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ストライカー装甲車





●ストライカー装甲車の開発

アメリカ陸軍は2000年に、IBCT(Interim Brigade Combat Team:暫定旅団戦闘団)という構想を発表した。
これは1990年代中頃から検討されていた21世紀のアメリカ陸軍のドクトリンや、それに基づく編制・装備をリサーチする「フォース21」の中から生まれたものであった。
そもそもアメリカ陸軍は、将来的には大きく分けて2種類の部隊編制から構成されるように計画を立てていた。

1つは、正規戦に対応するための従来型の重装備編制の機甲師団や機械化歩兵師団で、これらはLF(Legacy Force:伝統的部隊)と呼ばれた。
そしてもう1つがIBCT構想に基づいて新しく編制される部隊で、即応性と緊急展開能力に優れなおかつ、一定水準の高い攻撃力も有することが求められた。

この構想に従ってアメリカ陸軍は第一段階としてまずBCT(旅団戦闘団)6個の編制を計画し、直ちにこのBCTに配備する車両の選定に取り掛かった。
なおこの選定に関しては最初から機動性が高く、維持整備性に優れているということで装輪式車両に限定され、なおかつ1個歩兵分隊(10名)を収容可能なことと規定されていた。

その結果2000年11月には、スイスのモヴァーク社(2010年にジェネラル・ダイナミクス・ヨーロピアン・ランドシステムズ社に改組)製のピラーニャIII装甲車(8×8タイプ)が選定され、これを元にアメリカ陸軍の要求仕様を満たすように改良を加えたものが2002年2月に「ストライカー装甲車」として制式化された。
そしてこのストライカー装甲車が配備されたBCTは、正式にSBCT(Stryker Brigade Combat Team:ストライカー旅団戦闘団)と呼称されるようになった。

ストライカー装甲車はC-130輸送機への搭載が念頭に置かれており、各国空軍の保有する戦術輸送機よりも一桁多いアメリカ空軍の空輸能力が、装甲部隊であっても一定の戦力を一挙に緊急展開させることが可能となるのである。
加えて、アメリカ海軍が計画する沿岸海域戦闘艦にも一個中隊規模の搭載と緊急展開が可能で、地球上いかなる地域へも72時間以内のストライカー旅団部隊の展開が可能とされている。


●M1126歩兵戦闘車

ストライカー装甲車の基本型であるM1126歩兵戦闘車の武装は、車体中央部上面に搭載されたノルウェイのコングスベルグ・ディフェンス&エアロスペース社製のM151「プロテクター」RWS(遠隔操作式武装ステイション)に、ブラウニング社製の12.7mm重機関銃M2を装備しており、この他にサコー・ディフェンス社製の40mm自動擲弾発射機Mk.19も装備できる。

M151 RWSは4秒以内に全周旋回し、昼夜兼行型FCS(射撃統制システム)により目標を識別し正確に射撃を指向する。
部隊間の協同交戦能力には、GPSとEPLRS自動位置測定報告システムとFBCB-2戦闘指揮端末を搭載し、SINCGARS無線システムにより部隊一体となった戦闘を展開可能である。

乗員は2名で兵員室内には9名の完全武装歩兵を収容し、武装は分隊支援火器や軽機関銃、擲弾発射機を装着したカービンを携行する。
M1126歩兵戦闘車の機動力は、搭載する出力350hpのキャタピラー社製3126 直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジンにより路上最大速度は100km/hに達する。

搭載する200リットルの燃料により路上航続距離は最大531km、路外機動でも241kmの走行が可能とされている。
エンジンはアメリカ陸軍の汎用輸送車両と共通性を持たせているため、整備性は高い。
変速機はアリソン社製のMD3066自動変速機(前進6段/後進1段)で、レクスロス社製の独立油気圧式サスペンションにより各車輪が車体制動を図り動揺を局限している他、ハチンソン工業製のランフラット・タイアはCTIS(中央空気圧自動調整システム)により不整地突破能力を最適化する。

これにより超壕能力は2mを発揮するが、水上浮航能力は無い。
操縦特性は4輪駆動と8輪駆動切替式で前部4輪が操舵輪となり、アルヴィンメリター社製のABSブレーキを採用したことで、装輪式装甲車の弱点である重心位置と急操作の相乗による横転を防いでいる。
M1126歩兵戦闘車の防御力は、14.5mm重機関銃弾への耐弾が限界となっている。

車体は高硬化防弾鋼板の全溶接構造で7.62mm徹甲弾に対する全周防御と、部分的に12.7mm重機関銃弾への耐弾能力を備えているが、ドイツのIBD社(ダイゼンロス工業)製のMEXASセラミック防弾増加装甲が132枚装着されており、200m以上の距離から発射された14.5mm重機関銃弾を阻止する。
ただ、この増加装甲は旧ソ連製のRPGに代表される携帯式対戦車火器に対しては脆弱なため、脅威度が高い巡回任務などでは格子装甲を用いて車体を防護する。

近年は紛争地において簡易爆発物IEDによる待ち伏せ攻撃が多用されるため、座席部分は衝撃緩和構造が採用され、車内にはスポールライナーが張られる。
特殊武器攻撃に対してはデルフィ社製のNBC防護装置を搭載し、緊急展開を行う軽装甲部隊の車両としては一定の水準を満たしている。


●派生型

ストライカー装甲車は、各種派生型をもってストライカー旅団戦闘団を構成している。
基本型は前述したM1126歩兵戦闘車であるが、偵察用のM1127装甲偵察車、105mm低反動ライフル砲を装備する火力支援型のM1128戦闘偵察車、120mm迫撃砲を自走化したM1129自走迫撃砲、指揮通信型のM1130装甲指揮車、火力統制を行うM1131前線観測車、工兵用車両であるM1132装甲工兵車、野戦救急車型のM1133装甲救急車、TOW対戦車ミサイルを装備する戦車駆逐車型のM1134自走対戦車ミサイル、特殊武器攻撃に対する偵察と情報収集を行うM1135NBC偵察車の合計10種類が開発されている。

またさらに、155mm榴弾砲を搭載する自走榴弾砲型のストライカー装甲車も実用化が模索された。
ストライカー装甲車はすでに約3,000両が生産され、アメリカ陸軍へ納入されている。
各種派生型309両で構成されるストライカー旅団戦闘団を編制する念頭に装備が進められたが、当初計画では最大55個旅団を編制し、陸軍戦力の中核を構成する計画があったものの、イラクの治安作戦やアフガニスタン山岳掃討任務等により陸軍装備体系の整備計画が変更され、現在では9個旅団に配備されているのみで、加えて完全充足しているのは7個旅団となっている。


<M1126歩兵戦闘車>

全長:    6.88m
全幅:    2.68m
全高:    2.60m
全備重量: 17.2t
乗員:    2名
兵員:    9名
エンジン:  キャタピラー3126 4ストローク直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 350hp
最大速度: 97km/h
航続距離: 531km
武装:    12.7mm重機関銃M2または40mm自動擲弾発射機Mk.19×1
装甲厚:  


<参考文献>

・「パンツァー2017年12月号 30mmチェーンガンを携えた竜騎兵 ストライカー・ドラグーン」 家持晴夫 著  アル
 ゴノート社
・「パンツァー2012年7月号 新時代の戦略を象徴するストライカー装甲兵車」 柘植優介 著  アルゴノート社
・「パンツァー2005年1月号 新しい装備計画により復活したLAV105」 眞光寺清彦 著  アルゴノート社
・「パンツァー2006年10月号 アメリカ陸軍のストライカー旅団(1)」 荒木雅也 著  アルゴノート社
・「パンツァー2006年11月号 アメリカ陸軍のストライカー旅団(2)」 荒木雅也 著  アルゴノート社
・「パンツァー2021年6月号 ストライカー・ファミリーの新シリーズ STRYKER A1」  アルゴノート社
・「パンツァー2004年7月号 ストライカー/LAV-III装輪APC」 城島健二 著  アルゴノート社
・「パンツァー2015年2月号 機動戦闘車 vs ストライカーMGS」 竹内修 著  アルゴノート社
・「パンツァー2006年5月号 CT-CV 105mmMGS (2)」 林磐男 著  アルゴノート社
・「パンツァー2010年8月号 ピラーニャIIIとLAV-III」 竹内修 著  アルゴノート社
・「パンツァー2014年12月号 M1128ストライカーMGS」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「グランドパワー2007年5月号 アメリカ陸軍装輪装甲車 ストライカー」 伊吹竜太郎 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2018年6月号 戦後の米軍装輪式戦闘車輌」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「世界の最新装輪装甲車カタログ」  三修社


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