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T-14戦車





●開発

T-14戦車は、2015年5月の対独戦勝記念パレードで初めて一般公開されたロシア陸軍の最新鋭MBTである。
現在ロシア陸軍の主力MBTとなっているのは、T-72戦車シリーズ及びそれから発展したT-90戦車シリーズであるが、ロシア陸軍はT-72戦車の流れを汲むこれらの車両と決別し、新規に「アルマータ」(Armata:ギリシャ語で兵器を意味する単語”Arma”の複数形)と呼ばれる戦車、自走砲、歩兵戦闘車などで共用する重装軌式プラットフォームを開発した。

こうして共通のプラットフォームを使用することで、「アルマータ」シリーズは開発・運用に掛かるコストの低減を図っているのである。
現在、「アルマータ」シリーズはMBTタイプのT-14戦車以外に重IFVタイプのT-15歩兵戦闘車、戦車回収車タイプのT-16 BREM-T、152mm自走榴弾砲タイプの2S35「コアリーツィヤSV」、自走多連装ロケットタイプのBM-2(TOS-2)自走火焔放射システムが開発されている。

「アルマータ」プラットフォームの開発を担当したのは、T-72/T-90戦車シリーズの開発を手掛けたニジニ・タギルのウラル貨車工場(UVZ)設計局で、2009年に開発がスタートしている。
MBTタイプのT-14戦車は「オブイェークト148」の試作名称で開発が進められ、2016年初めからロシア陸軍による試験に供されている。

T-14戦車は2015年からUVZで生産が進められており、2020年までに2,300両がロシア陸軍に納入される予定となっている。
しかし報道によるとT-14戦車の1両当たりの価格は約9億円と、従来のロシア製MBTに比べてはるかに高額であるため、計画通りにT-14戦車を調達するのは財政的に不可能なのではないかという見方もある。

またロシア陸軍は近い将来T-14戦車を無人の状態で、外部からの遠隔操作によって運用可能にすることを計画しているという。


●防御力

T-14戦車で最も特徴的なのは乗員が砲塔内に搭乗せず、車長、砲手、操縦手の3名の乗員が全て車体前部に設けられた装甲カプセルの中に搭乗する点である。
戦車において砲塔は最も高い位置に存在するため一番被弾確率が高いことから、乗員の生残性を向上させるためにこのようなコンセプトを採用したものと思われる。

ロシア陸軍はT-14戦車に先立って、無人砲塔を持つT-95戦車(オブイェークト195)の開発を進めていた経緯があり、この装甲カプセルのアイデアはT-95戦車の設計を流用したものと思われる。
装甲カプセル内の乗員配置は右から車長、砲手、操縦手となっており、車長席と操縦手席の上面にはそれぞれ横開き式のハッチが設けられている。
操縦手の操向ハンドルはTバータイプで、ハンドル中央にはインジケーターやスイッチ類が配置されている。

車長と砲手の座席正面には、それぞれに外部視察用と情報処理用の2基のモニターが配されており、主砲の操作を行うコントロール・ハンドルも両者に与えられている。
なお、乗員の生残性向上のために戦車の砲塔を無人化する研究は他国でも昔から行われてきたが、無人砲塔を車体内から操作する場合、どうしても砲塔内から操作する場合に比べて主砲の射撃操作がやり難いという理由で、これまで無人砲塔を採用した戦車が制式採用された前例は無かった。

その代わりに砲塔部の装甲防御力を極力強化し、砲塔内の弾薬が誘爆した際に爆風を外に逃がすブロウオフ・パネルを設ける等して乗員の生残性を確保してきた。
しかし高性能コンピューターを搭載した高度なFCS(射撃統制システム)が実用化され、砲塔の各部に高性能なカメラやセンサー類を装備するようになったことで、無人砲塔でも有人砲塔と同様の主砲操作を行うことが可能になったため、ロシア陸軍はT-14戦車において他国に先駆けて無人砲塔を採用したのである。

ただし、T-14戦車は従来の戦車のように車長が砲塔から身を乗り出して外部を索敵することができなくなったため、車長の指揮能力に支障が生じるのではないかという指摘もある。
T-14戦車の車体と砲塔は圧延防弾鋼板の全溶接構造となっているが、T-14戦車の装甲板はSSRI(Steel Scientific Research Institute:鋼科学研究所)が開発した「44S-sv-Sh」と呼ばれる特殊な防弾鋼板が採用されている。

この「44S-sv-Sh」は従来の防弾鋼板に比べて重量が軽く、極度の低温下でも性能が劣化しないという特徴を備えている。
ロシアは近年、北極に眠る資源を狙って領有権を主張するようになっており、北極圏で他国と武力衝突が起こる事態を想定してMBTにこの特殊な装甲板を導入したのではないかと推測される。

またT-14戦車は砲塔と車体の前面に複合装甲が導入されており、複合装甲部分は日本の10式戦車やフランスのルクレール戦車と同様に交換可能なモジュール構造になっている。
特に乗員が搭乗する車体前部の装甲カプセル部分は防御力が高く、この部分の装甲防御力はRHA(均質圧延装甲板)換算で900mmに達するといわれる。

さらにT-14戦車の車体と砲塔の主要部には、HEAT弾や対戦車ミサイル等のCE(化学エネルギー)弾対策としてモジュール式のERA(爆発反応装甲)が装着されている。
このERAは「マラカイト」(孔雀石)と呼ばれるもので、ERA対策として二重弾頭を備えている最近の対戦車ミサイルに対抗するため、ERA自体が二重構造になっているのが特徴である。

また「マラカイト」ERAはCE弾だけでなく、徹甲弾などのKE(運動エネルギー)弾に対する防御力もそこそこ高いため、T-14戦車は複合装甲とERAの相乗効果によって、車体と砲塔の前面の装甲防御力がKE弾に対してRHA換算で1,000〜1,100mm、CE弾に対して1,200〜1,400mmに達すると推測されている。
ちなみにアメリカ陸軍の最新鋭MBTであるM1A2戦車の場合、車体と砲塔の前面の装甲防御力はKE弾に対してRHA換算で600mm、CE弾に対して1,300mm程度といわれている。

これまでロシア製MBTは西側MBTに装甲防御力で水を開けられていたが、T-14戦車において初めて西側MBTと同等以上の装甲防御力を獲得したことになる。
またT-14戦車は装甲防御力が高いだけでなく、「アフガニート」(アフガニスタン人)と呼ばれるAPS(アクティブ防御システム)も装備している。

「アフガニート」APSは砲塔に4基設置されているミリ波レーダー、レーダーおよびレーザー検知装置、ハードおよびソフトキル・ランチャーで構成されており、自車に向かってくる対戦車ミサイルや砲弾をレーダーが感知した際に、砲塔左右側面の下部に5基ずつ装備されているハードキル・ランチャーから自動的に迎撃用擲弾を発射し、これらを撃墜するようになっている。

また同時に、砲塔の上面左右に2基ずつ装備された12連装のソフトキル・ランチャーから自動的に発煙弾もしくは電子撹乱物質を発射して、敵ミサイルの誘導を妨害するようになっていると思われる。
T-14戦車の砲塔後部には大きなバスルが突き出しているが、この部分は砲塔本体とは別構造になっており、中央部分は主砲弾薬の予備弾薬庫、その左右はCE弾対策の空間装甲を兼ねた雑具箱となっている。

またバスル部分は、砲塔の重量バランスを取るためのカウンター・ウェイトの役目も果たしていると思われる。
T-14戦車の砲塔は全体に平面を多用した角張ったデザインになっているが、これは敵にレーダーを照射された際の反射を極力抑えるための工夫で、ステルス性を考慮している。
T-14戦車の車体前面下部には、T-72/T-90戦車シリーズと同じく簡易型のドーザー・ブレイドが取り付けられているが、これは対戦車地雷などに対する補助装甲の役割も果たしている。


●攻撃力

T-14戦車の主砲はT-72/T-90戦車シリーズと同じ125mm滑腔砲であるが、新たに開発された長砲身の55口径125mm滑腔砲2A82-1Mが採用されている。
この新型125mm滑腔砲の外観上の特徴は、主砲の発射ガスが砲塔内に逆流するのを防ぐための排煙機が装着されておらず、非常にすっきりしたデザインになっている点である。

T-14戦車は無人砲塔を採用しているため、発射ガスが砲塔内に逆流しても車体内の乗員への影響は無いことから、排煙機を未装備とすることでコストの削減と軽量化を図ったものと思われる。
なおT-14戦車は将来的に、より強力な152mm滑腔砲に主砲を換装することも計画されているという。
これはT-95戦車に搭載される予定だった152mm滑腔砲2A83か、その改良型と思われる。

T-14戦車はT-72/T-90戦車シリーズと同じく、主砲の自動装填装置を導入することで装填手を省いている。
T-14戦車の自動装填装置は、T-72/T-90戦車シリーズに採用されていた「カセートカ」(カセット)自動装填装置と同じく、砲塔バスケットの下部に円形に並べられた砲弾と装薬を装弾アームで拾い上げる構造になっているが、主砲の発射速度が10〜12発/分と従来に比べて向上している。

なお125mm滑腔砲2A82-1Mの砲弾としては、対装甲目標用の「ヴァキューム(真空)1」APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)と、ERA対策として二重弾頭を持つHEAT(対戦車榴弾)、非装甲目標用の「テルニク」HE-FRAG(破片効果榴弾)が用意されている。
「ヴァキューム1」APFSDSは900mm長の劣化ウラン弾芯を内蔵しており、射距離2,000mにおいてRHA換算で1,000mm相当の装甲貫徹力を有する。

西側MBTの主砲の中で現在最高の威力を備えている、ドイツのラインメタル社製の55口径120mm滑腔砲の同条件における装甲貫徹力がRHA換算で810mmといわれているので、いかにT-14戦車の主砲が強力か分かる。
一方、「テルニク」HE-FRAGは爆発モードの切り替えが可能で、非装甲目標に対して高い威力を発揮する。
また2A82-1Mは、新たに開発された主砲発射式対戦車ミサイル3UBK21「スプリンター」(短距離走者)を発射することも可能になっている。

この「スプリンター」対戦車ミサイルは敵戦車などの対地目標だけでなく、戦車にとって天敵である地上攻撃ヘリコプターなどの対空目標にも使用が可能である。
T-14戦車の主砲弾薬搭載数は45発で、内32発を自動装填装置、残りを砲塔後部の予備弾薬庫に格納する。
T-14戦車はFCSも高度なものを搭載しており、公式発表によれば戦車サイズの目標捕捉距離は光学照準機を使った昼間で5km以上、熱線映像装置を使った夜間で3.5kmほどとされる。

砲手用光学照準機は倍率4倍と12倍の切り替えが可能で、レーザー測遠機の有効射程は7.5kmとされる。
冗長性を高めるためにこれらのシステムは重複して搭載され、その他に乗員の車外視察用に360度旋回の高解像度カメラが用意されている。
T-14戦車の副武装は7.62mm機関銃PKTMと12.7mm重機関銃Kordが1挺ずつで、7.62mm機関銃は主砲と同軸に装備されている。

一方12.7mm重機関銃は砲塔上面右寄りに設けられた、車長用展望式サイトと一体化したRWS(遠隔操作式武装ステイション)に装備されている。
従来のロシア製MBTでは、12.7mm重機関銃は乗員が砲塔から身を乗り出して操作しなければならなかったが、T-14戦車ではRWSに装備することで乗員が車内から安全に操作できるようになっている。
副武装の搭載弾薬数は7.62mm機関銃弾が1,000発、12.7mm重機関銃弾が300発となっている。


●機動力

T-14戦車のエンジンは、チェリャビンスク・トラクター工場(ChTZ)が新たに開発したA-85-3A 12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジンが搭載されている。
このエンジンは従来のロシア製MBTに採用されてきたV型ディーゼル・エンジンと異なり、X型という独特なシリンダー配置を持っており、従来のエンジンに比べて非常にコンパクトに設計されている。
このA-85-3Aディーゼル・エンジンは、最大1,500hp(1,800hpという説もある)の出力を発揮することが可能である。

一方、T-14戦車の変速機は12速の自動変速機が採用されているが、この変速機は電子制御された機械式変速機であるという説と、流体変速機を採用しているという説がある。
エンジンと変速機は冷却装置などと共に、パワーパックとして一体化されて車体後部の機関室内に収められており、野戦でも30分で交換が可能となっている。
このパワーパックにより、T-14戦車は路上最大速度80〜90km/hの機動性能を発揮するという。

T-14戦車は従来のロシア製MBTに比べて車体が大型化しているため、転輪数がT-72/T-90戦車シリーズの片側6個から1個増えて片側7個となっている。
転輪サイズは約700mmとなっており、外観はT-80戦車シリーズの転輪に似ている。
上部支持輪の数はT-72/T-90戦車シリーズと同じく片側4個で、前方の誘導輪、後方の起動輪と共に足周りを構成する。

なお重量バランスが後ろに偏っているため、第1と第2転輪の間隔を広く、それ以外の転輪の間隔を狭くしている。
T-14戦車のサスペンションは一般的なトーションバー(捩り棒)方式と推測されるが、第1、第2、第7転輪には別に円形の取り付け基部を持つアームが組み合わされている。
これは普通に考えるとロータリー・ダンパーのようなものと推定されるが、一説によるとこれはアクティブ・サスペンションの働きをするパーツであるといわれている。

T-14戦車の車体側面には足周りを保護するためのサイドスカートが装着されているが、これは上半分がモジュール構造の「マラカイト」ERA、下半分がCE弾および赤外線センサー対策のラバー薄板となっている。
またサイドスカートの後部1/3は「マラカイト」ERAではなく格子装甲になっているが、これは起動輪に泥などが詰まった際の整備性を考慮しているのかも知れない。
サイドスカートの後部を格子装甲にしているのは、イスラエルのメルカヴァMk.IV戦車も同様である。

T-14戦車は機関室と車体中央部の戦闘室の間に主燃料タンクを備えているが、機関室の左右にも外装式の予備燃料タンクを備えている。
この予備燃料タンクは、CE弾対策の空間装甲の役割も果たしていると思われる。
T-14戦車の路上航続距離は、予備燃料タンクを装着した状態で500km以上といわれている。


<T-14戦車>

全長:    10.80m
車体長:  
全幅:    3.50m
全高:    3.30m
全備重量: 48.0〜49.0t
乗員:    3名
エンジン:  A-85-3A 4ストロークX型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 1,500hp
最大速度: 80〜90km/h
航続距離: 500km
武装:    55口径125mm滑腔砲2A82-1M×1 (45発)
        12.7mm重機関銃Kord×1 (300発)
        7.62mm機関銃PKTM×1 (1,000発)
装甲:    複合装甲


<参考文献>

・「パンツァー2011年8月号 財政事情と世界情勢の変化からロシア軍MBTとして復帰したT-90戦車」 鹿内誠 著
 アルゴノート社
・「パンツァー2018年8月号 特集 迷走する?T-14」 小泉悠/ヴォルフガング・シュナイダー 共著  アルゴノー
 ト社
・「パンツァー2017年4・5月号 ロシアの新世代MBT T-14」 古是三春/小泉悠 共著  アルゴノート社
・「パンツァー2015年7月号 ロシアの新型AFVシリーズ「アルマタ」」 古是三春 著  アルゴノート社
・「パンツァー2023年6月号 ウクライナ戦車対決(3) M1A1 vs T-14」 三鷹聡 著  アルゴノート社
・「パンツァー2015年6月号 ロシア軍新戦車ついに出現!!」 三鷹聡 著  アルゴノート社
・「パンツァー2013年7月号 ロシアMBTの現状と今後」 古是三春 著  アルゴノート社
・「パンツァー2016年7月号 注目されているロシア軍新AFVシリーズ」  アルゴノート社
・「パンツァー2017年2月号 現代戦車の基礎知識」 毒島刀也 著  アルゴノート社
・「パンツァー2018年3月号 続・現代戦車の基礎知識」 毒島刀也 著  アルゴノート社
・「パンツァー2019年8月号 10式戦車 vs T-14戦車」 藤井岳 著  アルゴノート社
・「ウォーマシン・レポート48 ニュールック ロシア軍AFV」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「世界のMBT」  アルゴノート社
・「世界の戦車パーフェクトBOOK」  コスミック出版


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