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M6装甲車





北アフリカ戦線において枢軸軍と激戦を繰り広げたイギリス陸軍は、戦訓により火砲を装備する装輪式装甲車の必要性を認識し、1942年からダイムラー装甲車、AEC装甲車など50口径2ポンド(40mm)戦車砲を装備する4輪装甲車を実戦化した。
またイギリス陸軍の北アフリカでの戦訓を基に、火砲を装備する装輪式装甲車の採用がアメリカ陸軍でも1941年7月に検討され、その試作が発注されることとなった。

1941年9月にはフォード自動車が6輪のT17、GM(ジェネラル・モータース)社傘下のシボレー社が4輪のT17E1という、いずれも53.5口径37mm戦車砲M6を主武装とする試作装甲車を完成させたが、フォード社のT17装甲車は同じ37mm戦車砲を装備したM2A4軽戦車やM3軽戦車より大きく、重いことからアメリカ陸軍では採用されず、激しい消耗戦の最中にあって、1両でも装甲戦闘車両の欲しいイギリス陸軍にとりあえず引き渡されることとなった。

一方、シボレー社のT17E1装甲車の方は砂漠戦訓練所でアメリカ陸軍の試験に供され、そこそこの評価が与えられて「M6」の陸軍制式化番号が付与されたものの、やはりT17装甲車と同じ理由から(T17E1装甲車は4輪車ながら全長はT17装甲車とほとんど同じで、全幅はかえって広く設計されていた)実戦部隊には配備されなかった。
しかし、T17E1装甲車の試験を行ったイギリス陸軍はT17装甲車よりこちらの方を気に入り、「スタッグハウンド」(Staghound:大型の猟犬の1種)の名称でレンドリース向け車両として認定されることとなった。

すでに1941年中にフォード社で250両が生産されていたT17装甲車(イギリス陸軍は「ディアハウンド」(Deerhound:青みがかった被毛の大型の猟犬)と名付けていた)の方はイギリスへ送られることは無く、武装を外してアメリカ本土内の陸軍憲兵部隊で路上パトロール用に限定使用された後スクラップにされてしまった。
T17E1装甲車は1942年10月〜1943年12月にかけて2,844両がシボレー社で生産され、イギリス陸軍に納入された。

T17E1装甲車を供与されたイギリス陸軍はその信頼性を高く評価し、本車を「ヤンキーのダイムラー装甲車」と称した。
T17E1装甲車は本部付車両として配備されることが多く、装甲車連隊には連隊本部と中隊本部に各3両の本車が装備されていた。

T17E1装甲車の車体は前面16〜22mm、側面19mm、後面9mm、上面13mmの圧延防弾鋼板を溶接接合したもので、車内レイアウトは車体前部が操縦室、車体中央部が砲塔を搭載した戦闘室、車体後部が機関室という一般的なものであった。
砲塔は3名用の鋳造製で装甲厚は前面45mm、側面32mmと、この種の装甲車としては異例の重装甲であった。
武装は砲塔防盾に37mm戦車砲M6と、7.62mm機関銃M1919A4を並列に同軸装備していた。

また車体前部右側にもボールマウント式銃架を設けて、7.62mm機関銃M1919A4を装備していた。
搭載弾数は37mm砲弾が103発、7.62mm機関銃弾が5,250発となっていた。
車体後部の機関室には、GM社のトラック用エンジンであるGMCモデル270 直列6気筒液冷ガソリン・エンジン(出力97hp)を2基並列に搭載しており、前進4段/後進1段のハイドラマティック式自動変速機と組み合わされていた。

この動力装置によりT17E1装甲車は路上最大速度55マイル(88.51km)/h、路上航続距離450マイル(724km)の機動性能を発揮した。
車体の左右側面にはドラム缶状の補助燃料タンクが装着可能で、このタンクは緊急時には車内からの操作で投棄することができた。

乗員は車長、砲手、装填手、操縦手、副操縦手の5名で車長、砲手、装填手が砲塔内に位置し、操縦手と副操縦手が車体前部に並んで座った。
副操縦手は、車体機関銃の操作も担当した。
T17E1装甲車の派生型としてはイギリス陸軍の要求により、従来の37mm砲塔に換えて12.7mm重機関銃M2を2挺装備するD8394砲塔を搭載したT17E2対空自走砲が、1944年4月までに789両生産された。

D8394砲塔はオープントップ式の2名用砲塔で、油圧駆動によって約8秒で全周旋回した。
12.7mm重機関銃M2の俯仰角は−10〜+75度となっており、12.7mm機関銃弾の搭載数は2,610発であった。
D8394砲塔の設計はイギリスのフレイザー・ナッシュ社で行われ、生産はアメリカのボルグ・ワーナー社が担当した。

T17E2対空自走砲の乗員は砲塔内の車長兼銃手および装填手と、車体前部の操縦手の3名であった。
車体機関銃は副操縦手と共に廃止され、空いた空間にはNo.19無線機が搭載された。
またイギリス陸軍の要求により、T17E1装甲車の車体にM8 75mm自走榴弾砲の砲塔を搭載したT17E3 75mm自走榴弾砲も開発されたが、試作車1両のみが製作されただけで計画は1943年12月に中止された。

しかし、イギリス陸軍は装甲車連隊向けのCS(Close Support:近接支援)タイプの車両を求めており、イタリア戦線においてはT17E1装甲車の主砲を37mm戦車砲M6から、マティルダII歩兵戦車やクルセイダー巡航戦車のCSタイプに装備された旧式の3インチ(76.2mm)榴弾砲に換装したスタッグハウンドII装甲車を現地改修で使っていた。
またT17E1装甲車の車体に、クルセイダーMk.III巡航戦車の砲塔にイギリス製の36.5口径75mm戦車砲を装備したものを搭載した、イギリスオリジナルのスタッグハウンドIII装甲車も約100両ほど生産された。


<T17装甲車>

全長:    5.537m
全幅:    2.591m
全高:    2.311m
全備重量: 14.515t
乗員:    5名
エンジン:  ハーキュリーズJXD 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン×2
最大出力: 220hp/3,000rpm
最大速度: 96.56km/h
航続距離: 402km
武装:    53.5口径37mm戦車砲M6×1 (111発)
        7.62mm機関銃M1919A4×2 (4,750発)
装甲厚:   6.35〜31.75mm


<T17E1装甲車>

全長:    5.486m
全幅:    2.692m
全高:    2.362m
全備重量: 13.928t
乗員:    5名
エンジン:  GMC 270 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン×2
最大出力: 194hp/3,000rpm
最大速度: 88.51km/h
航続距離: 724km
武装:    53.5口径37mm戦車砲M6×1 (103発)
        7.62mm機関銃M1919A4×2 (5,250発)
装甲厚:   6.35〜44.45mm


<T17E2対空自走砲>

全長:    5.486m
全幅:    2.692m
全高:    2.423m
全備重量: 12.047t
乗員:    3名
エンジン:  GMC 270 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン×2
最大出力: 194hp/3,000rpm
最大速度: 88.51km/h
航続距離: 724km
武装:    12.7mm重機関銃M2×2 (2,610発)
装甲厚:   6.35〜31.75mm


<参考文献>

・「パンツァー2013年1月号 第二次大戦におけるイギリス軍装甲車の系譜(2) 装甲戦闘車と装甲偵察車」 久米
 幸雄 著  アルゴノート社
・「パンツァー2001年1月号 M8装甲車の総て その開発から構造、派生車まで」 白石光 著  アルゴノート社
・「パンツァー2002年11月号 スタッグハウンド装甲車」 白石光 著  アルゴノート社
・「グランドパワー2007年11月号 イギリス軍が採用したアメリカ製装甲車 スタッグハウンド」 後藤仁 著  ガリ
 レオ出版
・「第2次大戦 AFVファイル Vol.3 M3中戦車、巡航戦車クロムウェル&M8装甲車」 遠藤慧 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2014年1月号 第2次大戦 アメリカ装輪装甲車」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2019年2月号 米軍装輪装甲車開発史」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(4) 装輪式装甲車輌:1904〜2000」  デルタ出版
・「第2次大戦 イギリス・アメリカ軍戦車」  デルタ出版
・「世界の戦車・装甲車」 竹内昭 著  学研


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