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質問5: 戦車砲弾について教えてください

戦車砲から発射される主な砲弾の種類
英語の名称 略 号 日本語の名称 解   説 威力の形
Armor Piercing AP 徹甲弾 高張力鋼などで作られた全口径砲弾。 運動エネルギー
Armor Piercing High Explosive APHE 徹甲榴弾 AP弾の中をくり抜き、炸薬を入れたもの。弾底信管を持つ。 運動エネルギー
Armor Piercing Capped APC 被帽徹甲弾 APHE弾の先端に、弾着時跳飛しにくいよう滑り止めキャップを付けたもの。 運動エネルギー
Armor Piercing Capped Ballistic Capped APCBC 風帽付被帽徹甲弾 APC弾の先端に、空気力学的抵抗を減少させるため風帽(BC:Ballistic Cap)を付けたもの。 運動エネルギー
High Velocity Armor Piercing HVAP 高速徹甲弾 砲弾の外形はAP弾と同じだが、同じ着速であるならば効果が同じタングステンまたは鋼の小弾芯を内蔵し、外側は軽い金属で形成される。従って、同じ大きさのAP弾よりも軽くすることができ、同じ発射薬であれば砲口初速が増加し、装甲貫徹力が増す(ドイツ名APCR)。 運動エネルギー
Armor Piercing Discarding Sabot APDS 装弾筒付徹甲弾 HVAP弾の外側が砲口を離れると飛散し、弾芯のみが飛翔する形式の砲弾。これにより、HVAPの欠点である「射距離が増すと軽さゆえ空気抵抗の影響が大きく、AP弾に比べ貫徹力が落ちてしまう」のを改善している。別名サブキャリバー弾(減口径弾)ともいわれる。
ヴィッカーズL7系の105mm戦車砲で撃つものは飛翔体がHVAPの形態をしているので、HVAPDS(装弾筒付高速徹甲弾)と呼ばれる。
運動エネルギー
Armor Piercing Fin Stabilized Discarding Sabot APFSDS 装弾筒付翼安定徹甲弾 減口径弾を突き詰めると細く長くするのが有利になる。しかしながら、弾芯直径と長さの比(L/D)が概ね5を超えると回転による旋回安定が出来なくなるので、翼安定方式となる(実際はスロースピンしたほうが安定が増すので無回転というわけではない)。アメリカでは装弾筒の付いた翼安定徹甲弾という意味で「APFSDS」と呼ぶが、ドイツでは翼安定方式の装弾筒付徹甲弾ということで「APDSFS」と文字配列が変わる。 運動エネルギー
High Explosive Anti Tank HEAT 対戦車榴弾 モンロー/ノイマン効果を利用した成形炸薬弾頭を持つ砲弾。 化学エネルギー
High Explosive Squash Head HESH 粘着榴弾 爆発の効果により敵戦車の内側の装甲板を剥離させる砲弾。 火薬エネルギー
High Explosive HE 榴弾 戦車以外の目標に使われる砲弾。着弾すると内部の炸薬により砲弾が炸裂し、周囲に飛散した破片と爆風でダメージを与える。 火薬エネルギー

上の表は主な戦車砲弾の種類を示したものです。
これらの内、対戦車砲弾の主流である運動エネルギー弾と成形炸薬弾について説明します。

1.運動エネルギー弾

  硬くて質量の大きい金属(昔は鋼鉄が主流でしたが、最近はタングステンや劣化ウランなどより硬く質量の大
  きい金属を加えた合金が主流になっています)を加工して作った砲弾を、できるだけ大きい速度で発射するも
  のです。
  その破壊力は、
   ★砲弾の運動エネルギー(E)=砲弾の質量(m)×飛翔速度(v)2/2
  で表されます。
  つまり、力任せに相手を打ちのめす攻撃方法です。
  数式から見ても分かるとおり、砲弾の質量を大きくするより飛翔速度を向上させる方が効果的といえます。
  ただし砲弾の飛翔速度が一定以上大きくなると、それ以上いくら速度を上げても装甲貫徹力が頭打ちになって
  しまうことが知られているため、より大きな装甲貫徹力を得るには砲弾の質量も大きくしなければならず、次第
  に戦車砲は大口径化する傾向にあります。


2.成形炸薬弾(モンロー/ノイマン効果弾)

  炸薬を円柱状に成形しその片側に円錐形の窪みを作ったものを反対側から燃焼させると、円錐形の窪みの
  頂点に燃焼が達した時点で超高速の衝撃波が発生します。
  この現象はアメリカの科学者チャールズ・モンローが1885年(1888年説も)に発見したもので、発見者の名前を
  採って「モンロー効果」と呼ばれます。
  その後ドイツの科学者エゴン・ノイマンが1910年に、モンロー効果を発生させるために使用する成形炸薬の円
  錐形の窪みに金属板の内張り(ライナー)を被せると、モンロー効果によって超高速の衝撃波が発生した際に
  衝撃波の高い圧力に晒された部分のライナーを構成する金属が、擬似流体化して超高速で飛び出していくこ
  とを発見しました。
  この現象は発見者の名前を採って、「ノイマン効果」と呼ばれます。
  金属のジェット噴流が発生することで、モンロー効果による衝撃波のみの場合に比べてより大きなエネルギー
  を目標に与えることができるようになりました。

  成形炸薬弾は、このモンロー/ノイマン効果によって発生する超高速の金属ジェット(飛翔速度は7〜8km/秒
  という人工衛星並み)を利用して、敵戦車の装甲板を穿孔する化学エネルギー弾です。
  成形炸薬弾が敵戦車の装甲板に命中すると超高速の金属ジェットを発生させ、このジェット噴流の高い運動エ
  ネルギーに晒された部分の装甲板を超高圧状態にします。
  超高圧状態になった部分の装甲板は機械的強度を無視する形で擬似流体化され、ジェット噴流のエネルギー
  で内側に吹き飛ばされて装甲板に穴を開けられてしまいます。
  そしてこの開口部からは数千度の超高温の爆風および砲弾の破片が車内に噴き込み、乗員を殺傷し搭載さ
  れている弾薬を誘爆させます。

これらの内、より威力があるのは運動エネルギー弾ですが、運動エネルギー弾の威力を充分発揮させるには高初速で命中精度の高い砲(そして射撃時の反動を支える安定したプラットフォーム)が必要となります。
一方成形炸薬弾の威力は速度と無関係なので、発射する砲は低初速の簡易なものでかまいません。
従って歩兵部隊や対戦車部隊はHEAT弾を発射する無反動砲や、成形炸薬弾頭を持つ対戦車ミサイルを用いて戦車に対抗するのです。
成形炸薬弾は安価な兵器ですが、戦車が空間装甲、複合装甲(特にセラミックを採用)を採り入れ始めるとその効力は低下します。
そのため、成形炸薬弾を用いた対戦車兵器も次第に大型化を余儀なくされているようです。

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