HOME研究室(第2次世界大戦後〜現代編)装輪式装甲車装輪式装甲車(イギリス)>AT105サクソン装甲車

AT105サクソン装甲車





サクソン装甲車は、GKNディフェンス社(1998年にアルヴィス社と合併)が成功作となったAT104装甲車の発展型として自社資金で開発した大型の4×4型装輪式装甲車で、「AT105」の名称で1975年に試作が開始された。
生産仕様車は1976年に登場したが発注は無く、そのまま消え去るものと思われた。
しかし1983年初めにイギリス陸軍が採用を決め、47両が発注された。

イギリス陸軍への引き渡しは1984年に開始され、第1次発注の47両に続いて247両、200両、30両と発注が追加されていった。
1989年初めまでには、合計524両のサクソン装甲車がイギリス陸軍に引き渡された。
その後、約2,000万ポンドでおよそ100両の改良型サクソン装甲車が追加発注されて生産が続いている。

他の採用国にはナイジェリア(75両)、マレーシア(44両)、オマーン(22両)、アラブ首長国連邦(10両)、香港(7両)、クウェート(5両)、バーレーン(2両)がある。
サクソン装甲車は主力戦車や歩兵戦闘車と共に戦場で用いられる野戦兵器ではなく、IRA(Irish Republican Army:アイルランド共和国軍)などのテロや暴動鎮圧用の警備・輸送装甲車として設計されている。

車体は圧延防弾鋼板の溶接構造で、外見はちょうど鉄の箱を4個の車輪の上に被せたような古めかしい姿をしている。
その分車内スペースは広く、10名の完全武装の兵員を後部兵員室に乗車させることができる。
車体の装甲は7.62mm弾の直撃と、10mまでの距離での155mm榴弾の空中炸裂に耐える防御力を持っており、装甲の内側には26mm厚の断熱材が施されている。

車体の下面は地雷や爆弾の爆発のエネルギーを横に逃がせるようにV字型をしており、車体下での9kgまでのTNT爆薬の爆発に耐えられる。
車体の前面はやや斜めにカットされており、パワーユニットを収める機関室を車体前部左側に置き、反対の前部右側に操縦室を配している。
操縦室は、3方に比較的広い視界の防弾ガラスの窓が組み込まれている。

イギリス軍仕様車は右ハンドルだが、輸出向けには左ハンドルのモデルも作られる。
操縦室には、天井に設けられたハッチから出入りするようになっている。
基本型であるサクソンLHD装甲兵員輸送車では、操縦手席の背後に立派な車長用の四角いキューポラが突き出ていて、各面には視察用ブロックが備えられている。
自衛用の武器は、キューポラ部にマウントを介して7.62mm機関銃が搭載される。

車体の後半は兵員室となっており、室内には左右両側にベンチシートが設けられており、兵員は5名ずつが左右に内側を向いて座る。
車体後面には大きな観音開き式のドアがあり、車体の左右側面にもドアが付けられるが、イギリス軍仕様車では右側面にだけドアがある。

またイギリス軍仕様車では、車体両側面の後半部に前後に長い収納箱を装備している他、車体後面ドアには視察用ブロックとガンポートが2カ所装備されている。
ガンポートは車体の両側面と車体前面左側にも各1カ所ずつ装備されており、これまでに各ポートに装備可能なボール型マウントも開発されているという。

パワーユニットは、ベドファード社製のモデル500 直列6気筒液冷ディーゼル・エンジン(164hp/2,800rpm)と、アメリカのアリソン社製のAT-545自動変速機(前進4段/後進1段)の組み合わせで、11.66tの戦闘重量に対して路上最大速度96km/hを得ている。
燃料搭載量は153リットルで、路上航続距離は480kmになる。
これらエンジン、変速機などパワーユニットには市販車と同じものが流用されている。

イギリス陸軍ではサクソン装甲車を始めとして、この種の小型/中型車両のパーツを極力統一しており、運用コストを下げる努力も見られる。
サクソン装甲車のファミリーには基本型の装甲兵員輸送車の他に、装甲指揮車、ARWEN37V対人擲弾発射機付きの治安維持車、5,000kgウインチ搭載の装甲回収車、装甲救急車などがある。

1990年に登場したサクソン・パトロール装甲車はサクソン装甲車に近代化改修を施したタイプで、エンジンがアメリカのカミンズ社製の6BT 直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(160hp/2,000rpm)に換装されており、車体最前部には頑丈なバリケード除去装置が付き、車体前面に露出していたラジエイター・グリルにはカバーが付くようになった。

サクソン・パトロール装甲車は1992年からイギリス陸軍向けに生産が開始されており、北アイルランドの治安維持部隊に配備されている他、ボスニアPKO活動の警備任務にも派遣されている。


<サクソンLHD装甲兵員輸送車>

全長:    5.169m
全幅:    2.489m
全高:    2.628m
全備重量: 11.66t
乗員:    2名
兵員:    10名
エンジン:  ベドファード・モデル500 直列6気筒液冷ディーゼル
最大出力: 164hp/2,800rpm
最大速度: 96km/h
航続距離: 480km
武装:    7.62mm機関銃GPMG×1 (1,000発)
装甲厚:


<参考文献>

・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー
・「新・世界の装輪装甲車カタログ」  三修社
・「世界の装輪装甲車カタログ」  三修社
・「世界の軍用4WDカタログ」  三修社
・「世界の軍用4WD図鑑PART2」  スコラ


HOME研究室(第2次世界大戦後〜現代編)装輪式装甲車装輪式装甲車(イギリス)>AT105サクソン装甲車