FV103「スパータン」(Spartan:スパルタ人)装甲兵員輸送車は、FV101「スコーピオン」(Scorpion:蠍)偵察軽戦車のファミリー車両で当初、王立砲兵隊に配備する対空車両スターバーストとして開発が進められたが、最終的に軽装甲兵員輸送車として開発されることになった。 スパータン装甲兵員輸送車の部隊配備は1978年から開始され、1990年代初めには532両が配備されていたがその後多くの車両が退役している。 本車は偵察任務において、スコーピオン偵察軽戦車またはその発達型(30mmラーデン砲L21A1搭載)のFV107「シミター」(Scimitar:三日月刀)装甲偵察車と共同行動をとる、偵察要員用の装甲兵員輸送車である。 そのため元々小さい車体であることもあって、車長、操縦手、無線手の固有の乗員3名以外には兵員を4名しか搭乗させることができない。 ただしスコーピオン軽戦車譲りの軽快な機動力が本車の信条で、重量約8.2tの車体ながらブリティッシュ・レイランド・モーター社製のジャギュアJ60 No.1 Mk.100B 直列6気筒液冷ガソリン・エンジン(出力190hp)により、路上最大速度80km/hを発揮できる。 スパータン装甲兵員輸送車の車体は防弾アルミ板の溶接構造で、フロント・エンジン/フロント・ドライブの駆動方式である。 車体前部左側に操縦手、その後ろに車長が位置し、車長席の上部には8基の視察ブロックを持つNo.16視察キューポラが配置されている。 このキューポラには、車内からリモコン操作のできる7.62mm機関銃GPMGが装備されている。 車長用キューポラの右横には無線手の席とハッチが設けられ、さらにその後ろには兵員室が設けられている。 兵員室の上面には左右に開く大型ハッチがあるが車内は大変狭く、長時間の行動時に4名の兵員が内部に閉じこもるのは著しく困難である。 兵員室内には各兵員用に左側2基、右側1基の視察用ペリスコープが用意されているが、車内から携行火器を発射するためのガンポートは設けられていない。 この兵員室への通常の出入りは、車体後面に設けられた右開き式の乗降用ドアを用いる。 スパータン装甲兵員輸送車は、ZB298偵察レーダーを搭載して機甲連隊内において偵察中隊(5両)を構成するが、他に砲兵隊の着弾観測員や前線航空管制官の前線移動用にも使用されている。 |
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●派生型 1986年に登場したFV120スパータンMCT(Milan Compact Turret)は、スパータン装甲兵員輸送車にミラン対戦車誘導ミサイルの連装発射機を装備する2名用ターレットを搭載した戦車駆逐車ヴァージョンである。 FV104「サマリタン」(Samaritan:サマリア人)はスパータンの救急車ヴァージョンで、後部兵員室部分を嵩上げして看護室としている。 看護室内には担架に乗せた重傷者なら4名、軽傷者なら5名を収容することができる。 サマリタンは救急車であることから、武装は装備されていない。 FV105「サルタン」(Sultan:サルタン人)はスパータンの指揮車ヴァージョンで、後部兵員室部分を嵩上げして作戦室としている。 作戦室内には通常2基の無線機と地図板が備えられ、車長と無線手の他2〜3名の本部スタッフが乗車できる。 武装はスパータンと同じく車長用キューポラに、車内からリモコン操作のできる7.62mm機関銃GPMGが装備されている。 サルタンは、1977年からイギリス陸軍への引き渡しが始められている。 FV106「サムソン」(Samson:旧約聖書に登場する大力の勇士)はスパータンの回収車ヴァージョンで、車体後面に2基の駐鋤が備えられ、車内には最大牽引力12tのウィンチが搭載されている。 サムソンは、CVR(T)シリーズの生産型としては最後の型式となった。 |
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<FV103スパータン装甲兵員輸送車> 全長: 5.125m 全幅: 2.242m 全高: 2.26m 全備重量: 8.172t 乗員: 3名 兵員: 4名 エンジン: ジャギュアJ60 No.1 Mk.100B 直列6気筒液冷ガソリン 最大出力: 190hp/4,750rpm 最大速度: 80.5km/h 航続距離: 483km 武装: 7.62mm機関銃GPMG×1 (3,000発) 装甲厚: |
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<FV104サマリタン装甲救急車> 全長: 5.067m 全幅: 2.242m 全高: 2.416m 全備重量: 8.664t 乗員: 2名 エンジン: ジャギュアJ60 No.1 Mk.100B 直列6気筒液冷ガソリン 最大出力: 190hp/4,750rpm 最大速度: 72.5km/h 航続距離: 483km 武装: 装甲厚: |
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<FV105サルタン装甲指揮車> 全長: 4.80m 全幅: 2.254m 全高: 2.559m 全備重量: 8.664t 乗員: 5〜6名 エンジン: ジャギュアJ60 No.1 Mk.100B 直列6気筒液冷ガソリン 最大出力: 190hp/4,750rpm 最大速度: 72.5km/h 航続距離: 483km 武装: 7.62mm機関銃GPMG×1 (2,000発) 装甲厚: |
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<FV106サムソン装甲回収車> 全長: 4.788m 全幅: 2.43m 全高: 2.354m 全備重量: 8.738t 乗員: 3名 エンジン: ジャギュアJ60 No.1 Mk.100B 直列6気筒液冷ガソリン 最大出力: 190hp/4,750rpm 最大速度: 72.5km/h 航続距離: 483km 武装: 7.62mm機関銃GPMG×1 (2,000発) 装甲厚: |
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<参考文献> ・「パンツァー2014年3月号 ベルギー軍AFV 1970〜2010」 城島健二 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2013年12月号 イギリス機甲部隊発達史」 城島健二 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2001年7月号 海外ニュース」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」 デルタ出版 ・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著 三修社 ・「世界の主力軍用車」 ジェイソン・ターナー 著 三修社 ・「世界の装軌装甲車カタログ」 三修社 ・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「世界の最新陸上兵器 300」 成美堂出版 |
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