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スキンク対空戦車





●開発

第2次世界大戦中、連合軍は戦車の車体をベースとした対空車両をいくつか開発しているが、その中で最も高い評価を受けているのが、カナダ陸軍が開発した「スキンク」(Skink:トカゲ)対空戦車である。
本車の開発は「プロジェクト47」の計画名称で1943年に提案され、同年3月にカナダ陸軍技術開発委員会に承認された。

当初の計画ではスキンク対空戦車を300両生産し、ヨーロッパに展開しているカナダ陸軍とイギリス陸軍に配備することになっていた。
スキンク対空戦車はアメリカ製のM4A1中戦車のカナダ生産型であるグリズリー巡航戦車の車体をベースとし、20mm機関砲を4門装備する全周旋回式の対空砲塔を搭載する車両として開発された。

グリズリー巡航戦車の車体を極力手を加えないで流用するため、対空砲塔の砲塔リング径は戦車型砲塔と同じサイズにされた。
本車の設計はカナダ陸軍技術設計部の手で進められ、試作車はオンタリオ州のウォータールー工業で製作されることとなった。

スキンク対空戦車はグリズリー巡航戦車の車体に、フランスのイスパノ・スイザ社製の70口径20mm機関砲HS404を4門装備する密閉式の全周旋回式砲塔を搭載する形で、木製のモックアップと鋳造製の試作型砲塔が製作された。
砲塔が鋳造製にされた理由は、複雑な形状の砲塔を圧延防弾鋼板を溶接して製作するのが技術的に難しく手間が掛かるためであった。

その後、1944年1月になってヨーロッパに展開していた第21軍集団(カナダ陸軍とイギリス陸軍の混成部隊)が、20mm機関砲についてイギリス製の72.5口径20mmポールステン機関砲に装備を統一することを決定したため、スキンク対空戦車の武装も20mmポールステン機関砲4門に変更されることになり、マウントも含め砲塔の再設計が行われた。

1944年4月に砲塔の再設計が完了し、試験の結果が良好であったことからケベック州のモントリオール機関車工廠に対してスキンク対空戦車の量産化の指示が出された。
しかしすでにドイツ空軍が弱体化し、連合軍が絶対的な制空権を確保していたために本車の必要性は薄れてしまい、結局1944年8月中旬に発注はキャンセルされた。
この時までに製造されたスキンク対空戦車は、完成車3両と8両分の砲塔のみであった。

完成したスキンク対空戦車はヨーロッパに向けて移送され、1945年2〜3月にかけて実戦訓練も兼ねてカナダ第1軍に配備され、ドイツ軍との戦闘に投入された。
すでにドイツ空軍は壊滅状態で敵機が飛んでくることはほとんど無く、本来の任務である対空戦闘で使用されることは少なかったが、スキンク対空戦車が装備する4連装20mm機関砲は地上目標に対してかなり有効であったという。


●構造

スキンク対空戦車の車体は、アメリカ製のM4A1中戦車のカナダ生産型であるグリズリー巡航戦車のものがほぼそのまま流用されていた。
グリズリー巡航戦車の車体はオリジナルのM4A1中戦車のものとほとんど変わらなかったが、履帯がカナダ製のドライピン・タイプのものに変更されており、これに合わせて起動輪もカナダ製の17枚歯のものに交換されていた。

サスペンションは垂直渦巻スプリングを使ったやや古臭い方式で、1組につき2個の直径16インチ(406.4mm)のゴム縁付き複列式転輪が組み付けられ、上部には複列式の支持輪が取り付けられていた。
エンジンは、アメリカのライト航空産業製の航空機用エンジンである「ワールウィンド」(Whirlwind:旋風)R-975-C1 星型9気筒空冷ガソリン・エンジン(出力400hp)を搭載しており、路上最大速度24マイル(38.62km)/h、路上航続距離120マイル(193km)の機動性能を発揮した。

スキンク対空戦車の砲塔は防弾鋼の鋳造製で、装甲厚は前面が2.25インチ(57.15mm)、側/後面が2インチ(50.8mm)という対空戦車の砲塔としては異例の重装甲のものであった。
武装の72.5口径20mmポールステン機関砲は砲塔の前面中央に4連装で搭載されていたが、上方の2門は間隔が広く、下方の2門は間隔が狭く配置されていた。

この機関砲の性能は砲口初速830m/秒、最大射程2,000m、1門当たりの発射速度は450発/分となっていた。
砲塔は基本的には密閉式であったが、砲塔前面には地上目標用のイギリスのヴィッカーズ社製サイトと、対空目標用のアメリカ海軍のMk.9リフレクター・サイトが設けられており、それぞれのサイトには防護用の小ハッチが取り付けられていた。

スキンク対空戦車の乗員は4名で車体前部左側に操縦手、砲塔内の前方中央に砲手、その後方に車長と装填手が位置するようになっていた。
20mmポールステン機関砲の射撃は1門のみでも全門射撃でも可能で、次発装填のローディングにはおよそ20秒を必要とした。

20mm機関砲の俯仰角は−5〜+80度で、機関砲の俯仰と砲塔の旋回は油圧動力により行われた。
エンジン停止時においても射撃が可能なように、スキンク対空戦車には高出力の補助発電機が搭載されていた。
なお、動力が切断された状態でも手動で使用できるように俯仰用と旋回用のハンドルも備えられていたが、動力旋回の場合は砲塔を6秒で全周旋回させることが可能であった。


<スキンク対空戦車>

全長:    5.82m
全幅:    2.62m
全高:    3.00m
全備重量: 28.5t
乗員:    4名
エンジン:  ライトR-975-C1 4ストローク星型9気筒空冷ガソリン
最大出力: 400hp/2,400rpm
最大速度: 38.62km/h
航続距離: 193km
武装:    72.5口径20mmポールステン機関砲×4
装甲厚:   12.7〜57.15mm


<参考文献>

・「パンツァー2007年9/10月号 カナダのスキンク対空戦車」 柘植優介 著  アルゴノート社
・「パンツァー2012年5月号 イギリスの対空戦車」 竹内修 著  アルゴノート社
・「グランドパワー2020年4月号 M10/M36戦車駆逐車」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(1) 装軌式自走砲:1917〜1945」  デルタ出版
・「第2次大戦 イギリス・アメリカ軍戦車」  デルタ出版
・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 齋木伸生 著  光人社


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