の詳細については不明であるが、T-15歩兵戦闘車の車体前面の装甲防御力はRHA換算で900mmに達するともいわれる。
さらにT-15歩兵戦闘車の車体の主要部には、HEAT弾や対戦車ミサイル等のCE(化学エネルギー)弾対策としてモジュール式のERAが装着されている。

このERAは「マラカイト」(孔雀石)と呼ばれるもので、ERA対策として二重弾頭を備えている最近の対戦車ミサイルに対抗するため、ERA自体が二重構造になっているのが特徴である。
また「マラカイト」ERAはCE弾だけでなく、徹甲弾などのKE(運動エネルギー)弾に対する防御力もそこそこ高いため、T-15歩兵戦闘車は複合装甲とERAの相乗効果によって、車体前面の装甲防御力がKE弾に対してRHA換算で1,000〜1,100mm、CE弾に対して1,200〜1,400mmに達すると推測されている。

これは、M1A2戦車やレオパルト2A6戦車などの西側最新鋭MBTの装甲防御力を上回っており、T-15歩兵戦闘車が世界一頑丈なIFVであることが分かる。
さらにT-15歩兵戦闘車は装甲防御力が高いだけでなく、T-14戦車と同様に「アフガニート」(アフガニスタン人)と呼ばれるAPS(アクティブ防御システム)も装備している。

「アフガニート」APSは車体上部に4基設置されているミリ波レーダー、レーダーおよびレーザー検知装置、ハードおよびソフトキル・ランチャーで構成されており、自車に向かってくる対戦車ミサイルや砲弾をレーダーが感知した際に、左右のフェンダー上に5基ずつ装備されているハードキル・ランチャーから自動的に迎撃用擲弾を発射し、これらを撃墜するようになっている。

また同時に、左右のフェンダー上に2基ずつ装備された12連装のソフトキル・ランチャーから自動的に発煙弾もしくは電子撹乱物質を発射して、敵ミサイルの誘導を妨害するようになっていると思われる。
T-15歩兵戦闘車の車体前面下部にはT-14戦車と同じく簡易型のドーザー・ブレイドが取り付けられているが、これは対戦車地雷などに対する補助装甲の役割も果たしている。

T-15歩兵戦闘車の後部兵員室内には、9名分の座席が向かい合わせに設けられている。
座席はパイプフレームにキャンバス・シートを張ったような簡素な造りだが、対戦車地雷に対する安全性を高めるために床には取り付けられず、天井から吊り下げる形が採られている。
兵員室の後面には乗降用のランプドアが設けられているが、ドアの外側にはCE弾対策の格子装甲が取り付けられている。


●機動力

T-15歩兵戦闘車が搭載しているエンジンについては公表されていないが、恐らくT-14戦車と同じA-85-3A 12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジンが搭載されていると推測される。
このエンジンはチェリャビンスク・トラクター工場(ChTZ)が新たに開発したもので、従来のロシア製MBTに採用されてきたV型ディーゼル・エンジンと異なりX型という独特なシリンダー配置を持っており、従来のエンジンに比べて非常にコンパクトに設計されている。

このA-85-3Aディーゼル・エンジンは、最大1,500hp(1,800hpという説もある)の出力を発揮することが可能である。
一方、T-15歩兵戦闘車が採用している変速機についても詳細は不明であるが、8速もしくは12速の自動変速機が搭載されていると推測されている。
エンジンと変速機は冷却装置等と共にパワーパックとして一体化されており、車体前部の機関室内に収められている。

このパワーパックによって、T-15歩兵戦闘車は路上最大速度65〜70km/hの機動性能を発揮する。
T-15歩兵戦闘車の車体側面には足周りを保護するためのサイドスカートが装着されているが、これは上半分がモジュール構造の「マラカイト」ERA、下半分がCE弾および赤外線センサー対策のラバー薄板となっている。
車体側面の前部にはエンジンの排気口が設けられているため、サイドスカートの前部はこれを覆うように傘型に張り出している。

この張り出しは車体前面まで覆うようなデザインになっているが、これはステルス性を考慮していると思われる。
T-15歩兵戦闘車の足周りはT-14戦車と同様で、片側7個の転輪と片側4個の上部支持輪、起動輪、誘導輪で構成されているが、T-14戦車の起動輪が後部にあるのに対して、T-15歩兵戦闘車の起動輪は前部に配置されている。

また重量バランスが前に偏っているため、第6と第7転輪の間隔を広く、それ以外の転輪の間隔を狭くしている。
T-15歩兵戦闘車のサスペンションは一般的なトーションバー(捩り棒)方式が採用されているが、第1、第2、第6、第7転輪には別に円形の取り付け基部を持つアームが組み合わされている。
これは普通に考えるとロータリー・ダンパーのようなものと推定されるが、一説によるとこれはアクティブ・サスペンションの働きをするパーツであるといわれている。


<T-15歩兵戦闘車>

全長:    
全幅:    
全高:    
全備重量: 48.0t
乗員:    3名
兵員:    9名
エンジン:  A-85-3A 4ストロークX型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 1,500hp
最大速度: 65〜70km/h
航続距離: 550km
武装:    80.5口径30mm機関砲2A42×1 (500発)
        7.62mm機関銃PKT×1 (2,000発)
        9M133コルネットEM対戦車ミサイル連装発射機×2 (4発)
装甲:    複合装甲


<参考文献>

・「パンツァー2020年10月号 対独戦勝75周年記念パレードに登場した注目の新AFV」 藤村純佳 著  アルゴ
 ノート社
・「パンツァー2018年8月号 特集 迷走する?T-14」 小泉悠/ヴォルフガング・シュナイダー 共著  アルゴノー
 ト社
・「パンツァー2015年7月号 ロシアの新型AFVシリーズ「アルマタ」」 古是三春 著  アルゴノート社
・「パンツァー2016年7月号 注目されているロシア軍新AFVシリーズ」  アルゴノート社
・「パンツァー2020年9月号 モスクワ戦勝記念パレード2020」  アルゴノート社
・「パンツァー2021年12月号 軍事ニュース」  アルゴノート社
・「ウォーマシン・レポート48 ニュールック ロシア軍AFV」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「世界の戦車パーフェクトBOOK」  コスミック出版


HOME研究室(第2次世界大戦後〜現代編)装軌/半装軌式装甲車装軌/半装軌式装甲車(ソヴィエト/ロシア)>T-15歩兵戦闘車