イギリス陸軍は1950年代末に、当時使用していたFV601サラディン装輪式装甲偵察車に代わる偵察用装甲車の開発を決めた。 この計画は「ARV」(Armored Reconnaissance Vehicle:装甲偵察車両)と名付けられ、単に偵察に留まらずある程度の歩兵支援能力を備え、対戦車戦闘能力も持たせるという一種の多目的戦闘車両とされた。 1960年には装軌式のCVR(T)と、装輪式のCVR(W)の2本立て(”T”はTrack:履帯、”W”はWheel:車輪の頭文字)で計画が進められることになった。 そして後にCVR(T)はFV101「スコーピオン」(Scorpion:蠍)、CVR(W)はFV721「フォックス」(Fox:狐)としてそれぞれ制式化されている。 CVR(T)の開発作業はアルヴィス社(現BAEシステムズ・ランド&アーマメンツ社)の手で行われ、まず「TV15000」(Test Vehicle 15000:15000ポンド級試験車両)と呼ばれる試験車両が製作された。 このTV15000は砲塔こそ搭載していなかったものの、基本的レイアウトとスタイルは後のFV101スコーピオンと酷似しており、さらに油気圧式サスペンションを備えていたのが特徴であった。 CVR(T)は1966年に2両の部分試作が行われたのに続き1967年9月に試作車17両の製作契約が結ばれ、試作第1号車は1969年1月に完成した。 この試作車は1970年半ばまでに全車が完成して運用試験に供され、同年5月には「FV101スコーピオン」としてイギリス陸軍に制式採用され量産が開始された。 続いて1970年7月にはベルギー陸軍も本車の採用を決め、最終的に派生型も含めて701両が導入されている(FV101スコーピオンが435両、FV107シミターが141両、FV103スパータンが103両、FV102ストライカーが22両)。 FV101スコーピオンの生産型は1972年1月からイギリス陸軍への引き渡しが始められ、1973年2月からはベルギー陸軍への引き渡しも開始されている。 FV101スコーピオンは1,241両が生産され、さらに各種派生型まで含めるとその総生産数は3,467両に達する。 スコーピオン・ファミリーは14カ国で採用され、この内イギリス陸軍の導入数は1,712両を数えている。 ファミリーの基本型となったFV101スコーピオン偵察軽戦車は、空輸性と水上浮航性を持たせるために軽量化を図って車体、砲塔共に7039防弾アルミ板の溶接構造が採られており、防御力は車体と砲塔前面にて旧ソ連製の14.5mm重機関銃弾の直撃に耐えることができ、それ以外では7.62mm機関銃弾の直撃や105mm榴弾の破片に耐えることができる。 戦闘重量約8tと軽量なためC-130輸送機には2両搭載することができ、大型ヘリコプターでも吊り下げて空輸可能である。 車内レイアウトは車体前部右側に機関室、前部左側に操縦室、車体後部に全周旋回式砲塔を搭載した戦闘室を配するというオーソドックスなものにまとめられている。 機関系はエンジンにブリティッシュ・レイランド・モーター社(現ジャギュア・ランドローヴァー社)製の民需用ガソリン・エンジン(ジャギュアJ60 No.1 Mk.100B 直列6気筒液冷ガソリン・エンジン)が用いられており、最大出力を265hpから190hpに減格して使用しているが、最近ではアメリカのカミンズ社製の6BTA5.9 直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力190hp)への換装作業が進められ寿命延長が図られている。 また当初FV101スコーピオンの車体周囲には起倒式の浮航スクリーンが装着されていたが、その後の改修でイギリス陸軍では取り外されている。 TV15000で導入された油気圧式サスペンションは高価であるため、FV101スコーピオンの試作車および生産型では採用されず安価なトーションバー式サスペンションが用いられ、上部支持輪を用いずに片側5個の中直径転輪を備え、前部に起動輪、後部に誘導輪を配している。 砲塔には王立造兵廠が開発した23口径76.2mmライフル砲L23が装備されているが、これはFV601サラディンに装備された76.2mmライフル砲L5の改良型で、王立小火器工廠製の7.62mm機関銃L43A1が同軸機関銃として装備され主砲の照準銃としても用いられている。 このためFV101スコーピオンの照準機材は砲手の赤外線暗視装置付き直接照準機と同軸機関銃という極めてシンプルなもので、高度な装備は備えていない。 砲の俯仰角は、−10〜+35度となっている。 砲塔の駆動はハンドルを用いた手動式だが、一部の車両では動力駆動装置が装備されている。 なおFV101スコーピオンの近代化改修型として、主砲をベルギーのコッカリル社製の90mm低圧ライフル砲Mk.3に換装した「スコーピオン90」が1981年に登場しており、1988年にベネズエラが購入した他インドネシアなどにも輸出されている。 スコーピオン90は車体関係は76.2mm砲型(FV101)と同じだが、戦闘重量が8.723tに増加しているため路上最大速度はFV101の80.5km/hから72.5km/hに低下している。 主砲の36口径90mm低圧ライフル砲Mk.3は最大有効射程4,000m、使用弾は多様な種類が使用可能でHE、HEAT、HESH、SM、キャニスター弾などを発射できる。 砲の俯仰角は、−8〜+30度である。 |
|||||
<FV101スコーピオン軽戦車> 全長: 4.794m 全幅: 2.235m 全高: 2.102m 全備重量: 8.073t 乗員: 3名 エンジン: ジャギュアJ60 No.1 Mk.100B 直列6気筒液冷ガソリン 最大出力: 190hp/4,750rpm 最大速度: 80.5km/h 航続距離: 644km 武装: 23口径76.2mmライフル砲L23A1×1 (40発) 7.62mm機関銃L43A1×1 (3,000発) 装甲厚: |
|||||
<スコーピオン90軽戦車> 全長: 5.288m 車体長: 4.794m 全幅: 2.226m 全高: 2.102m 全備重量: 8.723t 乗員: 3名 エンジン: ジャギュアJ60 No.1 Mk.100B 直列6気筒液冷ガソリン 最大出力: 190hp/4,750rpm 最大速度: 72.5km/h 航続距離: 756km 武装: 36口径90mm低圧ライフル砲Mk.3×1 (33発) 7.62mm機関銃L43A1×1 (3,000発) 装甲厚: |
|||||
<参考文献> ・「パンツァー2015年8月号 ユニオンジャックの尖兵 シミター装甲偵察車」 柘植優介 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2008年7月号 スコーピオン偵察車輌シリーズ」 佐藤慎ノ亮 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2004年4月号 イギリスのスコーピオン/シミター装甲偵察車」 アルゴノート社 ・「パンツァー2014年3月号 ベルギー軍AFV 1970〜2010」 城島健二 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2014年1月号 スペイン軍戦闘車輌の40年」 大竹勝美 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2013年12月号 イギリス機甲部隊発達史」 城島健二 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2012年9月号 アイルランド騎兵学校の装備車輌」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「世界の戦車(2) 第2次世界大戦後〜現代編」 デルタ出版 ・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著 三修社 ・「世界の装軌装甲車カタログ」 三修社 ・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版 ・「徹底解剖!世界の最強戦闘車両」 洋泉社 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「世界の最新陸上兵器 300」 成美堂出版 |
|||||
関連商品 | |||||
AFVクラブ 1/35 イギリス軍 CVR(T) FV101スコーピオン偵察戦車 プラモデル AF35S02 | |||||
バイソンデカール 1/35 湾岸戦争1991 イギリス装甲車#3 FV432 FV101 FV106 FV107用デカール 35150 |