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レイピア対空ミサイル・システム





●レイピア対空ミサイル・システム

「レイピア」(Rapier:細身で先端の鋭く尖った刺突用の片手剣)は、イギリス陸軍の要求で1960年代初期に開発が始められた対空ミサイル・システムである。
1963年にブリティッシュ・エアロスペース(BAe)社の誘導兵器部門に開発契約が与えられ、本格的な開発がスタートした。

レイピアの起源はイギリス陸軍のPT428対空ミサイルの開発で、それが1963年にET.316システムに発展しレイピア対空ミサイル・システムとなった。
1970年に実用化され、1971年からイギリス陸軍に配備が開始された同システムは最大有効射程6,500m、最大有効射高3,000m、当初は航空基地などの拠点防空兵器として位置付けられていた。

このため、発射機を始めとする各システムの形態は牽引方式で移動する地上設置型であったが、地上部隊向けの機動防空システムの必要性が高まったことから、1974年初めにBAe社の誘導兵器部門の手で自走型レイピアの開発が開始された。
コストなどの問題から既存の車両をベースとして流用する方針が採られ、検討の結果車体として選ばれたのはアメリカのFMC社製のM548装軌式貨物輸送車であった。

M548貨物輸送車はM113装甲兵員輸送車のファミリーとして多くの国で採用されており、開発当初から強く輸出を意識していたことが分かる。
M548貨物輸送車の車体後部に牽引型レイピアの発射機を搭載した試作車は1974年8月に完成し、1976年にはFMC社の手で製作された生産仕様の車体も完成して、同年中にこの車体にミサイル・システムを搭載した試作車が完成している。

自走型レイピアの初のカスタマーとなったのはイランで、1979年から生産が開始される計画であったが政権交代によりキャンセルされてしまった。
続いてイギリス陸軍も本車の試験を実施して1981年6月に50両を発注、生産型は1983年1月より引き渡しが始められたが、フォークランド紛争終了後さらに20両が追加されている。

イギリス陸軍ではこの70両を第12、第16、第22軽防空連隊に配備して運用したが、1990年代半ばには後継のスターストリーク対空ミサイル・システムにその座を譲って退役した。
自走型レイピアの生産型では、M548貨物輸送車の車台を用いて新設計された装甲キャビンが設けられ、車長、ミサイル操作員、操縦手の3名が位置し、キャビンの上部にはミサイル操作員が用いる光学追跡・照準機が装備されている。

この光学追跡・照準機は通常キャビン内部に引き込まれており、ミサイルを射撃する際に引き出される。
後部の荷台にはレイピア対空ミサイル・システムが載せられ、中央の円筒形レドームに捜索レーダーと敵味方識別装置、そしてミサイルに誘導電波を発信する送信アンテナが収容されている。
このレドームを挟むような形で装備された装甲ボックスに、左右それぞれ4発ずつのレイピア対空ミサイルが収められている。

レイピア対空ミサイル・システムは半自動指令照準線誘導方式を採用しており、操作員は追跡・照準機の中央に目標を収めていれば、誘導電波により自動的に目標にミサイルが指向される。
低空目標の迎撃を目的としているため近接信管は装備せず、直撃のみで炸裂するため炸薬量は1.4kgと少ない。


●レイピア2000対空ミサイル・システム

レイピアはイギリス以外にも12カ国で採用され、西側の代表的な短距離・低空域対空ミサイル・システムの1つとなった。
ミサイル・システム自体はその後も改良が続けられ、1980年代までに「レイピアII」、「レイピア・ダークファイア」といった改良型も生産されたが、1983年からシリーズの最新型である「レイピア2000」の開発が始められた。

開発の目的は発射速度の増加、作戦上の柔軟性向上、ミサイル弾体の改良、耐ECM能力強化などである。
1995年に実用化されたレイピア2000は、ミサイル本体の外観こそ変わらないものの最大射程と最大射高が伸び、エレクトロニクスが一新されたことで情報処理能力と命中精度が大幅に向上して、本格的な全天候下での運用能力が実現した。

システムは電子・光学追跡装置付きの8連装ミサイル発射機、新型の3次元捜索レーダー、追跡用レーダー、オペレイター制御装置、戦術統制装置から成り、移動時にはそれぞれ15発のミサイルを搭載する3両の4t中型トラックに分載・牽引される。
そして部隊の布陣時には、これらの各装置はデータ・バス回線で相互に接続される仕組みになっている。

ミサイルの本体は「レイピアMk.2ミサイル」と呼ばれ、改良されたロケット・モーターと誘導装置によって8,000m余りの最大有効射程と5,000mの最大有効射高を得ている他、最大30G近い荷重に耐える高機動性とマッハ2.5に達する最大飛翔速度を実現している。
発射機中央部の球形赤外線追跡装置は、捜索レーダーが捉えた目標の熱線(赤外線)映像を昼夜間の別無く捜索・追跡し、ミサイルの誘導・交戦精度をこれまでよりも格段に向上させている。

新型の3次元捜索レーダーは広域バンド受信機と高速ディジタル信号処理機能を持ち、敵味方識別能力だけでなく敵の電子妨害に対する強い抵抗力を持つと同時に、多目標同時追跡能力と自動識別能力を備え、ヘリコプターや小型の無人観測機大の小目標まで捉えることが可能である。

システムに高度な全天候性を実現しているのは新世代のブラインド・ファイア・レーダーで、シャープなビームで目標とミサイル双方への高精度な追跡能力を実現し、コマンド・リンクによって全てのセンサーとミサイルの機能を一体化させている。
このためレイピア2000では、2つの目標に対する連続攻撃能力も実現した。

最初のレイピア2000システムは1995年2月にドイツに駐屯するイギリス軍部隊に配備され、部隊試験、改良期間を経て1996年4月から作戦配備となった。
現在は、イギリス陸・空軍に配備されている。


<自走型レイピア>

全長:    6.40m
全幅:    2.80m
全高:    2.78m
全備重量: 14.01t
乗員:    3名
エンジン:  デトロイト・ディーゼル6V-53 2ストロークV型6気筒液冷ディーゼル
最大出力: 212hp/2,800rpm
最大速度: 48km/h(浮航 5.6km/h)
航続距離: 300km
武装:    レイピア対空ミサイル4連装発射機×2 (8発)
装甲厚:   5〜25mm


<レイピアMk.1対空ミサイル>

全長:       2.24m
直径:       0.133m
翼幅:       0.381m
発射重量:    42.6kg
最大飛翔速度: マッハ2.0
誘導方式:    照準線指令誘導
最大有効射程: 6,500m
最大有効射高: 3,000m


<レイピアMk.2対空ミサイル>

全長:       2.24m
直径:       0.133m
翼幅:       0.381m
発射重量:    42.6kg
最大飛翔速度: マッハ2.5
誘導方式:    照準線指令誘導
最大有効射程: 8,000m
最大有効射高: 5,000m


<参考文献>

・「パンツァー1999年9月号 対空ミサイル スターストリーク」 小林直樹 著  アルゴノート社
・「パンツァー1999年4月号 海外ニュース」  アルゴノート社
・「大図解 世界のミサイル・ロケット兵器」 坂本明 著  グリーンアロー出版社
・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946〜2000」  デルタ出版
・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著  三修社
・「世界の最強陸上兵器 BEST100」  成美堂出版
・「最新陸上兵器図鑑 21世紀兵器体系」  学研
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー
・「ミサイル事典」 小都元 著  新紀元社


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